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〇カラオケボックス二階・廊下(夜)

トイレから出て来る英理、騒々しい音に反応する。
踊り場から見下ろすと、一階フロアのパーティースペースで結婚式の二次会が行われている。
流れる新郎新婦の映像。
グラスを片手に会話を楽しむ客たち。
部外者の英理、遠くから眺めている。

ジェニファーの声「楽しそうだね」
英理「!」

いつの間にかジェニファーがいる。

ジェニファー「なかなか戻らないから、どうしたのか思ってさ」
英理「……そう」
ジェニファー「どしたの?」
英理「……わたし、いないんだ。ああいう友だち」
ジェニファー「友達?」
英理「あっちじゃルックスがちがう、こっちじゃ考えてることがちがう」
ジェニファー「だってそれは先生が帰国子―」
英理「やめて!」
ジェニファー「え?」
英理「そのフレーズ、イヤなの」
ジェニファー「先生?」
英理「わたしは行きたくて海外へ行ったんじゃないの。パパの仕事のために向こうで暮らしてただけ。こっちならきっとわたしをわかってくれる、そう思ってた。でも帰国子女っていうだけでバイリンガルとかエリートのレッテルを貼られて」
ジェニファー「…………」
英理「わたしはエイリアンなんかじゃない! ただの日本人なの!」
ジェニファー「…………」
英理「ねえ、どうしてこんな思いをしなきゃならないの?」
ジェニファー「だから何なの?」
英理「……え?」
ジェニファー「私に慰めてほしいわけ?」
英理「……ジェニファー」
ジェニファー「ずっと思ってたんだ。何で先生は周りを気にしてるんだろうって」
英理「じゃあ、どうしてあなたはそんなにポジティブでいられるのよ?! わたしもあなたも同じでしょ!!」
ジェニファー「……違うよ。全然違う!!」
英理「え?」
ジェニファー「私は絶対に周りのせいにしないもん!」
英理「…………」
ジェニファー「私だってエイリアンだった。先生と同じで、幼い頃から周りと違うことが気になってた」
英理「じゃあ―」
ジェニファー「でも逃げたりしなかった。周りのせいにしたって、何も変わらないってわかってるから」
英理「…………」
ジェニファー「だから自分らしくいようって決めたの! 見た目や言葉やルールの違いが何だって言うの? 何で先生は自分らしくいようって思わないの?」
英理「―もういいよ」
ジェニファー「自分の変えられるのは自分だけなんだよ?」
英理「もういい!」

英理が去ろうとして、

ジェニファー「(英理の背に向かって) 私は先生が帰国子女だからって接してたわけじゃない!!」

英理、足を止める。

英理「…………」
ジェニファー「私は友達じゃないんだね?」

ジェニファーが足早に去っていく。
立ち尽くす英理、再び一階を見下ろす。
新郎新婦に群がる招待客たち。

〇グッドランゲージ××校・事務所

T「数週間後」
英理、ジェニファーのカルテを手に電話している。
机の上を指先で小刻みに叩いたり、時計を確認したり。
受話器越しに不通のアナウンス。
電話を切る英理の前に加瀬木が咳払いをしながらやってくる。

加瀬木「やってくれたな」
英理「…………」
加瀬木「欠席、今日で何度目だ?」
英理「…………」
加瀬木「今度はどんなクレームだ?」
英理「…………」

〇同・玄関前

出入口に立つジェニファー、寂しげな顔を浮かべている。
背後から菜々実がやってくる。

菜々実「こんにちは」
ジェニファー「……どうも」
菜々実「あれ、あなたは確か―」

挨拶するジェニファー。

〇もとの事務所

英理、時計を気にしている。
腕組みをしている加瀬木。

加瀬木「仕方ない。次のレッスンまで就職の勉強でもしてろ」
英理「……」
加瀬木「ただし、タイムカードは一度切っておけよ」

加瀬木が去っていく。
英理、ムッとする。
菜々実がやって来て、

菜々実「あ、エリちゃん」
英理「おつかれさまです」
菜々実「これ、ジェニファーちゃんから」
英理「え? ジェニファーが?」
菜々実「さっき入口でバッタリ」
英理「(行こうとして)」
菜々実「もう帰っちゃったよ」
英理「…………」
菜々実「何だろうね、これ?」

菜々実から紙切れを受け取る英理、紙を広げて一瞬驚くがポケットにしまう。

菜々実「あの子、何だって?」
英理「……いえ、べつに」
菜々実「何か書いてあるんでしょ?!」
英理「ただの……クレームですよ」
菜々実「は? わざわざそんなこと書くわけ―」

そそくさと去っていく英理。

菜々実「エリちゃん!」

<最終話へつづく>

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