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登場人物
美山鋭子(22) 大学4年生
並川均一(46) 大学4年生

〇鋭子の部屋(早朝)
棚の上にいくつもの賞状やトロフィー。
そしてドレス姿の鋭子とタキシードの並川が組んで踊っている写真。
スーツに着替えた髪上げ済みの鋭子がキャリーバッグにドレスをしまうと鏡に向かって化粧をし始める。

〇**大学・外観(朝)
「全日本学生競技ダンス選手権」の看板。
入口はスーツ姿の学生たちで賑わっている。

〇同・アリーナ
学生たちが校旗を飾り付けている。
開いているドアからアリーナ内のステージを見ている鋭子、キャリーバッグをその場に置いてステージまで歩いていく。

場内にはワルツが流れている。
ステージ上にひとり裸足でワルツを踊り始める鋭子。
なめらかに踊る鋭子に見とれる学生たち。
音楽が終わり、踊りをやめる鋭子。

髪をオールバックに固めたスーツ姿の並川均一(46)がやってくる。

並川「美山さん」

振り返る鋭子。

鋭子「何だ、並川か」
並川「何だとは何ですか?」

手を前に出す鋭子。

鋭子「練習」
並川「はい」

背筋を伸ばし、鋭子と組む並川。
鋭子がカウントを口で数えながら、しばしなめらかなワルツを踊る鋭子と並川。

鋭子「1、2、3。1、2と3」

足を止める鋭子。

鋭子「だから、この2と3のところで足が早く出てるの!もう!」

猫背になる並川。

並川「す、すいません」

頬を膨らませている鋭子、並川の頭髪をじっと見る。

鋭子「髪!」
並川「はい!」

反射的に頭髪を鋭子に見せる並川、ジェルやスプレーでガチガチに固められているが隙間からところどころ地肌が見える。

鋭子「相変わらずね」
並川「またですか…」
鋭子「ジェルとコームは?」
並川「いつものところです」
鋭子「よろしい」

並川の腕を引っ張る鋭子。

並川「やっぱこうなるのね」

×     ×     ×

入口のドア付近にいる2人。
くしにヘアジェルを付けて並川の頭髪をセットしていく鋭子。

鋭子「もっとベッタリ塗れっていつも言ってるじゃん!何としてでも勝たなきゃいけないの」
並川「…すいません。でもこれ以上は頭皮が」
鋭子「あのさ、いい加減にその敬語やめてくれない?」
並川「は、はい」
鋭子「もう3年も組んでるのよ?少しは男らしくしてよ!」

ぼそっとつぶやく並川。

並川「はい。ですが、タメ口だと傷つけちゃうかもしれないので」
鋭子「ちっとも傷つかないわ!ボケ!」

鋭子がジェルの付いた手で並川の背中を叩く。
背中に付いたジェルを手で触る並川。

並川「あ!!」
鋭子「男だったら我慢!」
並川「あぁ…あぁ」
鋭子「もう!これだからアンタはお子ちゃまなのよ!いい?だいたいね…」

鋭子、並川を見失う。

鋭子「あれ?」

少し遠くで女子学生たちに囲まれて、照れている並川がいる。

鋭子「…あのバカ」

×     ×     ×

時計は午後2時ごろ。
アリーナにはたくさんの人たち。

ステージ上では何組ものラテンペアがチャチャチャを踊っている。
応援席ではスーツ姿の学生たちが選手の背番号を大声で呼んでいる。
ステージ袖で応援をするモダンペアたち。
緑色のドレスを着た鋭子と背中に「520」の番号札を付けたタキシードを着た並川が並んで立っている。

鋭子「いよいよね」
並川「…はい」

2人の前に立つモダンペア。

鋭子「並川」
並川「はい?」
鋭子「前のカップル、多分ウチらと同じところから踊ろうとしてる」
並川「え、そうですか?」
鋭子「場所変えよう」

鋭子、突如早足で歩きだす。

並川「ちょっと美山さん」

人ごみをかき分けて我先に歩いていく鋭子。

鋭子「ついてきて」
並川「待ってください!」

転ぶ並川、人ごみに埋もれていく。
鋭子、少し歩いて立ち止まる。

鋭子「よし、ここでいいわ」

後ろを振り返る鋭子。

鋭子「あれ?並川」

並川の姿が見当たらない。
焦る鋭子、周囲の人ごみをかき分けながら顔や背番号と時計を交互に確認してステージ袖を歩いている。

鋭子「並川……並川ってば!」

声援にかき消される鋭子の声。
壁に貼られた紙を見る鋭子。

紙には「14時15分~Sr・ワルツ1次予選」と書かれている。

鋭子「始まっちゃうじゃん!もう、どこ行ったのよ!」

鋭子、遠くの方に「520」の背番号を付けた燕尾服の男性を見つける。

鋭子「並川!」

歩き出す鋭子だが、組んで踊る練習しているモダンペアが鋭子のドレスの裾を踏んでしまい、その場に倒れてしまう。
モダンペア、鋭子が倒れたことに気づかずに踊りながら行ってしまう。

鋭子「痛ーい」

ゆっくりと立ち上がる鋭子、ドレスが破けていることに気づく。

鋭子「ウソ!ちょっと、アンタ達!」

鋭子、周囲を見回すが人だかりで遠くが見えない。

鋭子「どいてよ、もう!」

再び歩き出す鋭子、ヒールが折れながら人ごみをかき分けて歩いていく。
スピーカーから女性のアナウンス。

アナウンス「それでは、これよりシニア・ワルツ1次予選を行います。まずは第1ヒート・背番号501~510の皆さん、お願いします」

ステージ上にモダンペアたちが定位置まで歩いていき、ワルツが流れて踊り始める。

鋭子「ちょ、ちょっと待って!」

ステージ周辺を走り回っている鋭子。

鋭子「並川!どこ?」

必死の形相で走る鋭子を周りのモダンペアたちが何事かと見ている。
しばらくして音楽が止む。
踊りを終えておじぎをする選手たち。
応援席から拍手の音。

アナウンス「それでは第2ヒート・背番号511~520の皆さん、お願いします」

入れ替わるようにモダンペアたちがそれぞれ出場と退場をする。

鋭子「すいません、出ます!」

音楽が鳴るとともにワルツを踊り始めるモダンペアたち。

鋭子の声「待って、もしカップルが足らなかったら一時中断してくれるはず」

踊り続けるモダンペアたち。
学生たちの大きな声援。
ステージの周りにいる審査員たちが手に持った用紙にペンを走らせる。
止まらない音楽。

鋭子「お願い、いないことに気づいて!」

ジャンプして両手を振る鋭子。

鋭子「気づいてよ!」

やがて音楽が止まる。

アナウンス「それでは第3ヒート・背番号521~530の皆さん、お願いします」
鋭子「ウソ…」

その場にひざをつく鋭子。

<終わり>

※モダンペア……正装で踊る男女
※ラテンペア……際どい衣装で踊る男女
※ヒート……グループのこと

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