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俺の職場に10年目の研修社員・今市為太郎さんがやって来て早3日。

読者には何度も言っておくが、
決して”いまいちダメだろう”ではない。

為太郎「ありがとう」
俺「いえいえ」

彼が繰り返すミスをフォローするようになった俺はどんどん自信を取り戻していった。

自信とは不思議なもので、持ってしまえば意外とスラスラ出来るようになる。

為太郎さんが周囲から呆れた顔で見られると俺は救われた。
これまで彼の役割を自分が担っていたからだ。

そんな罪悪感を持ちながらも俺は仕事を続けた。

周囲と仲良くなりたい。
新しい仕事を覚えたい。
早く昇給したい。

そんな欲求を胸に秘めて。

その日の閉店時間。
俺は為太郎さんと帰ることになった。

ショッピングモールの従業員用通路を歩いていると、すれ違う他のテナントのスタッフたちが不思議そうにこちらを見ている。
これも為太郎さんの存在感なのだろうか。

俺「さっきの子、為太郎さんのほう見てましたよ」
為太郎「ここはカワイイ子が多くていいね。目の保養になる」
俺「まさかそれ目的でウチの店に?」
為太郎「まさか」
俺「ですよね」
為太郎「でもこっちはまだまだ現役さ」
俺「奥さんに叱られても知りませんよ?」
為太郎「独り身です」
俺「……すいません」

変な空気にしてしまった……

為太郎「ところでキミ、彼女は?」
俺「いません」
為太郎「でもいい歳だろう?」
俺「コロコロ職場変わるダメ男ですから」
為太郎「そうか? 僕より出来てるぞ」

『当たり前だ』。
という言葉が喉まで出かかけた。

俺「いえいえ、俺は全然」
為太郎「スムーズに動いてると思うけど」

『だから、当たり前だ』。

為太郎「やっぱり人間関係?」
俺「そう……ですね」
為太郎「どれくらい」
俺「(指折り数えつつ)えっと……」
為太郎「わかった。やめよう」
俺「はい」
為太郎「前もこういうところで?」
俺「はい。こういうとこが良いんで」
為太郎「確かに。その見た目で内勤はもったいないか」
俺「褒めても何もあげられませんよ」
為太郎「冗談だよ」
俺「ここの前はどんな仕事を?」
為太郎「…………」
俺「為太郎さん?」
為太郎「忘れたよ。あっという間にこの歳になったもんだから」
俺「……そうですか」

しばらく続く沈黙。
お互い気まずい空気が流れる。
そうこうしてるうちに帰路が訪れた。

為太郎「じゃあここで」
俺「お疲れ様でした」

為太郎さんと別れた後、
ふとある感情が浮かんだ。

彼は一体何者なのか?

もしかしてよくあるドラマのように、何か裏の顔でもあるのではないか?

ダメなフリをして、本当は職場の凄腕調査員なのではないか?

そんな気持ちを抑えられず、
俺は彼が向かった方へ目を向けたが……

いない!!

為太郎さんの姿が見えない。
ほんのわずかの出来事なのに。
まだ3秒も経っていない。

俺「どこ行ったんだろ?」

しばらく周囲を探したものの、
結局為太郎さんの姿は見えなかった。

モヤモヤを抱えたまま俺は家路を急いだ。

<4日目へつづく>

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