これは、とある親子の
メガネにまつわる物語。
本編映像
あらすじ
メガネ【眼鏡】
1. レンズを利用して視力を補い、調節する器具。
2. 物を見わける目。鑑定。
それは人の目を快適にする、今や日常生活に無くてはならないもの。
かつてはなかなか手が届かない高価なものであったが、時の流れによって気軽にそして手軽に買えるようになった代表的なもののひとつでもある。
しかし、時の流れとともに消えゆくものがある。
古き伝統や技術の腕を振るう職人の存在だ。
福井県鯖江市。
ここは1905年に増永五左衛門が農家の副業としてメガネ製造の技術を持ち込んだことで急速に発展した場所で、現在は日本におけるメガネの生産地として名高い場所だ。
2019年10月某日、昼前のJR北陸本線・鯖江駅。
ひとりの女性がホームに降り立ったところから物語は始まる。
東京からやってきたその女性の名は光野瞳(こうのひとみ)。
表参道にある路面店のメガネ屋で店長をしている瞳は、常連客から他店で買ったというセルフレームのバブがけ(※表面磨きのこと)を依頼された。
しかし出来る限り自分たちで修理に対応するという昔のメガネ屋の方針と違い、最近は他店からの持ち込みフレームの修理は保証面から極力控えるようになっていた。
そのため瞳はとある場所へ修理をお願いするためにわざわざここへ足を運んだ。
鯖江駅を出て少し歩いた路地裏に、ひっそりとたたずむ小さな工房がある。
その名は”光野工房”。
そう、瞳はその工房の娘なのだ。
数年ぶりに見る父・光野鏡輔(こうのきょうすけ)は相も変わらず、路面に背を向けて研磨機でメガネを黙々と磨いていた。
瞳は職人の娘として生まれメガネに関する仕事に携わってはいるものの、作る側の父とは違って売る側の人生を選んで日々の生活を送っていたのだ。
販売員である娘・瞳と職人である父・鏡輔。
ふたりが出会ったとき明るみになる、作る者の信念と売る者の使命との間にある価値観という名の深い溝。
それはまるでレンズごしに物がボヤけて見える”収差”のようだ。
これは、とある親子のメガネにまつわる物語。
キャスト
難波なう
12歳で初舞台を経験し、大学卒業後フリーで舞台を中心に活動中。過去参加・出演作品数は50本を越える。洗練された演技力と役の感覚を掴むプロフェッショナルで、舞台ごとに異なる多種多様な役をさも現実に存在しているかのように演じるその姿は一度観たら決して忘れられないほど強烈な印象を残す。
[舞台]
2011
『真夏の夜の夢』パック役@韓国アルコ芸術劇場
作:William Shakespeare、演出:宮本浩司
『整理整頓』山口彰子役 @春風舎
作:宮本浩司、演出:大池容子・宮本浩司
2012
『O津-オズ-』主演 ゆかり役 @東京芸術劇場 プレイハウス
作:宮本浩司、演出:宮本浩司
『整理整頓』山口彰子役 @世田谷パブリックシアター
作:宮本浩司、演出:宮本浩司
2014
『O津 再演』主演 ゆかり役 @俳優座劇場
作:宮本浩司、演出:宮本浩司
『ShakesPairs!! vol.1』後輩役 @東中野ラフト
作:藤井菜々子、演出:藤井菜々子
2015
『朗読劇 アンティパストミスト vol.2』カレン役 @下北沢亭
作:溝田美幸、演出:大塩竜也・山本洋介
『The Last Rose Of Summer』@ザムザ阿佐ヶ谷
作:永峯千津子、演出:原田光規
『前向きな人たち』相馬夏子役 @高円寺アトリエファンファーレ
原案:宝積有香、作:大池容子、演出:大池容子
2016
西瓜糖『うみ』白石八重役 @中野テアトルBONBON
作:秋之桜子、演出:松本祐子
2017
韓国現代戯曲ドラマリーディングVOL.8
『アメリカの怒れる父』ナンシー役 @座・高円寺1
作:チャン・ウジェ、演出:大谷賢治郎
おおのの♪『先生と赤い金魚』コメット役 @下北沢シアター711
作:大野裕明、演出:大野裕明
2018
□字ック『滅びの国』アンサンブル @本多劇場
作:山田佳奈、演出:山田佳奈
西瓜糖『レバア』担当者役 @中野テアトルBONBON
作:秋之桜子、演出:寺十吾
『バクステ』ヘアメイク助手 笹本役 @赤坂REDシアター
作:堤泰之、演出:川本成
『七本の色鉛筆』四女まり役 @渋谷edge
作:矢代静一、演出:花村雅子
『今度は愛妻家』吉澤蘭子役 @アクト青山アトリエ
作:中谷まゆみ、演出:小西優司
2019
ことのはbox『見よ、飛行機の高く飛べるを』山森ちか役 @中目黒キンケロシアター
作:永井愛、演出:酒井菜月
『バクステ‼︎』ヘアメイク笹本役
@赤坂レッドシアター
作:堤泰之、演出:川本成
かわいいコンビニ店員飯田さん
『マインドファクトリー〜丸める者たち〜』
@すみだぱーくスタジオ倉
作:池内風、演出:池内風
2020
Ammo『桜の森の満開のあとで』ウメガエ(議会)役 @新宿シアターミラクル
作:南慎介、演出:南慎介
[映画]
『紅葉橋』白川かおり役
受賞
『O津』(主演 ゆかり役)
全日本高校演技大会 作品賞
須田博光
声優として名高い黒沢良の主宰するアテレコ教室第1期生として様々な作品の吹替を担当。マーク・ハミルやミッチー・ボーゲルなどの青年役が多く、その透き通った声は人々の耳を魅了する。アテレコ教室の同期に井口成人と若本規夫がいる。
[アニメ]
けろっこデメタン
侍ジャイアンツ
[海外ドラマ]
奥さまは魔女(ラリー・テイト青年期)
警察医サイモンロック
ザ・マジシャン
ネーム・オブ・ザ・ゲーム
愛と憎しみのブルース
アメリカ連邦警察FBI
[洋画]
サンダーバード劇場版(アラン・トレーシー)
荒野のドラゴン
廃墟の守備隊
モンゴル第一騎兵隊
異邦人
黄昏
[教育番組]
ひらけポンキッキ(ものしりバッタンくん)
ムシムシ大行進
[CMナレーション]
コカコーラ
ファンタ
登場人物
光野 瞳 こうの ひとみ
(キャスト:難波なう)
主人公。33歳。
都内のメガネ屋で店長をしている。独身。
初めてメガネというものに関わったのは小学校低学年のとき。
たまたま休みの日に近くの本屋で読んだ名探偵コナンの漫画で、主人公の江戸川コナンが虫眼鏡を持ってポーズを決めた絵を見た時だった。
どうして虫眼鏡を覗くと物が大きく見えるのか?
それが解けない疑問だった。
そこでメガネ工房を経営している父・鏡輔に聞いてみた。
彼はレンズのマジックを教えてくれた。
父のようにメガネに関わる仕事をしてみたい。瞳はそう思い始めた。
やがて大学生になって上京すると、表参道のメガネ屋でアルバイトを始める。
しかし、メガネ屋での仕事は工房で見ていたそれとは全然違っていた。
接客し、加工し、フィッティングし、さらに目の知識も勉強し、経営も学ぶ必要がある。
相手が何を求めているのか? デザインか機能性かそれとも予算面か?
さらに目の状態は人によって千差万別のため、臨機応変な対応が求められる大変な仕事に何度も挫折しかけながらも現在はアルバイトから正社員登用されて店長をしている。
その後は会社員側の価値観を持ったため、帰郷した際に父とメガネのあり方で衝突。
お互いメガネが好きなゆえにどうしても意見がぶつかってしまう。
それ以来、ずっと実家へ帰るのを控えていた。(※一方、母とはLINEしている)
趣味は舞台鑑賞とひとり旅。一人暮らし先は墨田区にある紅葉橋周辺のアパート。
よく遊びに行く場所は大阪のなんばで、かに道楽のランチとたこ焼きがお気に入り。
タウン誌での人気記事“オシャレな街で輝く店長さん”に取り上げられたことがある。
※ちなみにその記事の取材記者は、演劇雑誌ライター・白川かおり(映画「紅葉橋」のキャラクターで、演じたのは瞳役の難波さん)の知り合いらしい
今回東京から近道である米原を経由せずに敢えて北陸新幹線で福井へと向かったのは、よく行く大阪のなんばへと向かう東海道新幹線から見える風景に見慣れていたから。
光野 鏡輔 こうの きょうすけ
(キャスト:須田博光)
もうひとりの主人公。67歳。
瞳の父でメガネ職人。目はとてもよく、遠近両用も老眼鏡も使わない。
歳の割に若く見えるが、最近シワがまた増えたらしい(瞳談)。
かつて都内のロケット部品の製造会社に勤めていたが、妻の実家である福井のメガネを継ぐために福井へと引っ越してきた。
厳しい職人の世界に苦労はしたが、ものづくりが好きだったために何とかやってきた。いかにも職人らしくない風貌なのは先の会社員経験があるため。
大昔の人形劇・サンダーバードが好きで、お気に入りは末っ子のアラン・トレーシー。
彼の乗っている3号機の赤いロケットを自前で作るほどかなりの思い入れがある。
前述のロケット部品の製造会社に勤めたのもこのサンダーバードがきっかけだった。
(※これは須田氏がかつて劇場版『サンダーバード』でアラン役の吹替を担当したため)
※サンダーバードとは
1965年から1966年にイギリスで放送された特撮人形劇。
五人兄弟が世界の各地で起こる事故や災害にスーパーメカを駆使して立ち向かう物語。
実は鉄道も好きで、福井に移住するきっかけも特急サンダーバードが走っていたことが関係してるのかもしれない。
年季の入った機械を孫のように可愛がり、手間暇かけてオリジナルメガネを市場に出す。
メガネには一本一本個性があると信じ、職人の引退や最近の大量生産や低価格化によって混迷するメガネ業界の行く末を案じている。
裏設定資料集
光野工房とは
前身は神明工房。(※神明は鏡輔の妻の旧姓で、鯖江市にかつて実在した地名)
妻の曾祖父・神明孝之進が立ち上げ、祖父・學、父・忠志と続き、現在は夫の鏡輔が引き継いだ。
ちなみに孝之進は1910年代に鯖江メガネの創始者・増永五左衛門が開設した眼鏡工場で働いた後に独立したという設定。
セルフレーム、メタルフレーム、コンビフレームなどたくさんのレパートリーがあり、テンプル・ノーズパット・ネジなどパーツごとに製造する分業制が主流のメガネ業界では珍しく全行程をたったひとりで行っている。
また、手先が器用な鏡輔はかつて昭和初期に途絶えた技術を復刻させた実績もある。
メガネ業界では有名な話だが、一般の消費者たちは興味はおろか知る由もない。
ちなみに瞳の母(鏡輔の妻)の名は智子(ただし本編には未登場)。
名前の由来はメガネのフロントと丁番を繋ぐパーツの智(ち)という部分から。
福井弁について
方言は嶺北エリア(福井市、鯖江市、越前市)と嶺南エリア(敦賀市)で異なる。
なお、嶺南エリアは京阪式アクセントが強いとされている。
今回は嶺北エリアの物語なので、おもな方言をここに紹介。
おちょきん……正座
じゃみじゃみ……テレビの砂嵐
つるつるいっぱい……ギリギリいっぱい
けなるい……うらやましい
こそばゆい……くすぐったい
ひっでえ……とても、すごく
むだかる……糸がもつれる、絡まる
なお、本編に登場する”はよしねや”は早よ死ねやではなく”早くして”の意。
ちなみに、執筆開始時の仮タイトルは『ひっでえ、むだかる』。
直訳すると”とても、もつれている”。
音響スタッフ
沼田裕太
(プラチナムガレージ)
取材協力
脚本・制作著作
須田剛史
このボイスドラマはフィクションです。