コンパのサクラ シナリオ⑦
SE ドアの開く音
成川M「28歳にして初めてのデート。女性と接し方のわからない俺はマニュアル本なんてものを隅々まで読んだ。まさかキスの仕方からベッドインのテクニックまで載ってるとは。着ている服はいつもファストファッションだが、この日のために新宿のルミネでブランドものを買いそろえた。そしてここは……初めて女性とデートするときに行くと決めていたレストラン」
勧誘女「めっちゃいい雰囲気」
成 川「気に入ってもらってよかった」
勧誘女「センスいいね」
成 川「そんなことないよ、好きな曲に出てくる場所によく似てるんだ。それに、ずっと前から大切な人を連れて来たいと思ってたから」
勧誘女「フフッ、リュウさんって、おもしろい」
成川M「初めて女性を喜ばせることができた。背伸びはするだろうが彼女をリードしてゆっくりと素敵な関係を築いていける、そう思っていた。この時までは……」
勧誘女「ねえ、リュウさん。実はずっと気になってたことがあるんだけど」
成川M「ランチの注文を終えると、彼女はそう言って俺に顔を近づけてきた。近い、こんなにも近い距離で女性を感じられるとは」
成 川「何だい?」
勧誘女「リュウさんってもうちょっと色気があってもいいよね」
成 川「そうかな?」
勧誘女「こないだよりイメチェンしていい感じだけど、まだなにか足りないって感じ。だからワタシ、ぜひともそのお手伝いしたいの。そこで……はい、これ」
成川M「そう言うと彼女はテーブルの上に何かを出した。モテモテになるブレスレット、500万円。目の前でいったい何が起きているのかわからなかった。小説の中の大好きなヒロインは決してそんなことはしない。これはきっとなにかの間違いだ、そう思いたかった」
勧誘女「街コンのときのリュウさん、なんだか自信なさそうに見えたの。だからこれをすればもっと自分に自信持てると思うの。やっぱり男は色気があってナンボだし、これでイイ女からモテモテになること間違いなし。ねえ、試しに一個どう?」
成川M「こうして俺の初めての恋は終わりを告げた。トイレに行くフリして、会計を済ましてその場を後にした。その後はどうやって家に帰ったか、ショックのあまり思い出せない。ただ傘を忘れ、大雨で全身びしょぬれだったことだけは覚えてる」
さくら「……そんなことがあったのね」
成 川「アンタにわかるか? 初めての恋を裏切られた気持ちが。思い出の場所を汚された気持ちが。だから俺はアンタとその女を探すことにした。もし見つけたら参加してる男たちの前で正体をバラして、もう二度と街コンに出られないようにしてやろうってね」
さくら「まさか、そのためにいろんな会場へ?」
成 川「ああ、しらみつぶしにな。ただ、東京は広すぎる。おかげでこの数か月、探しに探した。いやはや、実に長かった。でもあきらめなくてよかった。こうしてきょう、やっとアンタを見つけられたんだから。皮肉にもあの女とデートしたこのレストランでな」
さくら「…………」
成 川「店の裏でアンタがあの女になんて言ってたか、教えてやろうか?」
さくら「(嫌味たらしく)うまくやりなさい」(※回想のため、エコー希望)
<シナリオ⑧へつづく>
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