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〇本宮家・俊介の部屋(深夜)

机の上のスタンドライトだけが室内を照らしている。
俊介、机に向かっている。

俊介「…………」

扉が開いて、雅志が顔を出す。

雅志「よお」
俊介「ノックぐらいしろって」
雅志「悪い」
俊介「別にいいけど」
雅志「電気くらい点けろ」
俊介「これで大丈夫だって」
雅志「あまり深く考えるな」
俊介「何だよ急に」
雅志「何かあったんだろ?」
俊介「何もない」
雅志「会社か?」
俊介「違うって」
雅志「仕事の相談なら酒の一杯ぐらいは―」
俊介「大丈夫だよ」
雅志「本当か?」
俊介「ホントに何もない」
雅志「(納得いかないが)わかった」

雅志が扉を閉めようとする。
俊介が慌てて、

俊介「なあ」
雅志「何だ」
俊介「親父ってさ―やっぱやめる」
雅志「言いかけたことは言え」
俊介「…………」
雅志「何なんだ?」
俊介「―母さんだけ愛してた?」

雅志、呆気にとられる。
俊介が雅志の顔色を伺う。

雅志「親の色恋なんか聞いてどうする?」
俊介「だよな」
雅志「もう寝ろ」
俊介「(ムッとして)」

雅志、扉を閉める。
ベッドに横になる俊介。
スマホのバイブが響く。
俊介、スマートフォンを取り出す。
女の子からのメールである。
『あしたのデート、めっちゃたのしみ』といった文面。

俊介「(文面を見て)」

〇同1階・リビング(朝)

翌朝。
週末、パジャマ姿の雅志がくつろぎながら新聞を読んでいる。
階段をゆっくり下りる音。
私服姿の俊介がやってきて、日課のように母親の遺影に合掌する。

雅志「よお」
俊介「(ボソッと) おはよう」
雅志「出かけるのか?」
俊介「ああ」
雅志「今日も遅いのか?」
俊介「いつもと同じ」

俊介が出て行こうとする。
雅志が新聞を折り畳んでテーブルの上に放る。

雅志「よお」
俊介「何だよ?」
雅志「昨夜のことだが―」
俊介「あ、あのコトはもう忘れていいから」

と、出て行こうとする。

雅志「待て」
俊介「だからいいって」
雅志「母さんと出会う前な―」
俊介「(雅志を見て)」
雅志「父さん、あまり女性ウケしなかった」
俊介「…………」
雅志「本当だぞ?」
俊介「急に何言い出すんかと思った」
雅志「質問に答えてるんだろ」
俊介「それくらいわかるって」
雅志「だったら最後まで聞けよ」
俊介「(わかったよという顔)」
雅志「思春期の頃に好きな子に振られてな。自暴自棄でたくさんやんちゃもした」
俊介「…………」
雅志「そんな時に知り合った人がいてな」
俊介「(まさかという顔)」
雅志「母さんだった」
俊介「…………」
雅志「母さんは一生分の愛をくれた。今でも母さんこそが全てだと思ってるぞ」

俊介、テーブルの上にある新聞にふと目を止める。
『若者に増えるインスタントセックス』の見出しだ。
雅志が俊介の視線に気づいて、

雅志「行きずりの性交という意味らしい」
俊介「(驚いて)」
雅志「愛も簡素化する時代なんだな」
俊介「…………」
雅志「3分で実るとはこりゃ傑作だが余計に寂しくなるだけだろうに。インスタントはラーメンだけで事足りてる、なんて冗談言ってみたりしてな」

と、雅志が笑う。

俊介「…………」
雅志「一度くらい家に好い人連れてこい」
俊介「出かける」

と言って、俊介が出ていく。
雅志が妻の遺影を見て―

<第7話へつづく>

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