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〇電車の中(夕)

尚美、浮かない顔で窓の外をずっと眺めている。

駿の声「こないだはその……ごめん」

近くに座っているカップルが仲良くいちゃついている。
電車が駅に到着し、ドアが開く。

駿の声「実は伝えたいことがあって―」

駅メロが鳴る。

駿の声「もう、終わりにしたいんだ」

直後の部分が車のクラクションで何を言っているかが聞き取れない。
発車アナウンスで我に返る尚美、慌てて電車を降りる。

駿の声「……そういうことだから」

〇街(夜)

雨が降っている。
たくさんの傘が舞う人混みの中、泣くのを必死に堪えて歩いている尚美。
が、我慢できずに泣き出してしまう。
尚美の頬を伝う涙に雨が混じる。

〇栗山家・リビング(夜)

尚美がやってくる。
突然の来訪者に驚く孝介。

尚美「……ただいま」
孝介「尚美、どうして?」
尚美「その……何となく」

と言って、紙袋を隠すようにバッグを静かに置く。
孝介の姿に驚く尚美。

尚美「それよりどしたの?」
孝介「ん? 見ればわかるだろう、DIY」
尚美「何で今なの? 近所迷惑でしょ。それに今までそんなこと一度も―」
孝介「母さんに任せっきりじゃいけないだろう? もし何かあったら出来るようにしておかないと」
尚美「(ボソッと) 母さんも同じこと言ってた」
孝介「何か言ったか?」
尚美「ううん」
孝介「あ、ところで彩音のところへ行ったんだってな」
尚美「え? 何で知ってるの?」
孝介「さっき電話があったから」
尚美「(ボソッと) 彩音のヤツ―」
孝介「もしかして父さんたちのこと言ったのかなと思ってね」
尚美「まさか! 言うワケないでしょ? てか、言ったらショック受けるでしょ。ただでさえあの子、結婚したてなのに」
孝介「その辺はしっかりしてる。さすが父さんの子だ」
尚美「(呆れて) あのね― (ハッとして) ところで彩音、電話で何て?」
孝介「元気にしてるかって。ただそれだけ」
尚美「(ホッとして) そっか、良かった」
孝介「何が良かったの?」
尚美「結婚したばかりの彩音にこんなこと言えるワケないでしょ!」
孝介「それもそうだ」
尚美「自分たちのしたことわかってるの?」
孝介「それは……まあ」
尚美「全然わかってないね」
孝介「わかってるさ。あ、そのネジ取って」
尚美「さりげなく手伝わさないで」
孝介「これで完成かな? そうだ、尚美。ちょっと一本電話しないとなんだ」
尚美「まさか……女?」
孝介「う~ん、そうかもしれない」
尚美「父さん!」
孝介「冗談。仕事のことだよ」

尚美は疑いの目を向けている。

孝介「おいおい、父さんがそんなことをしてるように見えるかい?」
尚美「人は見かけによらないって言うし」
孝介「考えすぎだって」
尚美「…………」

〇アパート・尚美の部屋(夜)

尚美、スマホに搭載された予定表をチェックする。
『両親の結婚記念日』。
テーブルの上にあるプレゼントの湯呑みをじっと見つめる尚美。

尚美「どうやって渡せって言うのよ」

〇栗山家・リビング(夜)

電話をしている孝介。

孝介「例のだけど、気に入ってくれた? それは良かった。いよいよ……だね」

と、笑みを浮かべる。

〇アパート・尚美の部屋(朝・日替わり)

ドアを開けて歩き出す尚美。
駿がやってくる。
尚美はムスッとして、

尚美「…………」
駿「なあ、尚美」
尚美「ごめん。急いでるの」
駿「メッセージ、聴いてくれたか?」
駿の声「もう終わりにしたいんだ。(直後、クラクションが入り) そういうことだから」
尚美「それが?」
駿「なら良かった。それじゃあ―」
尚美「それだけ?」
駿「え?」
尚美「用件はそれだけって聞いてるの」
駿「尚美?」
尚美「ごめん、とにかく急いでるから」
駿「何で怒ってるんだよ?!」
尚美「いいから後にして」

そそくさと行ってしまう尚美。
駿、首を傾げる。

<第9話へつづく>

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