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重なるときは重なる。
それは望ましくない物事ほど起こる。

夕暮れどき。
梶野家最寄りの駅の改札口。

中年の男が改札で引っかかる。
後ろにいたハジメはその男とぶつかる。

ハジメは目の前にいるその男を見て驚きを隠せなかった。

ハジメ「父さん?!」

目の前にいるその男は父・亮助。

実母・圭子に続き、今度は父と遭遇。
重なるときは重なってしまうものだ。

亮助「……お前か」
ハジメ「どうしてここに?」
亮助「ママを探しにな」
ハジメ「母さんを?」
亮助「友達とご飯に行くって言って出かけた。でも、もしかしたら向こうの家に向かったんじゃないかと思って」
ハジメ「…………」
亮助「今、帰りか」
ハジメ「そうだけど……」
亮助「案内してくれないか?」
ハジメ「え?」
亮助「何で驚くんだよ」
ハジメ「いや、母さんは来てないし」
亮助「お前が会社に行ってる間に向かったかもしれないだろう」
ハジメ「…………」
亮助「さあ早く」

ハジメは仕方なく歩き始める。

家事のハジメさんがログインしました。

どうも、家事のハジメこと梶野ハジメです。

これはまずいです。
ついに父さんがやってきました。

営業畑で40年近く生き抜いてきた父。
相手の顔を見ると心の中がわかるそうで。
それくらい目が肥えています。

なので少しの言い訳も見抜かれる始末。

普段は大人しいけど、何かあるとかなり根に持つタイプ。
そのため、怒られてから許してもらうのに何週間もかかって大変でした。

今回の事態も長引きそうな予感(汗)

婿入りでさえアレなのに、主夫と知られたら……

母さん、梶野家を出発してればいいけど。

亮助の声「何ぶつぶつ言ってるんだ?」
ハジメ「いや、何でも」

ここらへんでいったん切ります。

家事のハジメさんがログオフしました。

梶野家のリビング。
義父・芯太郎は圭子に、ハジメの家事のことをひと通り伝えたようだ。

圭子が家事リストを見ながら、

圭子「これが梶野家式ですか」
芯太郎「彼は毎日愚痴もこぼさずちゃんとこなしています」
圭子「こんなにすごい内容だとは」
芯太郎「スパルタみたいなものです」
圭子「本当にあの子が?」
芯太郎「お宅の息子さんはしっかり者です」
圭子「…………」
芯太郎「素晴らしい婿入り主夫です」

圭子が芯太郎に一礼。

圭子「長居してしまいすいません」
芯太郎「こちらこそ、差し入れごちそうさまでした」
圭子「つまらないものですが」
芯太郎「いえいえ、高価なものをありがとうございました」
圭子「じゃあ、私はこの辺で」

玄関のほうで音がする。

芯太郎「ちょうど帰ってきましたね」
圭子「…………」

リビングのドアが開く。

芯太郎「おかえり、ハジメく――」

ハジメの背後に亮助がいる。

圭子「ぱ、パパ!」
亮助「やっぱりここだったか」
ハジメ「そこの駅でバッタリ会って」
芯太郎「…………」
亮助「はじめまして、ハジメの父です」
芯太郎「はじめまして」
圭子「どうして」
亮助「迎えに来たに決まってるだろう。何年夫をやってると思ってるんだ」
圭子「…………」
亮助「さ、帰ろう」
圭子「あのねパパ。ハジメは――」
亮助「言い訳は聞きたくない」
ハジメ「待って!」
圭子「ハジメ――」
ハジメ「母さん、オレが言う」
圭子「…………」
ハジメ「父さん。実はオレ、主夫なんだ」

シーンとなる室内。

亮助「主夫だと?!」
ハジメ「……そう」
亮助「お前が……家事をか?」
ハジメ「だからそうだって」
亮助「仕事はどうした?前はあんなに仕事に一生懸命だったじゃないか」
ハジメ「ついさっき辞めてきた」
亮助「そんな……久しぶりに見たお前のスーツ姿が見納めだったってわけか?皮肉にも程がある」
ハジメ「…………」
亮助「休みの日に家事をするならまだわかる。でも、それを毎日するってのはワケが違う」
ハジメ「わかってる」
亮助「何もわかってない。なあ、ママはそれでいいのか?」
圭子「…………」
亮助「おいあんた、息子にいったい何を吹き込んだんだ」
芯太郎「…………」
圭子「あのね、これには事情が――」
亮助「ママは黙ってなさい」
ハジメ「これはオレが決めたことだから!」
亮助「……ハジメ」
ハジメ「婿入りも主夫修行も全部!」
芯太郎「ハジメ君……」
亮助「勝手にしろ」

亮助が圭子を連れて出て行く。
芯太郎が追いかけようとするが、

ハジメ「いいんです」
芯太郎「しかし」
ハジメ「これで……いいんです」

決して本意ではない。
そうハジメの顔が言っている。

芯太郎「…………」

と、芯太郎のスマホが鳴る。

芯太郎「ちょっと失礼するよ」
ハジメ「どうぞ」

芯太郎が廊下へ向かう。

ハジメは居ても立っても居られない。
が、どうすることもできない。

しばらくして芯太郎が電話を終えてリビングに戻って来る。
神妙な面持ちの芯太郎。

ハジメ「長かったですね」
芯太郎「お袋がさっき息を引き取った」
ハジメ「え?」
芯太郎「病院からだったんだ」
ハジメ「……そうですか」
芯太郎「これから出かけてくる」
ハジメ「……わかりました」
芯太郎「今日は帰れないと思う」
ハジメ「……はい」
芯太郎「家事は早く済ませておくように」
ハジメ「え?」
芯太郎「君にも仕事があるだろう?」
ハジメ「(ハッとして)義父さん」
芯太郎「ちょっと支度してくる」
ハジメ「ありがとうございます!!」

芯太郎がリビングを後にする。
ハジメものんびりしてはいられない。

数時間後の梶野家。
ハジメの妻・実乃里が帰って来る。
家には誰もいない。

実乃里「父さん?ハジメくん?」

テーブル上のメモ。

『出かけて来る。チンして食べて』

実乃里「ハジメくん?!」

その頃ハジメはタクシーの中にいた。
行き先は、あの日と同じ目的地。

<episode28へつづく>

どうも、家事のハジメこと梶野ハジメです。
いつも読んで頂き、感謝感激です♪
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登場人物
プロローグ
episode1 すべての始まり
episode2 ハイスピード草むしり
episode3 覚えてない、覚えてる
episode4 コーンフレークは硬めで
episode5 親の言い分 子の言い分
episode6 招かれざるヤツ現る!
episode7 オレの頭の上の避雷針
episode8 迫られる二者択一
episode9 義父の過去と実母のカレー
episode10 新婚写真のおもひで
episode11 妻と義母の食欲は成人男性並み
episode12 ハジメが倒れる3日前
episode13 罪滅ぼしの徹夜
episode14 点滴と家族と夕暮れと
episode15 義父からの看病
episode16 慣れない手つきで大ヤケド
episode17 主夫宣告
episode18 梶野ハジメ改め家事のハジメ
episode19 家事と筋トレの関係性
episode20 実母は知っていた
episode21 義理の親子ゲンカ勃発
episode22 あの日の選択は正しかったのか
episode23 予期せぬ誘惑
episode24 婿入りの掟
episode25 最後の出勤日
episode26 梶野家、朝の大パニック

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