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昨日は休みだった。
この仕事では平日が土日になる。

一般的には夏本番というのに、世間ではまだ梅雨が続いている。
7月にも物憂げな雨は降るらしい。

10年目の研修社員・今市為太郎が職場へやってくるまでは俺は朝が恐かった。

起きるとまず気だるさがやって来る。
肩こりも手伝って気分はがた落ち。
決まって考えるのは将来への不安だ。

やることと言えば仕事の勉強。
それと、もしもの時の職探し。
あとは隣町へ出かけるくらい。

ここのところはそんなペースだった。

だが彼がやってきて、俺の朝は変わった。

為太郎さんがミスするごとに俺は安心し、仕事がスムーズに出来るようになった。
そのおかげか朝も目覚めが良い。
こんな充実した朝は何年ぶりだろう。

朝食がとても美味しい。
たとえ雨でも温かいシャワーに感じる。
湿気のジメジメなんか吹き飛ばせ!
心は真夏の海みたいに晴れやかだぜ。

今日も彼のおかげで安心して仕事が出来る。
人の振り見て我が振り直せ。
いつの間にか罪悪感は薄れ、さもそれが当たり前のようになっていた。

出勤すると為太郎さんがいた。
相変わらずの残念ぶりだ。

為太郎「今日もよろしくね」
俺「お願いします。あ、そういえば為太郎さん」
為太郎「ん?」
俺「昨日はどうやって帰ったんですか?」
為太郎「…………」

昨日、為太郎さんと帰ったときのこと。
ふと目を離したすきに彼は姿を消した。

もしや幽霊なのか?
しかし現に目の前に存在している。

だから今朝、確認してから来たのだ。
あの辺りに隠れられそうな物陰はあるかどうか。
しかし、そんな場所はなかった。

為太郎「バスだよ。急いでたから」
俺「そうですか?」
為太郎「もちろん。他に何があるのさ?」
俺「でもバス停まで行くにはずいぶん遠回りしますね。逆のほうが近いのに」
為太郎「ちょっと健康のために散歩しようと思ったから」
俺「あんな真っ暗な時間に?」
為太郎「そういう趣味なの」
俺「怪しい」

『為太郎さんってダメなフリしてて、本当はすごい人なんでしょ?』

と言いたかったが、勇気が出ない。

『実は社員の査定をする調査員だったりして』

とも言いたかった。

それらが考え過ぎだと気づいたのは数分後。
開店とともに彼はミスを連発した。

でもこれでいい。
俺が安心して仕事が出来さえすれば……

昼過ぎになり、俺は為太郎さんと休憩室へ。
グループで食事するショップのカワイイ子たちがなぜかこっちを見ている。

俺「やっぱ為太郎さんって人気者ですね」
為太郎「別の意味でだろう」
俺「またまた」
為太郎「キミを見てるんだよ」
俺「まさか」
為太郎「だって僕、背中向けてるし」

向かい合って座る俺と為太郎さん。
彼女たちが見えるのは俺からの向きだ。

やがて俺たちは食事を始めたものの、
しばらく微妙な間が続く。

為太郎さんの様子がおかしいのだ。
いつもそうだが今日はとくに、、、だ。

俺「どうしました?」
為太郎「実はキミにだけは伝えようと思ってたことがあって」
俺「はい」
為太郎「僕、明日でここを辞めるんだ」

俺「…………え?」

俺の心の中で何かが音を立てて崩れた。

<5日目につづく>

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