舞台「一日だけの楽演」製作ノート
2024年10月6日。
東京は東高円寺にある高円寺K’sスタジオにて。
旗揚げ公演「一日だけの楽演」を行った。
きっかけ
昨年の5月、俺は役者の交流会「シアタクト」なるものを企画。
【※シアター(=演劇)とコンタクト(=会える)を組み合わせた造語である】
「知り合いの脚本家の台本を通じて、ベテラン世代と若手世代の役者が交流できたら良いなぁ」と思い、ベテラン世代に鈴木れい子さんをお呼びした。
そして若手世代のひとりに友人・栁沢友規くんを呼んでいた。
やがて交流会が始まり、若手世代の役者がひとりひとり順番にれい子さんと芝居をしていく。
そして友規くんの番になり、れい子さんが振ったセリフを臆せずに受けて返したときだった。
「あなた、すごく良いわね!」
仕事をするうえで対等さを求めるれい子さんは彼の演技の姿勢に感動し、その後もふたりの掛け合いはどんどんスピードを上げていく!!!!
ふたりの息の合ったコンビネーションは、まるで「相棒」の杉下右京と亀山薫そのもの。
「このふたりで何かできたらいいね!」というれい子さんの提案を聞いた俺は「舞台にしたい!」と思い、以前おふたりがボイスドラマⅢで共演していたということもあって、話はすぐにまとまった。
スタッフ集め
よし、役者陣は決まった。
ボイスドラマならいつもお世話になっている収録スタジオに連絡すれば済むのだが、今回はそうはいかない。
まずは箱。つまり、会場を探すところからだ。
最初は自分に手が届くところから始めたかった。
なので「ミニマムで出来るマキシマムなこと」をテーマに掲げ、今の自分が対応できるキャパや予算を考えながら動くことにした。
と、ある場所が思い浮かんだ。
「高円寺K’sスタジオ」
友人・吉田真理さんの旦那さんが運営している公演スペースである。
なお吉田さんはボイスドラマⅢでおふたりと共演しているので、知り合いのところならば変に構えなくていいと思った俺はすぐさま見学へ。
広さや設備などを主である日下諭さんから教えて頂きながら、少しずつ舞台というイメージが実物になりつつある。
ところが、ここであることに気づく。
舞台監督、照明、音響、受付。
少なくとも舞台を作るには数人の協力がなければ成し遂げられない。
と、日下さんが「平野みくてぃさんがウチの照明を知り尽くしてますよ」と教えてくれた。
そこから彼女へすぐに連絡して打ち合わせしたのが昨年11月のことだから、実に約1年間準備をかけたことになる。
受付の会原実希さんはみくてぃさんが「最も信頼できる人がいる」と紹介してくださった。
やがて舞台の構想を決めていくなかで最終的に舞台監督は自分が行い、音響は客入りとエンディングをみくてぃさんが担うという形で落ち着いた。
構成の変遷について
撮影:三浦ヒロシ (スタジオランド)
本公演は最終的に田舎で暮らす母と都会で頑張る息子に因んだオムニバスとして上演された。
しかし、最初はまったく相互関係のない3つのオムニバスになる予定だったのだ。
というのも、舞台公演を思いついた当初はラーメンズのようなスタイルで行こうと思っていたから。
旗揚げということや舞台関係の知り合いがいないことから大道具を組むのは難しいと判断。
シンプルな構図で出来るものはないか?
と考えていたら、ステージ上にふたりでやり取りをする彼らの姿を思い出したのだ。
すぐさま小林賢太郎さんの戯曲集を購入し、深く読み込んだのちに3つのオムニバス形式を着想した。
実際に上演された”オレオレ電話”と”ラジオDJと女神”のアイデアは当初からあったが、ひとつ没になった案がある。
それは”退職代行サービス”のネタ。
タイムリーでイケる!と思ったが、公演を形にするうえでテーマが”家族”になったためあえなく却下となった。
いずれ何らかのかたちで形にしたい。
内容はそのときまでのおたのしみ。
趣味でやるの? 商業でやるの?
業界の先輩である友規くんはいつも俺が知らない視点について的確なアドバイスをくれる。
厳しさが込められているが、俺はそれが心地いい。
おかげでどんなに躓いても彼の言葉に救われ、何度も立ち直ってきた。
今回最も胸にグサッと来たのは、
「この舞台は趣味なの? 商業なの?」
という質問だった。
撮影:三浦ヒロシ (スタジオランド)
ボイスドラマを始めたころは「自分のやりたいことを形にしたい!」という気持ちで作っていた。
しかしそれではいつまでもアマチュア感覚が抜けず、趣味の延長線上でしかない。
長年プロの現場で仕事をしている友規くんは俺のその部分をずっと気にかけていた。
やりたいことをやるという気持ちも大事ではあるが、商業ベースとなるとそうはいかなくなる。
ターゲット層を考えて、集客を行っていくことが求められるのだ。
加えてお客様にいかに楽しんで頂くか、そのためにお金を頂くわけだから、こちらもそれ相応の覚悟で挑む必要があった。
ということでチラシを都内のありとあらゆる劇場に置いたり、公演の数日前に「役者と脚本家の交流会」というイベントに参加して声掛けしたり、出来る限りの集客を心掛けた。
幸運なことに、昼の回を満員にすることに成功。
もちろん、キャスト陣の協力あってそれが叶ったことを忘れてはならない。
顔つき、変わったわね
企画の段階かられい子さんに携わってもらい、かなり鍛えて頂いた。
シナリオの段階に至っては書いては直し、書いては直しを実に10回以上繰り返した。
その過程で納得できるものになっていく嬉しさと直すたびに自分の未熟さを痛感する悔しさを味わう。
ある時、打ち合わせの際に俺の顔を見たれい子さんが一言。
「顔つき、変わったわね。その顔なら大丈夫よ」
不思議だが自分も同じことを思っていた。
撮影:三浦ヒロシ (スタジオランド)
本公演の第2話に出てくる「エンタメの女神、略して”エンタ女(め)”」というキャラを気に入ってくださり、「これはおもしろい!」と喜んでくれたのを見た瞬間だった。
企画書にまとめた物語たちを通していくうちに、少しずつ「何がおもしろいのか」をわかってきた点が大きい。
恥ずべきだが、上京前は自分の作品を誰かに見せることがとても怖かった。
直されたり指摘されたりするのが怖かった。
しかし、それでは成長は難しい。
プロになる以上、プロの人たちに見てもらい、何が自分に足りないかを知ることが大事なのだ。
もちろん、誰にアドバイスをもらうかで成長の度合いは大きく異なるが…
公演を行うと決めた時点で、人に見せると決めた時点で、もうプロの行動をしなければならない。
キャストにギャラを払い、仕事をして頂くこと。
それをもとにお客様からお金を頂くんだという意識を持った瞬間、プロ意識は一気に加速した。
初公演の結果は…
光栄にも昼公演は満席という快挙。
夜公演も来場者は多く、笑い声が起きるたびに頑張ってきた自分の心が労われている気がした。
終演から数日後、キャスト陣より「好評だった」という知らせをもらった。
本編のおふたりの掛け合いは実に見事で(決して手前味噌では無く)、アフタートークも大ウケ。
とはいえ、これらはあくまで個人的な感想。
どう感じたかはお客様それぞれ。
もし楽しんでもらえたなら光栄だ。
来年も同じメンバーで第2弾を計画しているので、良い知らせができるように頑張っていく。
奇跡の出会い!!
夜の回の終演後、ひとりの来場者様とお話する機会を頂いた。
なんとその方は「魔法陣グルグル」で主人公の勇者・ニケを演じていた瀧本富士子さまだった!
れい子さんの愛弟子であり、今回の舞台を心から楽しみにしていたという。
「小学生のころに毎週夢中で観ていたアニメの方と話せてとっても幸せです!」と伝えると、とても喜んでくださった。
俺が作家という生き方を諦めないのは、こういう素敵な出会いが必ずあるからだ。
「続けることが大事」
というのは、れい子師匠の口癖。
これまで挫折のたびに何度も諦めようとしたが、何とか踏ん張って乗り越えてきた。
もちろん、これからも試練はたくさん俺を待ち受けているだろう。
それでも諦めずに立ち向かっていきたい。
おわりに
今回の舞台を通し、有言実行こそが人生を輝かせるのだと感じた。
「ヒトは人前で見せる佇まいにすべての答えが出ている」と俺は思っている。
顔つき、姿勢、言葉遣い…普段周りに見せているそれらがその人のレベルである。
たとえどんなに口先で上手いことを言おうとも、どんなに綺麗なもので着飾ろうとも、必ずボロは見抜かれてしまうというわけだ。
だからこそ気を引き締めて日々を生きていかなければならない。
俺はプロで一流のカッコイイ男で居続ける。
そのために出来ることを全力でやる所存だ。
舞台がひと段落したため、次は上演台本の販売を計画している。
置きチラシのため立ち寄った下北沢観劇三昧ラボ様が劇団関係のグッズを現地で販売していることを知り、公演が終わったら台本を置かせて頂こうと考えていたのだ。
なので、これより実行に移す。
ひとつひとつ自分にできることを着実に確実に。
キャストのおふたり、スタッフのみなさま、そしてご来場のお客様たちに心より感謝申し上げます。
来年の次回公演をおたのしみに!
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