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<登場人物>
城崎真央(29) ディベロッパー
田辺孝作(49) 会社員

藤谷 綾(38) ディベロッパー
平川茂之(49) 田辺の級友
北条聡美(63) 無職
城崎芳恵(57) 真央の母

〇公園
緑が溢れる広い場所。
ベンチで休憩しているスーツ姿の女性が2人。
城崎真央(29)と藤谷綾(38)である。
遊んでいる子どもたちや散歩しているお年寄りたちを見て微笑む真央。

綾「どうかした?」
真央「いえ」
綾「すっごいニヤニヤしてるけど」
真央「今日も平和だなと思っただけです」
綾「ふ~ん。私もその笑顔をマネしたい」
真央「先輩だって素敵ですよ」
綾「私は真央ちゃんほど口角上がんないし」
真央「またまたぁ」
綾「ねえ、今度教えて」
真央「いつでもいいですよ」

綾がペットボトルの水を飲みほして、

綾「さて、次の現場行くよ」
真央「―例のところですか」
綾「ここみたいにすんなり行けばいいんだけどね」
真央「…………」

綾が颯爽と歩き出す。
真央もついていく。

〇××駅付近
都内にある大きな駅。
駅周辺はあちこちで大規模な工事が行われている。

〇同・ホーム~駅ビル内
降り立つひとりの男、田辺孝作(49)が周りを見ながら驚いている

田辺「…………」

ホームにはたくさんの人々。
歩き出す田辺。
いろんな年齢層でごった返す駅ナカ。
田辺は立ち尽くしている。

〇同・工事現場
数人の住民が抗議活動を行っている。
『再開発反対!』の横断幕を北条聡美(63)が無言で掲げている。
聡美の鋭い視線が真央と綾を捉える。

綾「またあの人か。まったく徒党なんか作っちゃって。しぶといなあ、何とかもう一歩なのに」
真央「…………」

真央の耳に「町を壊すな!」「景観を守れ!」などの幻聴が聞こえてくる。

綾「真央ちゃん?」
真央「(我に返って) はい?」
綾「大丈夫? 気にしないで、この仕事やってればよくあることだから」
真央「わかってます」

真央と綾、工事現場へと入って行く。
真央は後ろ髪を引かれるように聡美が気になって―
入れ違いで田辺がやってくる。
田辺がクレーンを見上げて―

〇タイトル

〇真央と綾の仕事風景
設計図を確認したり、現場を確認したり。

〇工事現場・出入口付近(夕)
真央と綾が出て来る。

綾「お疲れさま」
真央「また何かありましたら連絡ください」

真央と綾が別れる。
真央、工事現場を見つめる。
傍らに完成予想図の高層マンション。
真央が歩き出そうとすると、工事現場の中をじっと眺める男性を見つける。
真央が不審な様子の男性・田辺に話しかけられる。

田辺「ちょっといいかい?」
真央「は、はい」
田辺「実は……迷子になっちゃって」
真央「え? 迷子? お子さんがですか?」
田辺「い、いえ、その……自分が」
真央「はい?」
田辺「っていうか、迷い人というべきかな。たしかこの近くにあったと思うんだ……実家が」
真央「実家ですか?」
田辺「と言っても……今じゃそう呼べるのかどうかもわからないけど」
真央「…………」
田辺「失礼だけど、ここの人?」
真央「え、いや、えっと―」
田辺「だよね、ごめん。いきなり話しかけちゃってビックリするよね」

田辺が行こうとして、

真央「あの―」
田辺「ん?」

〇周辺の道(夕)
真央と田辺、歩いている。

田辺「なんだ、この辺の人ならそう言ってくれればいいのに」
真央「すいません」
田辺「よっぽど怖がらせちゃったんだろう」
真央「いえ、そんなことは」
田辺「いきなりこんなオッチャンが話しかけてきたらビックリしちゃうもんね。若い女のコはとくに」
真央「そんなことないですよ。あんなに工事現場をじっくり見る人珍しいので」
田辺「腹立っててさ」
真央「え?」
田辺「俺の故郷になんてことをしてくれたんだ! って、ここの業者に文句のひとつでも言わないと気が済まなくて」
真央「…………」
田辺「でもどいてって言ってもビルが”は~い”って素直に動いてくれるわけないし、それに言える立場じゃないもん。俺も家出しちゃった身だし」
真央「家出? それは都内の近くに?」
田辺「いや、人里離れた田舎だけど」
真央「(驚いて) 珍しいですね」
田辺「都落ちとでも言うのかな、周りからは逆に何で来たんだなんて言われて」
真央「でも今は地方にスポットライトが当たってますし、ゆるキャラも有名ですし」
田辺「そんな田舎もちょっとずつ街になってきて、どこもかしこも同じようなものが建っていって、それにつれてだんだんその町の個性がなくなって」
真央「そんなことありません」
田辺「ん?」
真央「町には町なりの魅力があります」
田辺「確かにな。でも魅力ってのは、なにも新しくすればいいワケじゃないだろ。なんか古き良きものがなくなっていくって感じがしてね。そんなこと言ってる俺もかなり歳をとっちまったってことなんだろうけど」
真央「…………」
田辺「あ、たしかこの辺だ」

周囲を見渡す田辺。
真央は様子をじっと見ている。

田辺「ここに目印があったはずなんだけど……かっちゃんち、どこ行ったんだろ」
真央「何ですかそれ?」
田辺「駄菓子屋だよ。そこのおばちゃんがカツエだから」
真央「それで……かっちゃん」
田辺「おばちゃんが作ってくれるソース焼きそばがめっちゃうまいんだよ。小学校の帰りによく道草食ったもんだ」
真央「なるほど」
田辺「君に言ってもわからないか。けっこう歳離れてるし」
真央「失礼な。私だってそれくらいのひとつやふたつ―」

考え込む真央。

田辺「ないんだろ」
真央「まあ、そんなこともあります」
田辺「まっすぐ家に帰るって感じするもん」
真央「…………」

田辺の視線の先、閑静な住宅街になっている。

古びた写真を取り出す田辺。
民家が並んでおり、比較しても当時の名残りなどありゃしない。

田辺「いつもそれを便りにしてたんだ。何しろ方向音痴なもんだから」
真央「珍しいですね」
田辺「ぜんぶの男が地図読めるって思わないでほしいな」
真央「すいません」
田辺「さすがここの人だね」
真央「地図、読めるんで」
田辺「珍しいね」
真央「すべての女が地図を読めないと思わないでください」
田辺「ごめん」
真央「気にしないでください」
田辺「それにしてもなんだか見慣れない街に来たみたいだ」
真央「この辺りもずいぶん変わっちゃいましたからね」
田辺「まさか住んでたはずの土地で迷子になるなんて思いもしなかった。見慣れてる君がうらやましい」
真央「…………」

真央の電話が鳴る。
田辺が「出ていいよ」と促す。

真央「お疲れ様です、城崎です。はい―」

田辺、周囲を見渡している。
真央が電話を終える。

真央「すいません、ちょっと会社からで」
田辺「勤務中だったの? それにしてはずいぶん長い休憩だね」
真央「いえ、急に呼ばれたものですから」
田辺「そっか」
真央「じゃあ、私は」
田辺「道案内ありがとね」

真央が行こうとして、

真央「あ!」
田辺「ビックリするだろ」
真央「すいません。あの、お名前を―」
田辺「お! 興味持ってもらえた?いいよ、今度おごるから」
真央「(断るように) 結構です」
田辺「だよね」
真央「ところでお名前を」
田辺「ああ、田辺。田辺孝作」

真央が条件反射で名刺を出そうとするもハッと我に返って、
田辺は見逃さない。

真央「……城崎真央です」
田辺「これまた上品な名前でイイね」
真央「ありがとうございます」
田辺「こちらこそ」

田辺、去っていく真央の姿を見ていて―

第2話につづく)

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