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SE 街中

さくらM「数か月後、1月の東京は夕方の渋谷。金曜日だけあって、街はとてもにぎやか。それを見てるとつい『渋谷で5時』を口ずさんでしまいそうになる。あの歌の中ではポケベルが鳴ってたけれど、今や街行く人は誰もがスマホを見ている。これだけの人がいるのだから、あちこちでスマホの画面に現を抜かした男女がぶつかって恋がひとつくらい始まってもいいのに。昔の恋愛ドラマの醍醐味がすれ違いだったなんて今の時代、いったい誰が思うだろう」

SE 街の喧騒に歩行音(ヒール)がインサートして、

さくらM「原宿から渋谷方面へ歩く道すがら、街コン会場への近道である公園通りは通らないようにした。そこにチョコレートケーキのおいしいオシャレなカフェがあるからだ。先月のクリスマスイブに宮益坂のイルミネーションを一緒に歩きたいと思っていた素敵な男性がその店にいた。勇気を出して誘おうと思ったある日、転職を理由にさっき辞めたばかりだとスタッフから知らされた。あまりにあっけない結末。あれは忘れもしない3週間前の12月20日、金曜日のとても寒い夜だった」

SE 渋谷の街の音

さくらM「思い返せば1年と3か月前、彼に一目惚れして会いに行き始めたころはひとりじゃ気が引けると、学生時代の親友の奈美を連れてお店に通ったっけ。やっと知り合いにはなれたけど連絡先は交換できず、ご飯の誘いも何度かしてみたが見事にはぐらかされた。冷静になれば相手にされてなかったのだから落ち込む必要などまったくないのに、もう二度と逢えないと知ったときはしばらく立ち直れなかった。物心ついたときから私の片想いはいつも重い」

SE スマホのお知らせ音

さくら「あれ? なんだろ」

さくらM「突然、スマホの画面にSNSのお知らせが届いた。いつもはスルーするのに、そのときは何かを感じて思わずタップしてしまった」

さくら「(驚きを隠せない)え?! これって―」

SE 街の喧騒が大きくなっていて―

SE 店内の音

さくらM「日が暮れていく道玄坂を横目に、恋上手になれない私は街コン会場に着いた。店内はすでに参加者たちで溢れていた。きょうは1対1の対面スタイル。最近は街コンも多種多様で、友活、恋活、婚活と何でもあり。それにしてもいつぞやの体育館でのバドミントン合コンは大変だった。ラリーしながらお互いのことを話すのだが、息が切れてしまってぜんぜん合コンにならなかった」

司会者「きょうもよろしくぅ!」

さくらM「と、こちらへアイコンタクトをしてくる司会者はいつもの業者。サクラの私が陰ながら男女をくっつけることを期待しているのだ。ま、ギャラをもらっている以上は仕方がない。自分の恋はうまくいかないのに、他人の恋ならうまく導ける。人生とは実に皮肉なものだ。ちなみにサクラという仕事をするにおいて3つのマイルールがある。ひとつ、身バレしないこと。ふたつ、向かいの男性と連絡先を交換しないこと。みっつ、向かいの男性に心を許さないこと」

男 1「え、もしかして女優さん? オレさ、君みたいな子タイプなんだ」
さくら「そうなんですねえ。でも、もっとほかにいい子いますよ」

男 2「さっさとLINE交換して、この後ホテルで飲み直さない?」
さくら「ごめんなさーい、スマホの充電切れちゃったんです」

男 3「ぼ、ぼ、僕なんて、ど、ど、どうせ一生モテないから」
さくら「あらら、来世では一生モテるといいですねえ」

さくらM「はい、すべて不合格。男性諸君よ、理由がわかるだろうか? みんな自分のことばかりなのだ。相手の女性のことなどまったく考えていない。私はサクラだからいいけれど、純粋な女性の参加者からすればその時点で即アウト。まったく、誰かひとりくらいこの3つのルールを揺るがす男は現れないのか? お姫様の映画にも王子様は必要なくなってきているし、未来からやって来たムキムキマッチョのサイボーグのように身の危険から守ってくれる男も少ない。頼むから危機感を覚えてくれ、令和を生きる男たちよ」

成 川「(爽やかに)よろしくお願いします」

さくらM「と、ふと目の前にひとりの男が座っていた。街コンがスタートしてからいったいどれくらいの時間が経っていただろう?」

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