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さくら「(ハッとして)……あ、あの時の」
成 川「思い出したようだな」
さくら「でもだいぶ印象が違うし、それに偶然同じ場にいたってだけで私がサクラってことには―」
成 川「見たんだよ」
さくら「え?」
成 川「別の日、会社からの帰り道。アンタとあの女が店の裏で一緒にいるのを。あとで調べたら、そこが街コン会場だったと知ったときにはさすがに驚いた。せっかく忘れかけてたのに、思い出させやがって」
さくら「……………」
成 川「これはきっと何かの巡り合わせだ。そう思って俺は決めたんだ、ふたりの正体を暴いてやろうってな」

成川M「だが、あの女の足取りはその後どうやっても掴めなかった。ところで、さっきから話題に出ているあの女とはいったい何者なのか気になっていることだろう。乗り気ではないが、少し時間の針を戻す」

SE 大雨に渋谷駅ホームの音声を被せる

成川M「数か月前、昼過ぎの渋谷駅。立食パーティーの夜と同じように街は大雨が降っていた。俺はうっかり傘を忘れて、軒下で雨宿りをしていた。すると……」

勧誘女「リュウさん、おまたせ」

成川M「こないだカップリングした女性がそこに立っていた。ランチデートの約束をしていたのだ。彼女の名前は……思い出したくもない」

勧誘女「入ります? 小さい傘だけど」

成川M「彼女はそう言うと俺と相合傘をして歩き出した。かなりの密着感に驚きを隠せない。ショートカットで童顔、甘い声にオシャレな服装で自信に満ち溢れた雰囲気。そしてほのかに香る香水。歳は28の俺より4つ上。その年齢を知ったときは正直驚いた。32じゃなく、23の間違いじゃないかと思えるくらい若く見えたのだ」

勧誘女「どんなお店か、楽しみだな」

成川M「正直言うと街コンへ出ることに乗り気ではなかった。これまで独り身で何の不自由もなかったからだ。幼なじみに、イケメンなのにモテない哀れな親友がいた。毎回フラれるたび、女は怖い生き物だと涙ながらに俺に愚痴ってきた。彼は女性を好きになると一途になって周りが見えなくなってしまう。恋は盲目とはよく言ったもので、いつも相手からの気持ちが向く前に暴走して関係をダメにする。彼の重い片想いでこじれた恋愛を間近で何度も見てきたからか、この歳まで恋をしたいとはどうしても思えなかった」

SE 雨の中、ふたりの足音(街の喧騒に大雨と歩行音を挿入)

勧誘女「寒いね。もっとくっついちゃおっかな」

成川M「そんな俺が彼女を好きになった理由。それはお気に入りの小説に出てくる大好きなヒロインそのものだったのだ。主人公の男を優しく見守るショートカットで童顔のオシャレな年上の女性。決して安易に実写化できるレベルではない。まさに事実は小説よりも奇なり。地味で影の薄い俺が幼少の頃から読書ばかりしてたのは、人間と違って本は心変わりしないからだ。ゆえに仕事以外では異性との交流を避けていた。なのに、予期せず生身の女性に初めて恋をしてしまった。夢の中で拾わなかった5円玉のように、求めてないときほどすんなり手に入ってしまうのが世の常というものか」

<シナリオ⑦へつづく>

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