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<登場人物>
白石亜沙美(27) 冬木のお手伝い
冬木幸彦(48) 自称・奇跡職人

〇駅前広場(夕)

たくさんの人が行き交う。
あちらこちらで流れているクリスマスソングや、飾られている大きなクリスマスツリー。
チラシを持って立っている女子高生姿の白石亜沙美(27)、歩いているたくさんの人たちにチラシを渡している。

亜沙美「お願いしま~す」

亜沙美を見ている道行く人々。

亜沙美「(ボソッと)は、恥ずかしい」

チラシを配り終わり、段ボールの中から別のチラシを手に取る亜沙美。

亜沙美「なんで私がこんなこと……」

身震いする亜沙美。

亜沙美「ヘックシュン! うう、寒っ」

亜沙美の携帯電話が鳴る。
「冬木さん」の文字。
電話に出る亜沙美。

亜沙美「はい、もしもし。無事に配り終わりました。はい? ええっ?」

〇同・俯瞰(夜)

ホームに停まる電車。
たくさんの人が集まっている。

〇駅前ビルの屋上(夜)

駅前広場に集まる人の群れを見ている冬木幸彦(48)、うなずいてから空を見上げる。
屋上階のドアが開き、両手にバケツを持った亜沙美がやってくる。

亜沙美「ただいま戻りました」
冬木「おっ、あさみん♪ おかえり~」
亜沙美「だからその呼び方はやめてください」
冬木「いいじゃん」
亜沙美「よくないです」

亜沙美の女子高生姿をじろじろと見る冬木。

冬木「うん、全く違和感無いね」
亜沙美「いくら私が童顔だからってこれは……」
冬木「おしゃれは我慢だ」

突然、デジカメで亜沙美を撮る。

亜沙美「ちょっと! 何するんです!」

両手を合わせて拝む冬木。

冬木「今宵のおかずだ。あしからず」
亜沙美「この変態!」

亜沙美、冬木にビンタする。

冬木「痛てぇ!」

亜沙美、デジカメを冬木から奪ってデータを消す。

亜沙美「帰ります」
冬木「ごめんごめん! ところで水は?」
亜沙美「この通り、ちゃんと」

バケツの中を見せる亜沙美。
多量の水が汲まれている。

冬木「ありがとさん」
亜沙美「いくらなんでも女の力でこれは」
冬木「硬いこと言わないの」
亜沙美「それで、何するんですか?」
冬木「ひ・み・つ」

首をかしげる亜沙美。

冬木「誰にもつけられてないよね?」
亜沙美「は、はい」

満面の笑みを浮かべる冬木。

冬木「心配だからここで見張ってて」
亜沙美「わ、わかりました」
冬木「お願いね」

バケツを持って歩いていく冬木。

亜沙美「あれ、どこへ?」
冬木「内緒。あ、来ちゃダメよん」

ウインクする冬木。
首をかしげる亜沙美。
物陰に消える冬木。
苦笑する亜沙美、上着ポケットの中からチラシを取り出す。
『今夜、奇跡が起こる!』。

亜沙美「あのオヤジ、バカじゃないの?」

しばらくして冬木が戻ってくる。

冬木「お・ま・た・せ」
亜沙美「何してたんですか?」
冬木「今にわかるさ」

時計を見る冬木。

冬木「そろそろだな」
亜沙美「えっ?」

冬木、突然空に向かって大きく両手を広げる。
ぶるぶると震える冬木の両手。
驚く亜沙美、おそるおそる冬木を見ている。

冬木「聖なる夜に奇跡を!」

次の瞬間、空から雪が降り始める。

亜沙美「う、うそぉ!」
冬木「ハハハ、驚いたかい?」
亜沙美「し、信じられない」

大声で笑っている冬木。
しばらく雪を見ている亜沙美、見上げると途中から降っている雪の軌道が曲がっていることに気づく。

亜沙美「ん?」

雪の出どころを目で追う亜沙美。
冬木の目を盗み、物陰の方へゆっくり歩いていく亜沙美。
物陰に置かれた機械から雪が放出しているのを見つける亜沙美。

亜沙美「ああっ!」
冬木「やべ、ばれちゃったか」

照れ笑いする冬木。

亜沙美「これは?」
冬木「これかい? 人工降雪機だよ」
亜沙美「じんこーこーせつき?」
冬木「冷水と冷気を混ぜたものを霧状に低温の空気中へ噴射すると雪になるんだ」
亜沙美「へえ~」

降っている雪を手で取り、感触を確かめる亜沙美。

亜沙美「あ、これ、ザラザラしてますね」
冬木「人工だからね」
亜沙美「へえ~」

亜沙美の肩を叩く冬木。

冬木「あれ見てみ」
亜沙美「えっ?」

冬木が亜沙美に望遠鏡を渡して駅前広場を指差す。
亜沙美、望遠鏡越しに駅前広場を見下ろす。

〇もとの駅前広場(夜)

ライトアップされたイルミネーションに舞う白い雪。
群がるたくさんの人々が見える。
雪を見て喜ぶたくさんの親子や抱き合うカップルたち。

〇もとの駅前ビルの屋上(夜)

微笑んでうなずく冬木。

冬木「このために仕事してんだよ」
亜沙美「なるほどぉ」

地上の光景に見とれる亜沙美。

亜沙美「奇跡……ねぇ」

しばしの沈黙。

冬木「ねぇ、あさみん」
亜沙美「はい」
冬木「なんでここで働こうと思ったの?」

望遠鏡を外し、固まる亜沙美。

亜沙美「え、そ、それは……」
冬木「教えてよ」
亜沙美「え、いや……」
冬木「まさか、何となく?」

こくりとうなずく亜沙美。

冬木「図星か」
亜沙美「すいません」
冬木「いや、いいよ」
亜沙美「真剣に考えたことないんで」

頭をかく冬木。

冬木「オレな、働くって飯食うためだと思う」
亜沙美「それはそうですね」
冬木「でもそれだけじゃない」
亜沙美「え?」
冬木「あの広場の人たちのように、喜んでくれる人の顔を見るためでもある」
亜沙美「…………」
冬木「人には必ずやりがいのある仕事があるんだ。だから何となくじゃ困るよ」
亜沙美「冬木さん……」

亜沙美、黙りこむ。
人工降雪機が止まり、雪が止む。
我に返る冬木。

冬木「あ、ごめん。つい……」
亜沙美「い、いえ」

慌てる冬木。

冬木「よ、よぉし、次の現場は沖縄だぁ!」
亜沙美「えっ?」
冬木「降らない地域で雪を降らすぞ!」
亜沙美「マジですか?」
冬木「オレについてこい!」
亜沙美「は、はい!」
冬木「じゃあ、これ。1日お疲れ様!」

亜沙美に封筒を見せる冬木。

亜沙美「お! ありがとうございます!」

亜沙美、封筒を取ろうとするが冬木は渡さない。

冬木「と言いたいところだけどお預け~」
亜沙美「何でですか?」
冬木「片付け、まだだよ」
亜沙美「ええっ?」
冬木「はい、とっととやる」

冬木、歩いていく。

亜沙美「どこ行くんですか?」

冬木、眠るジェスチャーをする。

亜沙美「あ! ずるい!」

亜沙美に手を振る冬木。
屋上のドアが閉まる。

亜沙美「んもう!」

身震いする亜沙美、降雪機周辺に歩いていき、片付けを始めるが口元は少し微笑んでいる。

亜沙美「ま、いっか」
<終わり>

この物語はフィクションであり、
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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