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〇遊園地
昼下がり。
家族連れやカップルで溢れかえっている。
アトラクションを楽しんでいる来客たち。

屋外ステージで女性記者・宇加賀井益代が設置された座席に腰掛けている。

スダの声「益代さーん」

近づいてくるひとりの男。
物書き・スダである。

スダ「来てくれたんですね!」
益代「これも仕事だからね。ねえねえ今回の台本、あなたが書いたんですって?」
スダ「とはいっても地方の小さなヒーローショーですけど」
益代「なに言ってんの、こういう積み重ねが大事なんだから」
スダ「ありがとうございます」

益代が空を見上げる。
だんだん雲行きが怪しくなってくる。

益代「それにしてもイヤな天気ね」
スダ「今年は梅雨明けが遅いですから」
益代「梅雨のまま夏終わっちゃうんじゃない?」

と、突然女性の声が会場に響く。

女性の声「フフフ。会場のかわいい子どもたち、ヒーローなんて助けには来ないわよ」

おどろおどろしい音楽が流れ、いかにも悪役然とした中年女性が登場。
どこかしら益代に似ている。

益代「あれ?あの悪役、ウチに似てない?」
スダ「いえ、まったく」

子どもたちが泣き出す。

???「出たな、逆風怪人・魔巣世」

益代「いま、益代って聞こえたけど」
スダ「聞き間違えでしょう」
益代「ところで逆風怪人ってなに?」
スダ「まあ見ててください」

現れたのはシナリオ仮面。
片手に鉛筆を持ってポーズをとっている。

益代「ねえ、鉛筆っていつの時代? 今は令和でしょパソコンでしょ。時代考証くらいしなさい」
スダ「シナリオ学校に通ってた頃は鉛筆で毎週課題の原稿を書いてたんです。初心を忘れないように」
益代「確認するけど、ヒーローショーだよね? これ」

シナリオ仮面「シナリオ仮面、ただいま脱稿!」
魔巣世「出たな! シナリオ仮面」
シナリオ仮面「きょうもピンチを乗り越えてみせる」
魔巣世「逆風怪人・魔巣世が逆風で陥れますよ」

もはや怒り寸前の益代がスダの肩に手を置いて、

益代「あの口ぐせ、もろウチだよな」
スダ「だから違いますってば」

魔巣世「ふふふ、お前がここに来ることはわかっていた」
シナリオ仮面「今日こそここで決着をつける!」
魔巣世「いつも倒されてばかりではこっちも納得がいかない。だから新技を考案してきたわ」
シナリオ仮面「いざ勝負!」
魔巣世「くらえ、必殺・直しの嵐!」

会場の隅から風で飛んできた多くの原稿用紙がシナリオ仮面を襲う。
よく見ると赤ペンで添削済み。

魔巣世「どうだ、決定稿はおろか準備稿へすら届かない深い絶望は?」
シナリオ仮面「現場のゴミ箱に捨てられてボツになることに比べればこんなもの!」

シナリオ仮面が原稿用紙の嵐をはねのける。

魔巣世「ほう、これではまだ序の口というワケか。ならこれならどうかな?」

魔巣世が念じ始める。

魔巣世「オリジナルシナリオが世間に認められない悔しさ、良いネタが思い浮かばないというスランプ」

とっさにシナリオ仮面が耳を塞ごうとするも、

シナリオ仮面「手が動かない!」
魔巣世「これは手の動きを封じる呪文だ。いいかげん現実を知りなさい、そうすればあきらめられる」
シナリオ仮面「そうはいかない!」

シナリオ仮面はぐっと耐える。

魔巣世「精神論とやらでまだ耐えるか。ならもっと苦痛を与えてやろう。もらえない年金、高くなっていく税金、返済すべき奨学金、老老介護などもうできん!」
シナリオ仮面「うおおおぉ」

益代「さりげなく韻踏んでディスってる?」
スダ「人生はフリースタイルなんで」

魔巣世「作家の天敵・ドライアイ、不規則生活による虫歯の増殖、年々徐々に衰えていくそのカラダ」
シナリオ仮面「やめろおぉ」
魔巣世「先へ延ばして明日にしよう、明日になっても明日にしよう。死にゆくその日まで永久に繰り返すのだ」

シナリオ仮面が特殊メイクでどんどん老け込む。
シワが増え、歯が抜け、腰が曲がっていく。

益代「ちょっとリアルすぎない?」
スダ「ヒーローとてひとりの人間ですから」
益代「いやいや、そこは子どもの夢を壊しちゃまずいでしょ」
スダ「あれくらいインパクトないと見てる側も目覚めませんから」
益代「もはやトラウマ級だわ。昔の世にもみたい」

突然、司会のお姉さんのアナウンスが会場に響く。

お姉さん「会場のみんな、シナリオ仮面を応援して!」

子どもたちがシナリオ仮面の名を何度も叫ぶ。
なかには「しっかりしろ!」「意味わかんない」「つまんない」「ヒーロー出せ」という声もある。

益代「子どもたち、意味わかってるのかな」
スダ「がんばれーシナリオかめーん!」
益代「いや、アンタは作者だろ」

シナリオ仮面が鉛筆を魔巣世へ向ける。

シナリオ仮面「声援ありがとう。賛否あるからこの仕事はやりがいがあるんだ」
魔巣世「なに、まだこっちに向かってくるというのか?」
シナリオ仮面「どうなろうと一度きりのこの人生、思いきりこの逆境を楽しんでみせようぞ」
魔巣世「来なさい!」
シナリオ仮面「行くぜ!!」

シナリオ仮面が魔巣世に向かって行く。

益代「鉛筆を武器に使うのはコンプライアンス的にどうなの?」
スダ「少しくらいなら問題ないでしょう。最近の世間はめったやたらに騒ぎすぎです」
益代「良い子のみんなはマネしないでね」

そして響く衝突音。
会場の客たちが固唾を飲む。
体勢を崩したのは……シナリオ仮面のほうだ。

会場にどよめきが起こる。

シナリオ仮面が倒れ込む。
魔巣世はニヤリとする。

魔巣世「ふっ、現実を見ずに夢なんか追ってるからこうなるんだ。周りを見ろ、正社員になって安定した生活を送ってるじゃないか。作家がオリジナルで食っていける時代は終わったんだ。いいかげん、気づきなさ……」

次の瞬間、魔巣世が倒れ込む。

魔巣世「な、なんですって?!」
シナリオ仮面「シナリオ仮面の最も好きな瞬間、それは相手に一度勝ったと優越感を味わせておいて、実は負けていたという屈辱を思い知らせること」
魔巣世「きさま!!まるで某マンガの名ゼリフみたいなことを言いおって」
シナリオ仮面「このシナリオ仮面という人生の原稿用紙にエンドマークの文字は決してない」
魔巣世「またしてもこのアタシが負けるとは。しかし、お前がまた心の弱さを少しでも見せたときはいつでも現れることを忘れる……な」

魔巣世が舞台袖へ退場する。

勝利のファンファーレ。
子どもたちが歓喜の声を上げる。

益代「……なにこれ?」
スダ「自分なりにテイストを加えてみました」

ヒーローショーが終わり、帰っていく観客たち。

益代「今回、いろいろツッコミどころ満載なんだけど」
スダ「小さくまとまりたくなかったので」
益代「久しぶりのコラムだからって腕鈍らせてない?」
スダ「人間には誰しもバイオリズムの波がありますので」
益代「言いわけしないの!」
スダ「ところで今回のコラムはヒーローショーのなかにヒントがありました」
益代「え? あれ前フリだったの?」
スダ「はい」
益代「壮大な伏線回収をここからするとは。じゃあ、宇加賀井益代が伺いますよ」
スダ「あ、逆風は吹かせないでくださいね」
益代「やっぱ魔巣世のモデルはアタシか!」

ヒーローは敵が強いからこそ輝く

スダ「主人公っていつも大変な思いをしてます。悪役は主人公の嫌がることを知っていて、そこを壮絶なイジメのごとく突いていくんです」
益代「たしかに。めげずに頑張ってるヒーローを見てると応援したくなる」
スダ「何か目的を達成するために大変な向かい風を幾度となく浴びながらも前へ進む主人公に対して、悪役は割とスムーズで追い風が吹いています」
益代「で、クライマックスにて一気に形成逆転すると」
スダ「弱点のないヒーローはいません。もし完全無敵なら視聴者が共感できませんから。ヒーロー=視聴者なんです。ちなみにシナリオ仮面の場合は現実を知ることでしたね」
益代「なんか観てて複雑だったわ」
スダ「これが現代社会ですので」
益代「特撮なら子どもに夢を与えないと」
スダ「おそらく今の子どもたちが大人になる頃には、今日よりもっと生きにくい時代になっていることでしょう。だからこそ夢があるなら大事にしたまま立ち向かってほしいんです」
益代「一応メッセージ性は入れたんだ」

スダ「ちなみに観ている側に共感させるために善は小さな勢力で逃げる、悪は大きな勢力で追うというシーンが洋画には多いです」

描写でわかる、ヒーローと悪役の構図

スダ「映画・ターミネーター2の冒頭シーンで、悪役のT-1000は大型トラックに対して味方のT-800はハーレーのバイクでキーパーソンのジョン少年を追いかけてるんです」
益代「たしかに。で、その前のシーンではターミネーターのふたりがピストルとショットガンという武器の威力の大小をあえて敵味方逆に持たせてるから非常にニクい」
スダ「もしヒーローが何人も集まって、ひとりのザコ敵を相手にしたら?」
益代「弱いものいじめになっちゃう。視聴者は感情移入できないね」
スダ「ヒーローの力量は敵もほぼ同じくらいかそれ以上のレベルでないと物語はおもしろくならないんです」
益代「たしかに!」
スダ「益代さん、試しに僕に何か悪口言ってみてください」
益代「悪口?ここで?」
スダ「溜まってること言ってみてください。スッキリしますよ」
益代「アンタの作品なんてありきたりよ!」
スダ「……あ、ありきたり?」
益代「そうよ、いつもシナリオ見てるけど中身なんてありきたりじゃない」
スダ「やめて、その言葉を言わないで」
益代「どうして?」
スダ「……いいからやめてください」

スダが弱体化していく。

益代「ほう、そういうことね」
スダ「このようにヒーローには必ず弱点があるんです」
益代「ありきたり、ありきたり」
スダ「だからやめてと言ってるじゃないですか」
益代「やめろって言われたくなるとやりたくなるのがヒトの真理、でしょ?」

いつの間にか空には七色の虹が出ている。

益代「曇り空に虹、ってのいうがまたヒトの一生の何たるかを表してるわね。良いことばかりじゃないけど悪いことばかりでもない」
スダ「そうですね。あ、次回のテーマはヒーロー戦隊のカラーに取り憑いた勝手な固定観念の謎に迫りましょうか。色とりどりの虹だけに」
益代「もういいわ」

お ま け

ヒーローショー、勝負のあとの光景。

シナリオ仮面がふと何かに目を留める。
魔巣世が立ち去った場所に何かが落ちている。

シナリオ仮面「これは……」

逆風怪人・魔巣世が落としていったもの。
それは、、、鉛筆。
シナリオ仮面の手に握られたものと同じ。

フラッシュ。
赤ん坊のころのシナリオ仮面。
、、、を抱いているのは若き女性。
女性の面影は、先ほど立ち去った者の姿に似ていて―

シナリオ仮面「まさか……魔巣世は……」

<つづ……かない>

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