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前回を読み逃しちゃったあなたへ
シナリオは「誰か」の悩みを解決するためにある

〇ビルの屋上
こじんまりとした建物。
一段高いステップの上にいる若い男は再び足を空中のほうへ向けた。

下手をすれば彼は真っ逆さま。

お昼真っ只中。
記者の宇加賀井益代(うかがいますよ)は、男の説得を試みるもうまくいかない。
隣には物書き・スダ。

益代「あんた、なに言ってんの?!」
男「聞こえなかったのか?そこのお兄さんにまだ聞きたいこと聞くまではそっちへ戻らないって言ったんだよ」
益代「(スダに)どうする?」
スダ「わかりました。もう少し彼の話を聞きましょう」
益代「で、つぎの要求は?」

男が指を差す。

その先にはスダの手にある原稿。
彼が書いた作品だ。

男「その物語をどうおもしろくできるか、考えてくれ」
益代「は?そんなの丸投げと変わらないし!」
男「何でも解決してくれるんだろ?」
益代「(スダに)なんとかなりそう?」
スダ「…………」

スダが男のシナリオを何枚か読んで、

スダ「わかりました」
男「どうだ?どこがどうつまらないか教えてくれよ」
スダ「それは……出来ません」
男「は?」
益代「え、うそ?!」
スダ「僕はあなたの優秀な先輩ライターじゃないですし、コンクールの大物審査員でもありません。何より人のことをとやかく言いたくないので」
益代「ここでまさかの守りに入るなんて、いつものあんたらしくない」
スダ「いえ。さっき益代さんがおっしゃったように、丸投げ状態になっているからです」
益代「え?どういうこと?」
スダ「あなたもこの物語の主人公も自分で悩みを解決してないんです。すべて丸投げで受け身、これでは読んでくれる誰かひとりも共感されないでしょう」

受け身な姿勢は共感されにくい

スダ「これは作家だけでなく、仕事にも言えることです」
男「べつにこっちは受け身になりたくてなってるワケじゃないんだ!」
スダ「でも何もせず向こうから何かが来るのを期待して待ってる。今あなたが僕に取っている行動も同じですよ」
男「…………」
スダ「受け身になってしまう理由はわかります。自信が持てないことによる恐怖心なんです。自分には出来ないと思うと行動にブレーキがかかるので、自分から動けなくなるんです」
男「アンタにはわかんないんだ」
スダ「え?」
男「好きでこんなことしてるんじゃない!こうすることでしか気持ちを表現できない人だっている!昔のように努力や根性で立ち直れたら、そもそもこんなことしてない!」
スダ「つまり本当は飛び降りる気はないと」
男「…………」
益代「(ボソッと)図星みたいね」
男「誰かに頼りたいときだってあるんだ!誰だってひとりじゃ生きてけないってよくいうだろ?」
スダ「誰かに助けてもらうことは大事です。でもそれにはまずするべきことがあるんです」
男「何だと?!」
スダ「自分の問題は自分の力で解決しようという姿勢です」

シナリオも人生も自分の抱える問題を自分で解決しようと動くから意味がある

スダ「自分が抱える問題を解決できるのは自分だけなんです。どんなに優秀な教師や講師や医師から一流のアドバイスを受けたとしても、最後は自分の意志で立ち向かい乗り越えるしかないんです。自分と向き合わないと何の解決にもなりません」
益代「あくまで周りはサポートってことね」
男「矛盾してないか?」
スダ「はい?」
男「困ったら誰かに相談するだろ、ふつう」
スダ「別に矛盾はしていません。相談するのは自分がやってみてどうしても出来ない時です。それに、自分で解決しようと行動して頑張ってるときに初めて誰かが助けてくれると思うんです」
男「!!」
スダ「まずは自分をたいせつにすることを考えてください」
男「自分をたいせつにするってことは自分のことしか考えないってことだろ?それこそ矛盾じゃないか」
スダ「いえ、自分をたいせつにすることと自分のことだけを考えることって少し意味が違うと思うんです」
益代「今回はここで宇加賀井益代が伺いますよ」
スダ「自分をたいせつにするってことは、強くなるためにたとえ傷つくことがあっても負けずにだけどムリせずに生きていこうとする姿勢なんです。反対に自分のことだけを考えるってことは、周りに傷つけられるのを恐れて自分の身をかたくなに守るってことだと思います」

真の敵はあなたの中にいる

スダ「ヒトは生きるうえで戦うべき敵がいます。それは誰だと思います?ヒントはごく身近にいる人です」
益代「いけ好かない上司やわがままな後輩とか」
スダ「それ、リアル過ぎます」
益代「しまった!本音がつい―」
男「……自分自身か」
スダ「そうです」
男「前回のコラムで言ってたし、あんたの言ってる内容からきっとそうだろうと思った」
スダ「物語には必ず主人公の行く手をジャマする障害物が必要とされています」
益代「たしかにヒーロー映画は終わるまでの間、主人公は悪い敵から攻撃されたりピンチにされたりしてるわ」
スダ「でもその前にヒーローは自分の心と戦ってるんです」
益代「え?」
スダ「だってヒーローが世の中を平和にしようという気持ちで動かなければ、向こうから襲って来るかどこかで偶然バッタリ遭遇しない限り敵と戦うことはないんですから。ヒーローだって命と引き換えに平和を守ろうとするわけですから、きっと心に迷いがあるはずです。真の敵は外ではなく、内側。つまり自分の気持ちなんです」
益代「たしかに!」
スダ「実生活でもそうです。やりたいと思ってる気持ちを脳や心が言い訳を出してストップさせてませんか?」
男「……言われてみれば」
スダ「人は無意識に本能で自分の身を守ろうとします。でもそれが生物として自然なんです。問題はその守ろうとする気持ちや言い訳と戦って勝てるかどうかにかかっています」

スダ「恥ずかしい話、僕も一度作家を諦めようと思ったことがありました」
男「何?」
スダ「2年前、30間近になってもぜんぜん結果が出なくていろいろ悩んでたんです。いっそのこと執筆から離れようと思って」
益代「ここのところ暴露する傾向にあるわね。まさか今度、暴露本を電子書籍にするつもりじゃ?」
スダ「売れるほどまだ有名じゃありませんよ」
益代「たしかに」
男「でもあんたはこうして戻って来た」
スダ「はい、何とか」
益代「きっかけは何だったの?」
スダ「毎日起きてから寝るまでシナリオのことしか頭に浮かばなかったんです。他の何をしてるときでも、どうやったらおもしろく書けるだろうか?そのことがずっと頭から離れなくて。それで決めたんです、戻ろうって。二度とあきらめず、自分のことは自分で解決しようって」
益代「ふーん、だからさっきあんなこと言ったのね」
スダ「と言いますと?」
益代「人のことをとやかく言いたくないって部分よ。自分も同じような経験してたんじゃん」
スダ「…………」
益代「今はブログの更新が遅れてる問題を解決しないとね」
スダ「それはですね……」
益代「図星でしょ?もうすぐコラム開始から1年だもん、あんたの思ってることくらいわかる」
スダ「自分への戒めの面もありまして」
益代「物語上では同じ日の出来事だけど、現実世界では前回から今回までブログ更新する間に2週間近く経ってるからね」
スダ「基本、このサイトでは第4の壁を壊しまくってますから」
益代「続編ができるまでブログの中で時が止まったまま待ってるのって案外大変なのよ?」
スダ「でもずっと歳は取らないから良いじゃないですか、とくに益代さんは」
益代「おい」

男の声「兄さん、ホントに脱線のプロなんだな」

スダ「失礼しました。じゃあ、受け身のところまで話を戻しましょうか」
男「戻しすぎだな」
スダ「あなたは誰かに書けと言われてこれを書いたんですか?」
男「そんなわけないだろ」
スダ「ですよね?じゃあ、どうして書こうと思ったんでしょう」
男「それは……書くのが好きだから」
スダ「はい、そこです。人は好きなことに対しては自分から動く生き物なんです」
男「!!」

自分を動かすもの、、、
それは「好き」という気持ち

スダ「人は誰にでも好奇心があって、気になったものはとことん調べる習性を持ってるんです。反対に誰かからやれと言われたことをやるときはなかなかうまくいかないはずです。それは相手の思うようにしなきゃという気持ちと自分の我が優先されて、本来の好奇心がなくなるからです」
男「…………」
スダ「あなたは誰かに作家になれと言われたわけじゃないですよね?自分の意志でこの物語を書いたんですよね?」
男「ああ」
スダ「なのに途中であきらめて投げ出して、おまけに自分の身まで投げ出そうとするなんてそれは自分に嘘をついていることになりませんか?」
男「…………」
スダ「自分の好奇心から動いていく姿勢こそ大切にすべきことなんです。そういう姿を見た周りの人たちが、あなたが仮に壁にぶつかったときに初めて手を差し伸べてくれるんだと僕は思います」
男「…………」
スダ「ところで益代さんはどうして記者になろうと思ったんですか?」
益代「え?そこであたしに振る?」
スダ「コラムも16回目なんで、リピーターの方にお伝えしたいと思いました」
益代「特別篇も入れて17回だけど?」
スダ「細かいことはいいですから」
益代「いろんな仕事のウラ話を知りたいと思ったの」
スダ「と言いますと?」
益代「自分の仕事のことはよく知ってるけど、それ以外の仕事がどんなものかはわからない。だからその道を生きてる人に仕事の裏側を聞きたいと思ったの。そうするとその人の生き様がわかるのよ。一見頼りなさそうな人が実はいちばん人の本性を見抜く才能を持っていたり、キツそうな性格の人が実はいちばん人のことを熱心に考えてたりするのよ。そういう意外性を知るのが楽しいからかな」
スダ「興味があるからこそ、好きだからこそ、人は仕事をするんだと思います」
男「…………」

ふと男は空を見上げた。
周りの高層ビルに囲まれていても、太陽は隠れることを知らない。

スダ「さて、あなたにお伝えしたいことがもうひとつあるんですが……もうここまでにしましょう」
男「は?」
スダ「説得の続きは2時間サスペンスの帝王か女王におまかせして、僕たちはランチへ行かないと」
益代「え、船越さんと片平さん近くでロケしてるの?」
スダ「まさか。ただの冗談です」
益代「今この状況でそんなジョーダン言える?」
スダ「言うこと言いましたし、それにもうすぐランチ終わっちゃいますし」
益代「こっちは説得のことですっかり食欲なくなっちゃったわ」
スダ「あとは彼が決めることです。こっちへ戻るか向こうへ逝くか」
益代「でもそれじゃああまりに無責任じゃ――」
スダ「(ボソッと)お願いします」

益代が渋々、スダについていく。
拍子抜けする男。

男「待ってくれよ」

ふたりは無反応。

男「飛び降りるぞ?本気だぞ?」

それでも無反応。
焦り出す男。

男「おい!おい!!」

どんどん離れていき、やがてふたりの姿は見えなくなった。

男「ちきしょう!!」

真下を見る男、道路や通行人が見える。
やがて拳を握ると、意を決してステップからジャンプした。

次回につづく

このコラムはあくまで物書き・スダの視点で書いております。
あらかじめご了承ください。

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