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2019年7月25日。
すみだスタジオパーク 倉にて。

かわいいコンビニ店員飯田さん第8回公演
「マインドファクトリー~丸める者たち~」

「マインドファクトリー」公式サイト

<作・演出>
池内風

<出演>
宮崎翔太

奥野亮子(鵺的)
土屋杏文(青☆組)
梅田洋輔(アマヤドリ)
佐野うた
中宮川ふくろ(テトラハウス)
辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
井本みくに
袖山駿
山脇辰哉
岩塚光希(喜劇のヒロイン)
米田敬
難波なう

林竜三
円地晶子(無名塾)

古河耕史

本作は2015年公演の再演で、当時連日完売で立ち見ができるほど話題を呼んだ舞台だ。

ポスターに「ストレス耐性の弱い方、過去に強いパワハラなどで精神的なバランスを崩された経験のある方にはオススメできません」の文字が。

本作のテーマは「パワハラ」だ。

舞台だし、さすがにそこまで過激なものではないだろうと思っていた。
最近はコンプライアンスってものがあるし……

だが、そんなことは決してなかった。

マジで殴るわ蹴るわ、性暴力めいた描写もあるわでこれまで観てきた舞台のなかで最も衝撃的だった。

やった側とやられた側はずっと平行線。
双方の言い分はぶつかって絶対にわかり合えない。

愛情と受け止めるか。
暴力と受け止めるか。

捉え方でどうにでもなってしまうのだから。

どの時代にも必ず起こり、決して永遠に答えの出ないテーマだ。

自分もかつて勤めた会社で経験している。
幸いここまでひどくはなかったが、精神的にじわじわと追い詰められるあのえげつない感覚は舞台を観ていて思い出すほどリアルで忠実だった。

だからこそ過去と向かい合うために最前列のど真ん中の席にした。

これがすごかった。
ほんの数センチの距離で暴力シーンが繰り広げられた。
まさに自分がそこにいる感じ。

……来てよかった、と心から思った。

「人間の一番の魅力は毒だ」とある脚本家が言った。

その毒を持ったのが副主人公の監督。

最低な意味で魅力的なのだ。

目的のためならどんな手段も選ばない。
部員たちを殴り蹴り、女子生徒を犯す。
言葉巧みに相手に罪悪感を植え付ける。
まさにこの上なくやりたい放題。

タバコ吸ったりパチンコ行ったりする学生たちがとてもかわいいものに思えてきてしまう。

この監督、まるで人間が元来持っているはずのどす黒い欲望たちが集まって形成された悪魔のよう。
決して隙も弱点もなく、正論をこれでもかと主人公たちにぶつけてくる。

実はどこか人間臭さがあり、ふと弱みを見せてくれることを期待したがそんなことはまったくなかった。

しかし、この監督こそ最も人間らしいのでは?とも思った。

普段我々とくに日本人には理性というものがあり、思いやりやゆずり合いという感覚を成長する過程で周囲から教えられているおかげで今の日常がある。

逆を言えば、そういう感覚や意識がない世界も必ずある。

人間は欲だらけな動物だ。
だからこそ制御するようにと意図的に仕向けられているのではないだろうか?とさえ思えて来る。

その欲のまま突っ走っているのが今回の監督なのかもしれない。

言っておくが、体罰のすべてが悪いことだとは思わない。

結果を出すという目的達成のためなら多少のケツ叩きは必要になるし、もし生徒が人道に反する悪い行いをしたら咎めるのが教師だし、口で言ってもわからないなら最終手段として愛のムチを与えるのは仕方ないからだ。

ただし今回はあまりに程度が違い過ぎた。

鑑賞後にふと気になったことをいくつか。
以下、ネタバレ注意

謎の部員・ホンゴウ
本編には未登場ながら存在感は大で、名前が服着て歩いている状態。

このホンゴウ、よく部活をサボる。
なのに監督はスルーしている。

監督曰く「怒られないように取り繕ってる部員たちとは違うから」という理由を述べていたが、あまり合点がいかない。

ふと思ったのが、女子マネージャー・ゆきへの強姦という弱みをホンゴウが握っていたということ。

それで監督は強く言えないのだろうと途中まで思ってた。

しかしラストでゆきは他の男子部員にも監督と肉体関係にあることを話しており、当初は怯えていたゆき本人も最後はその立場を笑顔で受け入れてしまっているので矛盾が生じる。

結局その答えはハッキリ出ないまま終わるのがまたリアルでゾッとした。

まさかの主人公の敗北
計2時間10分の上演時間、クライマックスのラスト10分前で主人公が敗北するという衝撃の展開に驚きを隠せなかった。

これが一般的なアクション映画なら主人公の逆転勝利タイムなのだが、この作品はそうはならない。

物語の主人公は主将の田所と監督の永田。
このふたりの攻防戦が最大の見せ場となる。

あまりの不条理に野球部を辞めた田所に永田は戻ってきてほしいと説得を試みる。

壮絶な心理戦が繰り広げられるなか、監督はついに最終手段に出る。

それは田所を殺すこと。
どんなに殴っても説得を拒否したため、今度は物を使って殴ろうとする。
決して容赦はしない。

ここで田所は恐怖のあまり思わず「戻ります!」と涙ながらに折れてしまう。
主人公、まさかの敗北。

このシーンの監督が作中で最もえげつない。
もともと理性の無い人間はこういうものなのかもしれない。

ラストで監督に一応天罰は下るのだが、主人公が反撃して一矢報いる!とはならなかった。

それがまたリアルで、余韻となって味わい深い。

置かれた立場の対比
本編に出番こそ少ないが、中居峻介と橘ゆかりという青春を謳歌している男女が登場する。

このふたりはいわゆる今どきの学生。
おしゃべりしたりカラオケ行ったりして、いつもいちゃいちゃしている。

昭和のような厳しい訓練を耐え抜く野球部。
平成がもたらした平和な日常を遊ぶカップル。

もしかして時代を対比して、お互いを引き立て合っているのではないかと。

これはキャラ間の性的関係にもいえる。

永田はマネージャーのゆきだけでなく、女子生徒の恭子までも強引に犯している。
一方、中居とゆかりは同意の上でカラオケボックスでセックスしたことがセリフでそれとなく語られる。

これらの点で前者は強姦、後者は同意の上の肉体関係という対比になっている。

以上の3点が本作を観て、凄みを感じた部分だ。

人生の先輩が「この世は力で成り立っている」と語っていた。

財力、権力、暴力。
とどのつまり力のある者が強い。

ゆえに力のない者は逆らえない。
同僚も部員もマネージャーも女子生徒も、そして主人公も……

それをまざまざと思い知らされた。

終演後に難波なうさんと再会を果たす。

今年でお会いするのは3回目。
まだ1か月しか経ってないのに、より一層さらなる成長を遂げられていた(笑)

難波さんは女子高生・橘ゆかり役を担当されたのだが、短い出演シーンながらセリフのふり幅が実にすごい。

ゆかりの外見は抜けてるカンジの女子生徒。

主人公の田所へ「センパァーイ、スライダーってどうやって投げるのぉ?」と言った後にベロを出して笑ったかと思いきや、彼氏の中居には「放課後が近づくにつれて野球部みんなの顔が死んでくの。それ見て、自分ってどんなに幸せに生きられてるんだろうって感じる」と真顔で残酷なことを言い放つ。

先月の「バクステ!!」の役者面会のときに学生役とは聞かされていたが、まさかここまで個性的だとは思わなかった。

またひとりとてつもないキャラをこの世に生みだしたなぁ……とご本人にお伝えしたかった(笑)

なお、上演前のうぐいす嬢も担当されている。
このアナウンスがまた実物に忠実で上手い。
同じ役者がやってるとは思えない。

役者は役に成る者、そう難波さんに教わった。

すみだスタジオパーク「倉」について

今回、公演が行われたすみだパークスタジオ倉。
実はここ、映画「紅葉橋」のロケ地なのだ。

映画「紅葉橋」公式サイト

舞台は稽古のシーンで使われ、倉庫入口のところで柳下大さんたちメインキャストと警備員役の升毅さんがやりとりし、本舞台のチケット販売や役者面会となったラウンジは記者役の難波さんと女優役の富田麻帆さんが共演するシーンで使われていた。

聖地巡礼できた気分でとてもうれしかった(#^.^#)

さらに裏手に回ると、ささやカフェが!

ヒロイン役の山田菜々さんが働いているカフェとして使用された場所だ。

帰り道、エキストラになった気分で立ち寄ってオレンジジュースを一杯いただいた。

そのまま錦糸町駅へ向かおうと歩き始めると、、、

やっと見つけた。
ここが「紅葉橋」なのか!!

しかもよく見るとここは主人公たちが昔、演劇の練習に使ってた場所(だと思う)。

すごい。
本編の光景が目の前に浮かんでくる。

脚本を手掛けた堤泰之さんはこれらの場を巡りながらキャラがどう動くかイメージしたに違いない。

そんなワクワクを胸にその場を後にした。

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