BLOG

ブログ

森永清(藤原祐規)
じゅりえ(上西恵)

team コール
まくべー(松岡里英)
りあお(小池樹里亜)
はむれ(西村美咲)
おしぇろ(涼本奈緒)

team レス
まくべー(佐藤さくら)
りあお(日下部美愛)
はむれ(江﨑葵)
おしぇろ(鈴原ゆりあ)

竹原裕太(小早川俊輔)
加藤隼人(古畑恵介)
シーザー(松本こうせい)
森永春世(ふじわらみほ)
小林悠子(松本稽古)

・・・

面接官1…… 松本こうせい
面接官2…… 石田太一
先生…… 板橋廉平
じゅりえの母…… 野田愛佳
じゅりえの母の男…… 石田太一
神待ち男1…… 板橋廉平
神待ち男2…… 岡野優介
神待ち男3…… 松本こうせい
神待ち男4…… 石田太一

男1(ファン)…… 石田太一
男2(ファン)…… 岡野優介
撮影会のカメコ…… 板橋廉平
撮影会のスタッフ…… 三本みり
撮影会の男・重田…… 岡野優介
ツイッターの男1…… 石田太一
ツイッターの男2…… 岡野優介
ツイッターの男3…… 小早川俊輔
ツイッターの男4…… 古畑恵介
派遣会社の受付嬢…… 野田愛佳
派遣会社の部長…… 石田太一
役所の係…… 三本みり
巡査1…… 岡野優介
巡査2…… 石田太一
警察1…… 板橋廉平
ライブハウスのスタッフ…… 三本みり
同級生女1…… 野田愛佳
同級生男1…… 石田太一
同級生女2…… 三本みり
同級生男2…… 岡野優介

作・演出 岡本貴也

公式サイト

出典元:舞台WELL様

あらすじ

夜間ビル警備員の森永清は自己評価の高い男。
柔道部出身でパソコンに強いと自負している。

だが会社の面接ではことごとく落とされしまい、正社員になれない。

ゆえに派遣会社に登録してこの仕事を仕方なくしている。

自分が幸せになれないのは周りのせいだと言い張り、決して自分を変えようとしないのがきっとその原因だろう。

まるで井戸の底辺で藻掻くような日々だ。
それを形容するかのように、警備員が警笛に装着するモール(紐)をふざけて両手首に結んでは嘆く。

職場では年下の先輩で正社員の加藤から馬鹿にされたり、暴力を振るわれたりと散々。

おまけに実家の母・春世は車椅子生活で、世話はヘルパーの悠子がしている。

もはや彼の給料だけで彼女を雇うことに限界が来ていた。

そんな折、失意の彼は街中で5人組の地下アイドルがチラシを配っている場面に遭遇する。

そのうちのひとりの女性とすれ違った時、何かを感じた。

彼女の名はじゅりえ

本名は根本流海といい、地元の九州から逃げるために上京してきた。

母の愛人に犯され続け、心身ともにボロボロ。
目的地の新宿へ向かっていたはずが、誤って新橋行きのバスに乗ってしまい、おまけに降りた後に車内で財布を落としたことに気づく始末。

このままでは死んでしまう。
もはや絶体絶命の彼女。

そのとき、背後を何者かが通り過ぎる。

一度は通り過ぎてみたものの、苦しそうな彼女の姿を見かねて折り紙に包んだお金をバレないようにそっと渡す。

やがてそれに気づいたじゅりえは心から感謝して人生の再起を誓う。

そして有名になってその口笛の人物を探し出すと決める。

ところが、その口笛の男こそ清だったのだ!

お互いの正体を知らぬまま再会したふたり。

清はじゅりえがあの時の彼女だとは知らず、その魅力にどんどんのめり込んでいってしまう。

そして―

“好き”の気持ちを慮る

本作のテーマは「好きな気持ちは程々に」

ことわざで「好きこそものの上手なれ」とはよく言うが、それにもタイミングと程度と配慮と礼儀が必要で、その対象がモノならまだしも、ヒトへ向けられたときほど怖いものはないと思い知る。

まさに、親しき中にも礼儀あり

例えば本作でのアイドルとファンの関係性。

向こうは仕事のつもりでも、ファンのほうはまるで自分の人生のすべてのように思えてしまう。

(だからこそ偶像という表現がされるのだろうが)

男女間で起こるこういった問題、そのほとんどは相手の存在を神格化してしまうことにあると私は考えている。

本来であれば対等で同じ人間のはずなのに、まるで別次元の神だと誤解してしまう現象。

(現に「アイドルはトイレをしない」といったフレーズも昔あったくらいだし)

いつの時代もこの問題は消えてなくならない。
ネットが普及して、相手との距離が近くなった今は余計にその傾向が強いかもしれない。

それはきっと異性経験の少なさから来るものもあるだろうし、自信のなさゆえ輝いている相手に憧れて上に見てしまうことから来るものもあるだろう。

つまり純愛や一途というキレイに見えるものほど、本当はドス黒く汚らわしいというわけだ。

(無論、お互いの心が通じ合っている場合を除く)

だからこそヒトやモノへの好きな気持ちはひとつだけに執着せず、いくつか候補を選んでおいて分散させるほうが得策というのもこれまた皮肉な話。

(好きな気持ちは悟られると相手が優位となって手玉に取られたり、警戒されたりしてスムーズに行かない。そのため二兎や三兎を追うほうがこちらの心に余裕が生まれ、向こうのほうから寄って来るというのもあながち嘘ではない)

椅子とハシゴの凄技アート

本作のすごいところは、舞台上に置かれた椅子とハシゴ。

青、ピンク、紫、黄、緑。

上演前はハシゴに椅子がかけられていたのが、本編が始まると電車になったり、バスになったり、ビルのエレベーターのドアになったり、ライブ会場の小道具になったり、はたまたじゅりえの眼になったり。

演出のアイデアが凄すぎる!

そしてそれらをタイミング良く持ってステージを動き回る出演者の皆さまの体力もスゴイ(笑)

垣間見えるドロドロした現実

華やかに見えるものほど実はとても汚い。

たとえば大型ショッピングモール。
お客様に見えている表の部分は広くて明るいだが、ひとたび従業員通用口に入れば狭くて暗い。

アイドルの世界もきっと同じだ。
それを総括する芸能界という場所も含めて。

これはマクベスの「きれいは汚い、汚いはきれい」に通ずるものがあって、作者はそれを見越して書いたのではないかと思えてしまうほど。

ところで、シェイクスピアのロミオとジュリエットをモチーフにした本作。

チーム名がシェイクスフィア
さらにメンバー名も実に凝っている。

まくべー(マクベス) 本名・幕野内アミ
りあお(リア王)    本名・青木リナ
はむれ(ハムレット) 本名・橋本礼美
おしぇろ(オセロ)  本名・太田栞

こういう普段は表に出ないような、内輪だけが知っていそうな細かすぎる設定が私は大好きだ。

印象的だったのはまくべーが水着姿で裏事情を語るシーン。

彼女は某大手アイドルグループにいたが、不祥事に巻き込まれて地下アイドルの道へ。

個撮いわゆる個人撮影会で稼げるお金の相場についてポーズを決めながら語り、カメラマンたちのフラッシュを浴びている。

それを見て、いろんな舞台女優さんもアイドルの方々も生きるためにこういったことを今この瞬間も体験しているんじゃないか?と想像するだけでゾッとしてしまう。

実際、そのメインどころを演じているのが本物のアイドルやグラビアの人というのも説得力に拍車をかけているし。

群がる男たちの中に、水着の女性が数人。
いつ何が起きたっておかしくない。
(いや、現に起きてるのかも)

さらにチーム内にも温度差がある。

アイドル活動など遊び感覚のりあお
休みの日はファンに貢がせたお金で服を買って人生を謳歌している。

じゅりえに人気度で負けそうになると嫉妬からマウントを取ろうとするまくべー。

会場で写真を撮るのに都度数千円を払うファン。
せーの、「アン・ハサウェイ!」
カシャ。

それを横目にニヤリとほくそ笑む運営マネージャーの竹原

搾取する側される側の構造が垣間見えるあたり、もうひとつのテーマは「貧富の格差」だろう。

竹原はマンションの26階に住んでいて、派遣会社の部長は高層ビルの階上にオフィスがある。

先のふたりは上の世界にいる。
一方で清や地下アイドルたちは下にいる。

この資本主義国でものを言うのは金だ。

稼いだ者が強く、稼げない者は弱い。

竹原はガールズバーや地下アイドルを運営しながら、いつもメンバーたちを隙あらば犯したいと思っている。

派遣会社の部長は事なかれ主義で、清と加藤のトラブルの事実を探ろうともしない。

ここまで書くとお金持ちは悪者のように見える。
だが、例外もある。

ファンのひとり、シーザーの存在だ。
(元ネタはシェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」)

その正体は会社のお偉いさんだが竹原のような下心は無く、純粋にアイドルを応援している。

さらに業界の専門用語を熱く語り、ファン仲間と楽しく酒を酌み交わす。

渋沢栄一の「論語と算盤」より引用するならば、お金とは大切にすべきものであり軽蔑すべきものでもあり、すべては所有者の人格によって変わる諸刃の剣である。

良いお金持ちもいれば悪いお金持ちもいる。
心優しい貧乏もいれば心卑しい貧乏もいる。

つまりそうなるわけだ。

お金があるからこそ我々は日々生活ができる。
だから、お金持ちをいつも悪として描きがちな日本のドラマは正直どうなのかと思えてしまう。

(現に海外映画のスーパーヒーローはほぼみんなお金持ちで、そのお金で装備などを開発してたくさんの人たちの命を救っているんだから)

公演場所の新宿村LIVEを後にする際、周辺の大きな高層ビルを見てそんなことを考えてしまった。

追うロミオ 逃げるジュリエ その末路
ネタバレ注意※

じゅりえにすっかり心奪われた清は彼女を執拗に追い始める。

TwitterのDMにメッセージを送り続けたり、自分の部屋に彼女の写真を貼りまくって彼女の瞳に映った建物から住んでいる場所を割り出したり、挙句の果てに井戸のWELLをWE’LL=WEWILL(私たちは一緒になる)と勝手に解釈して婚姻届に自分のサインをしたりとその暴走は留まるところを知らない。

母に小言を言われ、悠子にバカにされ、加藤から濡れ衣を着せられ、派遣会社からも仕事の契約を切られ、それらの鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

全てを失った彼にはもうじゅりえしかなかった。

そのじゅりえはマネージャーの竹原から体目的で襲われかけるも、尾行していた清に救われる。

ところがもはやストーカーと化した彼がした善行は彼女にとって恐怖でしかない。

ゆえにじゅりえは警察に助けを求める。
しかし、証拠がないと動けないと何度も突っぱねられる始末。

そうこうしているうちに、チーム最後のステージが幕を開ける。

メンバーのひとりが竹原の子を身籠ったことや、その他もろもろの不祥事が明るみに出たからだ。

まくべー、はむろ、おしぇろ、りあお。
ひとり、またひとりその場を後にする。

最後に残ったのは、じゅりえ。

そんな彼女を陰から呼ぶ男の声。

清だ。
こっそり建物に忍び込んでいたのだ。

逃げ惑うじゅりえの必死の抵抗もむなしく、彼は彼女を刺してしまう。

虫の息のじゅりえ。
清は彼女の薬指に折り紙で作った指輪をはめる。

その折り紙はお金が包まれていたものと同じ柄!

それを見て、じゅりえは彼があの時の口笛の人物だったと知り愕然。

やがて彼の胸の中で息絶えてしまう。
途轍もない絶望が彼女のこの世で抱く最期の感情になった。

ようやく彼女を自分のものにした清もその場で後を追おうとするが、駆け付けた警察官たちに取り押さられて緊急逮捕。

本家のロミオとジュリエットのように同じ場で死に、あの世で結ばれることはなかった。

そして場面はほの暗い留置所の中。
清の手元、警備員のときにふざけて結んでいた両手首の紐は手錠に変わっていた。

印象に残った役者さん

松本稽古さん
ヘルパーの悠子さん役。
サバサバした感じが実に味わい深い。

春世の命令で清を何度もおしおき棒(ガキ使「笑ってはいけない」のアレ)で叩く姿はもはや重要無形文化財級。

さらに清と繰り広げるコミカルなやり取りのなか、偶然の事故とはいえ彼に胸を触られたりと見どころ満載だった。

フライヤーを見て、まさか振付担当だったとは!

岡野優介さん
ある時はアイドルのファン。
ある時は警官。
ある時はツイッターの男。

そして常連のカメラマン・重田になったときは、まくべーにそそのかされてじゅりえの卑猥な写真を無理矢理撮ろうとしたところで怒った清に背負い投げされる美味しい役。

思わず「え?!」と声が出てしまうほど、清が柔道部出身の設定がここで活かされるとは夢にも思わなかった。

ふじわらみほさん
清の母・春世さん役。
清に対して毎回嫌味を言うため、ある意味彼の心に手錠をかけてしまっている。

終始登場するときに醸し出すどんよりした雰囲気とその存在感といったらスゴイ。

前にどこかで観た方だなと思っていたら、映画「紅葉橋」や舞台「バクステ」にご出演されていたんですね!

正直驚きました(笑)

おわりに

本作はteamレスを鑑賞。

コール&レスポンス、エッジが効いている。

実は延期公演で、本来であれば昨年の6月30日(火)から7月5日(日)の日程で上演されるはずだった。

キャストが一部変更になった状態での公演。
舞台という神聖な場を突如襲った謎の感染症。

こうして無事に公演される運びとなるまでの間、関係者の皆さまはとても長く大変な思いをされたのだろう。

可能ならば今回と本来のバージョン、どちらも観たかったと思うのは贅沢なわがままだろうか?

舞台に生きる人たちに1日も早く幸せな日々が訪れるように、私も正しい行動をしなければと思った夜公演だった。

さて、では最後にみんなで写真を撮ろう。
せーの、「アン・ハサウェイ!」
カシャ。

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。