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前回までのシナリオ
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〇住宅街(朝)
休日。
田辺、近くの道を歩いている。
各々の家に家族団らんの姿。

田辺「…………」

〇工事現場
出入口付近に立っている田辺。
事務所から出てくる女性は真央である。
田辺はとっさに物陰へ身を隠す。
真央は気づかずに行ってしまう。
ショックを隠せない田辺。

〇北条家
古民家の一画。
『北条』の表札。
真央がおそるおそる玄関前へ。
インターホンを鳴らすと、ドアの隙間越しに聡美の姿。

聡美「なんだ、アンタかい」
真央「いつもお世話になっております」
聡美「世話をかけてるの間違いでしょ?」
真央「……」
聡美「どうやってここまで来た?」
真央「どうやって……えっと、インターホンがドアの横にしかなかったので」
聡美「そこの門を超えて来たんだろ? こりゃ立派な不法侵入だね」
真央「そんな! せめてお話だけでも―」
聡美「何も聞きたくもない」
真央「待ってください!」
聡美「しつこいねえ、いい加減にしないと警察呼ぶよ!」
真央「お話を聞かせてください!」
聡美「え?」
真央「この通りです、お願いします」
聡美「……」

閉まっているドアに鍵がかけられる。
肩を落とす真央が仕方なく後にしようとするも、背後でドアの少し開く音がして振り返る。
聡美がチェーンのわずかな隙間から

聡美「本当に聞くだけ?」
真央「は、はい」
聡美「いつもそっちの言い分ばっかりだ。ああしたいこうしたい、だから言う事を聞け。そればっかり」
真央「私は違います」
聡美「だからって信じたりしないよ」
真央「……」
聡美「ここで聞く。時間は1分」
真央「い、1分ですか?」
聡美「そしてこちらの言い分に意見しないことが条件。わかった?」
真央「……はい」
聡美「思い出って考えたこと、あるかい?」
真央「思い出?」
聡美「そこにしかない思い出」
真央「……」
聡美「ここはね、昔からずっとこの町でやって来たの。アタシはこの町が好きなんだよ」

聡美の背後に写真が見える。
そこには普段の聡美が決して見せない笑みを浮かべたもの。

真央「ですから―」
聡美「そっちは意見しないって言ったろ?」
真央「……すいません」
聡美「そのうちアタシは死ぬ。この町とお別れしなきゃいけないこともわかってる。だからこそ生まれ育ったこの町を殺さないでほしいんだ」
真央「殺すって、そんな大それたこと―」
聡美「ちょうど1分だ」
真央「え?」
聡美「もうこれで満足だろう?」
真央「ちょっと待ってください」
聡美「とにかく気持ちを変えるつもりはないから」

ドアに鍵がかけられる。

真央「待ってください! 私はこの町を―」

真央、肩を落とす。
背後に一部始終を見ていた田辺の姿。
今にも雨が降りそうな生憎の空模様。

田辺がやってくる。

真央「(驚いて) 田辺さん―」
田辺「……」
真央「どうしてここに?」
田辺「―ちょっといいか」

田辺が行ってしまう。
真央、おそるおそるついていく。

〇空き地
真央と田辺が歩いている。
田辺の雰囲気に圧倒されて、真央はなかなか近づけない。
田辺が足を止めて、

田辺「ここだ」
真央「え?」
田辺「ここに、実家があった。思い出した」

目の前は更地になっている。
雨がアスファルトを濡らし始める。
とっさに傘を差す真央。

真央「田辺さん、傘は?」
田辺「……」
真央「濡れちゃいますよ?」

真央が田辺の頭上に傘を差そうとするも、彼は無言でそれを拒む。

真央「田辺さん」
田辺「ここだって知ってたんだろ?」
真央「え?」
田辺「キミは業者の人間だもんな。それに地図読めるし」
真央「それは―」
田辺「さっき見たんだ、ちょうど工事現場から出てくるとこを」

次第に雨が勢いを増していく。
ずぶ濡れになっていく田辺。

真央「―だから何ですか」
田辺「この辺の人だってウソついちゃってさ」
真央「それは―」
田辺「ウソつきは泥棒のはじまりだぞ」
真央「……」
田辺「帰ってるか?」
真央「え?」
田辺「実家だよ。帰ってるか?」
真央「……」
田辺「誰だって故郷に大切な思い出とかあるだろ?」
真央「……」
田辺「キミだってそういうの、あるだろ?」
真央「……一応」
田辺「一応ってなんだよ」
真央「とても不便だと思いました。建物は古いし、道は狭いし、交通の便は悪い」
田辺「だからって住んでる人たちの思い出まで壊そうと―」
真央「そうじゃありません!」
田辺「じゃあなんだって言うんだ」
真央「むしろ……住みやすい環境にしたいんです」
田辺「は?」
真央「緑の中で子どもたちが遊んで、おじいちゃんやおばあちゃんが仲良く散歩できるような、そんな環境にしたいたんです!」
田辺「そんなのはどこにだってある」
真央「それだけじゃありません。狭い路地じゃ救急車は通れないし、もし災害がきたら多くの人が怪我をすることになります! 何かあってからじゃ遅い、何か起きる前に手を打っておかないと!」
田辺「だからって住んでる人が慣れ親しんだとこを作り変えていいってことには」
真央「時代は変わっていくんです!」
田辺「変わっちゃいけないもんだってあるべきなんだ!」
真央「あなたみたいにここを捨てた人とは違うんです!」
田辺「……」
真央「(我に返って) すいません」
田辺「キミの言うとおりだ」
真央「いえ、そんなつもりで言った訳じゃ―」
田辺「それでいいんだ」
真央「た、確かに地図で確認しました」
田辺「……」
真央「でも再開発計画が持ち上がった際、ここには誰も住んでいなかったんです」
田辺「なんだって?」
真央「もしかしたらそれ以前に引っ越したのかもしれません」
田辺「……」
真央「まだこの町のどこかに住んでるかもしれないってことですよ」
田辺「……もういい」
真央「どうして?」
田辺「キミを呼んどいて、こういうこと言うのはお門違いだ。全部俺が悪いんだ。世話になったな」

田辺が行こうとする。
真央が走ってきて、

田辺「おいおい、濡れちまうぞ?」
真央「私からもちょっといいですか?」
田辺「マネすんなよ」
真央「そちらこそ格好つけないでください」

第4話につづく)

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