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前回までのシナリオ
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〇軒先
雨は止まないどころか、さらに勢いを増すばかり。
軒先で雨宿りする真央と田辺。

真央「実家にはもう5年近く帰ってません」
田辺「見かけによらず親不孝なんだな」
真央「何とでも言ってください」
田辺「(申し訳なく) そんなつもりで言ったワケじゃないから。実家、遠いのか?」
真央「……いえ」
田辺「なるほど、近いから逆に帰らないってヤツか」
真央「それが最高の言い訳に出来ちゃうから、いけないのかもしれませんね」
田辺「ってことは―まさか。いや、ケンカはまずいって。ちゃんと謝りにいかなきゃ。いつまでも親と金はあるワケじゃないし」
真央「そういうのではないんです」
田辺「え?」
真央「5年前、私の町で再開発がありました。皮肉にも担当したのは勤め先の会社で。地元は都内だけどもともと人はそんなに来ない静かな町でした。それがもっと人を呼ぼうという流れになって……」
田辺「なんかここに似てるな」
真央「集客のため、駅前に大きなショッピングモールを作ろうとした時に地元の商店街の人々が反対したんです」
田辺「…………」
真央「私は地元が再開発によって住みやすい街になればと思ってました。でも、商店街の人はシャッターだらけの町にするなって」
田辺「…………」
真央「実家もその中の一店舗だったんです」
田辺「なんだって?」
真央「そして私がそこの社員だと商店街の人たちに知られてしまって」
田辺「キミは直接関わってたのか?」
真央「いえ、別の案件を担当してました」
田辺「じゃあ、とばっちりじゃないか! 筋違いにもほどがある」
真央「矛先が家族へ向いたんです……まさに風評被害ですね」
田辺「だからってキミが自分を責めることはないだろ」
真央「それは……そうですけど」
田辺「逃げてるだけだって」
真央「せめて私が担当する場所はしっかりした街にしたい。あの町のようにはしたくない。それだけなんです」
田辺「…………」
真央「自分の仕事をしっかり完了させるまでは、帰っちゃいけないんです」
田辺「…………」
真央「(我に返って) すいません、つい」
田辺「いや、いいんだ」

真央が時計を確認して、

真央「すいません。そろそろ、戻らないと―」
田辺「あ、ごめん!」
真央「いえいえ、こちらこそ。ご迷惑をおかけしちゃって」
田辺「そうだ。これ、もらっといて」

田辺が名刺を出す。
真央も慌てて名刺を出す。

田辺「こないだは出さなかったね」
真央「え?」
田辺「さすがに気まずかったか? でもいいんだ、そのことは。お互い様だから」
真央「……」
田辺「何かあったら連絡ちょうだい」
真央「いつまでこちらに?」
田辺「ずっと」
真央「え?」
田辺「長い休暇だから。ほら、最近の会社は国の指示で有給取らせるんだよ」
真央「というか、会社員だったんですね」
田辺「ただの田舎者だと思ってたのかい」
真央「そんなことは―」
田辺「そう思ってそうな顔してるぞ」
真央「え?」
田辺「この歳になると、そういうのがピーンと来るんだよ」
真央「……」
田辺「そんなもんだって」

〇ビジネスホテル(夜)
田辺がネットサーフィンをしている。

トップニュースの見出し。
『住まなくなった古民家、取り壊しへ』。
田辺が目を留める。

真央の声「再開発計画が持ち上がった際、ここには誰も住んでいなかったんです」
田辺「……」
真央の声「もしかしたらそれ以前に引っ越したのかもしれません」

田辺、何かを思いついた表情で―

〇東京・俯瞰(朝)
どこか煙っている風景。

〇駅のホーム
真央が故郷のホームへ降り立つ。
駅周辺の施設や道路は整備されているのに、全く人気はない。
田辺の声「とばっちりじゃないか! 筋違いにもほどがある」
駅前にある高層階のショッピングセンターを見つめる真央。

〇同・ショッピングセンター
真央がやってくる。
店内にあるテナントは僅かで、買い物客はいないに等しい。
店内放送だけがむなしく響く。

〇商店街
真央がシャッター街へと化したアーケードを歩く。
辺りはほの暗い。

田辺の声「キミが自分を責めることはないだろ」

ふと視線を感じて振り返る真央。
誰もいない。
再び歩き出す真央。
背後で物陰が動く。

〇真央の実家
商店街の中にある一軒のスペース。
真央が入ろうかどうか迷っていると、

芳恵の声「真央?」

母・城崎芳恵(57)が姿を現す。

真央「ちょっとこっちに用事があっただけ」
芳恵「本当に?」
真央「元気そうだね」
芳恵「あのこと、まだ気にしてるの?」
真央「まさか。そんな訳ないでしょ」
芳恵「じゃあ、どうして―」
真央「仕事が忙しくて、次休めるのがいつかわからないから」
芳恵「……真央」
真央「またね」
芳恵「待って」

真央は聞かず、行こうとする。

芳恵「気にしてないから」

真央が足を止める。

芳恵「真央は何も悪くない」
真央「…………」
芳恵「だから戻ってきて」
真央「ごめんなさい」

真央が行ってしまう。

〇実家近くの道
うつむき歩く真央の前に現れる人影。
商店街の住民たちだ。

住民A「何しに来た」

真央が恐る恐る会釈する。
住民たちは険しい顔。
去ろうとする真央に捨て台詞を吐くように、

住民B「出て行け」
真央「…………」

慌ててその場を去る真央。
アーケード内に響く住民たちの声。

〇駅のホーム
商店街の方角を見る真央。
人の流れはない。

真央「―そうだ」

真央が田辺に電話をかける。

〇建物・前
スマホのディスプレイに浮かぶ『真央ちゃん』の文字。
田辺は電話に出ず、建物(どこかは明かさずに)へ入って行く。

第5話につづく)

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