短編映像「僕たちオヤジ坂48」ができるまで
はじめに
以前知り合いの脚本家が「俳優と脚本家の交流会」という素敵な催しに参加していたのを知り、もし次回があるなら…と思っていたところへ開催の知らせが!
自分との約束を守るべく応募し、運良く参加することができた。
脚本家の作品を役者が演じ、それを撮影するという最高の企画。
プロ意識を今よりも高めたい俺は、プロでやっている人たちとたくさん知り合って横のつながりを重視させたいと思っていたのだ。
着想するまで
今回提供した作品は「僕たちオヤジ坂48」。
何を隠そう、アイドルネタだ。
しかし、これはただのアイドルネタではない。
頭にネクタイを巻いた中年オヤジがアイドルなのだ。
なぜこのような作品が出来上がったのか?
振り返ること8月中旬。
主宰からキャストについてのご連絡があり、出演者おふたりの姿を初めて観て知る。
締め切りは9月上旬。正直、この時は何にも考えてついてなかった。
やがて数名の脚本家が作品をアップしていき、少しずつ焦り出す(笑)
提出期限まで残り2週間を切ったころ。
他の脚本家ってこういう作品を書くのかぁ…と思っていたら、あることに気づいた。
今回のロケ場所がブックカフェのため、キャストが座って会話をする静かな画がほとんど。また、テイストも割とシリアスなものが多い。
「その逆をやってみたらどうか?」と閃いたのだ。
では、差別化を図るためにはどうするか。
・まずキャラが場内を激しく動く
・インパクトがあり、ぶっ飛んだコメディ
・内容は誰もが一目でわかるもの
・キャストが楽しく演じられる
・スタッフや他の脚本家が爆笑するネタ
これらをもとにおふたりのビジュアルから想起したのが…オヤジアイドルだった!
男性が女性アイドルを推しと尊ぶのなら、その逆がいい。
しかし、女性が男性アイドルを尊ぶこともある。
では、中年男性をアイドルにしてみよう。
しかし、アイドルには完璧さが求められる。
じゃあもしそのアイドルが不健康だったら?
プロデュースするのが仕事の出来る女性だったら?
というところから作品の世界がどんどん膨らんでいった。
そして今回の作品が日の目を見たというわけだ(笑)
約5分尺=ペラにして5枚という制約のため、2人で出来るぶっ飛び限界突破なものを描いた。
登場しないキャラについてもいろいろイメージを膨らませて頂けると光栄だ。
シナリオ
《脚本》須田剛史
《キャスト》
鶴山輝人(42) 飯沼誠治
元秋やす代(35) あずさ祥子
〇カフェ
センターパート分けの鶴山輝人(42)がダンスしながら歌っている。
傍らの元秋やす代(35)は腕を組みながら様子を見ている。
鶴山「いっしょに行こうよHUMAN`s DOCK! ! 流行りのウイルスぶっ飛ばし、不老長寿のその先へー」
鶴山、まるでジョジョ立ちみたいにカッコよくポーズをとる。
鶴山「(口上で)男に変化が起こるのは、いつでも8の倍数さ。気づけば人生下り坂。痛風、台風、息ふうふう! まさかの坂を駆け上って若返る、そんな僕たちオヤジ坂ー48!」
やす代「(拍手しながら) OK!最高よ」
鶴山「うわ、汗で頭皮がベッタベタ」
やす代「さすがミスターAGA、きょうも絶賛キテるわね」
鶴山「お客さん、キテくれますかね?」
やす代「これ、入場口の映像」
やす代がスマホを見せる。
鶴山「すごい人だかり!」
やす代「メタボ、老眼、AGA、栄養失調。そんな悩みを抱えた男たちがクリニック通いを公言しながら治療していくオッサンアイドル、斬新でしょ」
鶴山「普通そういうの隠しますもんね」
やす代「コンセプトは若返り。デビュー時が最も不健康な状態で新曲をリリースするごとに健康的になっていく。まさにビフォーアフターアイドル」
鶴山「完璧に健康になったら、方向性の違いで解散にならなきゃいいけど― 」
やす代「徐々に若返っていく姿は世の男性たちに希望を与え、カッコよくなれば女性ファンも取り込める。そしていつかあのジュニーズを越えるのよ!」
鶴山「診察番号4の鶴山、がんばります」
やす代「例のアレ、毎日ちゃんと飲んでるでしょうね?」
鶴山「もちろん、抜かりなく。(頭皮を揉みながら)フィナステリドとミノキシジルで、フサフサのふっさリンコ」
やす代「新曲披露となるこのカフェライブでまた成功を収めてやるんだから」
鶴山「それよりプロデューサー、もうすぐ本番ですけど他のメンバーは?」
やす代「あら、そう言われてみれば(と、スマホをチェックして) ええっ?」
鶴山「どうしました?」
やす代「メタボ担当の原出は玄関ドアに挟まれて身動き取れないって!」
鶴山「(スマホを覗いて) えっ、老眼担当のローガンさんはここまでの地図が小さすぎて読めないから来れない?」
やす代「栄養失調担当の骨川は… 台風で木更津方面へ飛ばされた?」
鶴山「どうするんですか!センターの骨川さんがいないなんて。あの人の物販で何とかウチらもってるのに!」
やす代「いるじゃん、センターパート!」
鶴山「いや、僕の髪型じゃなくて!」
やす代「(時計を見て) もう開場の時間だわ。握手会が始まっちゃう!」
鶴山「やばいやばい」
やす代「こうなったら― アレしかない」
やす代、カバンの中から老眼鏡や丸めたビニール袋を取り出す。
やす代「こんなこともあろうかと」
鶴山「いったい何するんですか」
やす代「決まってるじゃない。私たちで3人の代役をやるのよ」
鶴山「老眼はまだ良しとして、メタボと栄養失調って真逆じゃないですか」
やす代「だからメタボがあなた、栄養失調が私。ほら、これ服の下に入れて」
鶴山がビニール袋を服の中へ。
やす代が老眼鏡をカッコよく着用。
ふたりがポーズをとって並んで、
やす代「では。診察番号2、原出太郎(と鶴山を紹介)」
鶴山「(彦摩呂風に)ここにあるのはやがて消えゆく体脂肪やぁ(とお腹を触る) 」
やす代「そして私は診察番号1、骨川流一。だらしないとバカにされる日本の中年男性の未来のために僕は太る!」
鶴山「ダメだ、高い声ですぐバレる」
やす代「これでも低くしてるほうだけど」
鶴山「そういう問題ではないかと」
やす代「こんな修羅場が一体なによ? 元地下アイドルの意地、なめんなよ」
やす代が歩き出そうとするが、その場でよろけて転んでしまう。
鶴山が思わず駆け寄る。
鶴山「プロデューサー!」
やす代「ま、前が… ぜんぜん見えない」
鶴山「ローガンの老眼鏡かけっぱなし! って、あ、入場口が… 開いちゃった」
鶴山とやす代がドアの方を見て―
おわり
本編映像
おわりに
おかげさまでキャストおふたりのみにならず、スタッフ陣やほかの脚本家さんたちからもウケが良く、これほど嬉しいことはなかった。
シナリオ学校に通っていたころ、ゼミの恩師から「文章にはその人の心が宿る」と教えて頂いた。
書き手が心からおもしろがって書いた文章にはおもしろさが、そうではない文章にはそうでないものが表れるんだと深く思い知る機会になった。
「頭にネクタイ巻いちゃっていいですか?」
と、ノリノリで演じてくださった飯沼誠治さんのアイデアがあって鶴山のキャラが輝いた。
「今までにやったことのないキャラでうれしかったです!」
と、やす代役のあずさ祥子さんからも素敵なコメントを頂いた。
最高のイベントを企画をしてくださった主宰、スタッフの皆様、脚本家の皆様、心から感謝申し上げます。
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