24/7lavo 第1回公演「超ではない能力」鑑賞
キャスト・スタッフ
田中園子(24/7lavo)
寺園七海(24/7lavo)
平井泰成(24/7lavo・吉祥寺GORILLA)
安藤悠馬(冗談だからね。)
甲斐優風汰(さるしばい)
環幸乃
長島未雨
脚本:ブラジリィー・アン・山田(ブラジル)
演出:池田智哉(24/7lavo/feblabo)
あらすじ
画像出典元:24/7lavo様
ここはとある一室。
6人の男女が神妙な面持ちで語り合っている。
第1回「超能力で悩んでいる人、集まれ!」と称したオフ会だ。
仕切るのは東山崇(演:平井泰成)。
脚本家志望の青年である。
まず最初に超能力を披露したのはニートの高見善人(演:甲斐優風汰)。
彼は不思議なポーズを取ると、空っぽのペットボトルを触れることなく動かしてみせる。
(実際は部屋の奥から黒子(演出の池田智哉さん?)が現れて動かしているのだが)
驚く一同。
同じくらいの重さのものなら触れることなく動かせ、千円札でも同じようにやってのける。
しかし、それ以上の重たいものを動かすことはできない。
続いて介護職の福田絵梨(演:田中園子)
彼女は相手の頭に浮かんだ食べ物だけ当てられる。
しかし、それ以外を当てることはできない。
3人目は山瀬萌(演:環幸乃)。
自称・ゴミドル(=ゴミ拾いするアイドル)の彼女は1.8秒後の未来が見えるため、じゃんけんでは負けたことがない。
しかし、それ以上先のことを見ることはできない。
4人目は派遣社員の本間瑞香(演:寺園七海)。
彼女はマスクの下だけを透視することができる。
5人を並んで立たせてマスクの下でどんな表情をしているかを言い当てる。
しかし、それ以外の下に隠れているものを見透かすことはできない。
5人目は井戸口幸一(演:安藤悠馬)。
臆病でソワソワしている彼はAmazonの倉庫でバイトをしている。
試しに隣の席に座っている萌に向かって自らの鼻のあたりを触った。
何も起こらない。
だが彼は何と彼女を0.3センチだけ瞬間移動させたというのだ。
本当にそうなのか疑わしいが、実際に物体は動いているという。
最後は司会者・東山。
「ん、んーーーーーーー!」
彼は険しい顔で力を込めて手で十字を切って念じると、一同は何かを感じ取った。
言葉だ。
しかし、たった1文字だけ。
そう、彼は1文字しかテレパシーで伝えることができないのだ。
つまり2文字以上となると本人は相当な労力を使うことになる。
果たして1行の文章を伝えるのにいったいどれほどのエネルギーが必要になるやら。
かくして社会のはぐれ者6人は「自分たちの役に立たない超能力を何とか生かす術はないか?」と考えたのちYouTubeチャンネルを開設、動画配信を始めて地道にチャンネル登録者数や再生回数を増やしていくのだった。
思わぬカセ、あらわる!
本公演の席は前後2列。
それが舞台を取り囲むように正面と左右の計3面となっている。
もちろん、私は正面の前列で鑑賞した。
しかし思わぬ伏兵が現れた!
フェイスシールドだ。
意外にも人生初体験。
こいつがなかなか厄介な相手とは知りもしなかった。
マスクしているから眼前が雲ってしまい、時折前が見えなくなる。
役者の顔が見えないほどつらいものはない。
指先で拭いながら何とか対応したが、やはり見づらくて大変だった。
ドラマにはカセ(障害物)が必要だが、まさか観劇するにもカセが必要になる時代が来るなんて。
この視界をクリアにするための超能力を持っていない自分を恨んだ。
思えば、後ろの席が埋まっていたのはそういうことだったのか!
とてもいい勉強になった(涙)
どう見えているか、それが真実
ネタバレ注意
超ではない能力を生かそうとYouTubeチャンネルを開設した6人。
(※だが、なぜか瑞香だけは懐疑的な立場)
東山は1文字から数文字へ、井戸口は0.3センチから0.4センチへと能力をレベルアップさせていた。
萌は予知能力を使い、街中でじゃんけんをして50連勝を果たす。
動画配信をきっかけに彼女が出来た高見は調子に乗り、ライブ生配信で3人(萌、井戸口、絵梨)のサングラスをずり下ろしてみせることに。
(※公演ポスターの画がそれである)
いつものように大袈裟なポーズを取り、超ではない能力を大成功させたかに見えた。
ところが視聴者が萌のサングラスに仕込まれた糸を見つけてしまったことで事態は一変、炎上騒ぎになってしまう。
実際に絵梨と井戸口のサングラスはズラせたが、萌のまでは能力が及ばなかったのだ。
東山は高見を叱責する。
「ひとつでもウソをついてしまったら、これまでアップした動画もすべてウソだと勘違いされてしまう」と。
メンバーのなかで唯一懐疑的だった瑞香がさらに一言。
「たとえ私たちの能力が本物かどうかなんてことより、相手にどう見えているか。それが真実なの」
窮地に追い込まれた6人の間に軋轢が生じてしまい、やがてチームは解散することに。
それぞれが別の方向へ歩みだそうとしたとき異変に気づく。
屋上に立っている人の姿を見つけたのだ。
彼女の名は久保遥(演:長島未雨)。
萌には見覚えがあった。
彼女が街で見つけた50人目のじゃんけん相手となった女子高生である。
必死に説得して何とか引き留めようとする6人。
しかし、遥は耳を傾けようとしない。
まずは高見がペットボトルを念力で倒そうと試みる。
しかし、水が入っていたため能力を発揮できない。
東山は遥にテレパシーを送る。
「い」「き」「て」「い」
(生きていればきっと何かいいことがある、的な内容を伝えたかったらしい)
が、それで精一杯のため途中で力尽きてしまう。
絵梨は遥が何を食べたがっているかを予知。
トッポ!
しかし誰もトッポを持っていない。
(という以前にそれで説得は無理だ)
萌が「トッポが入っているよ」とカバンを見せてハッタリを利かせるが通用しない。
やがて遥は飛び降りようとする。
が、彼女はなぜか前に進まない。
むしろ、もとの位置に戻りかけている。
井戸口が0.4センチの瞬間移動能力を何度も小刻みに繰り返すことで遥をもとの位置に戻そうとしていたのだ。
(その反動で鼻血を出してしまう!)
東山たち男性陣がその隙に何とか向かおうとするも、間に合いそうにない。
もうダメかと思われたその時、
「ホクロ!」
遥の足がピタッと止まった。
彼女の悩みの真相に気づいたのは、瑞香だった。
瑞香はカバンの中にある手紙を透視したのだ。
初めてマスクの下以外のものを見ることができた奇跡の瞬間!
そこには「ホクロがキモい」という理由で自死の道を選ぶことにした遥の言葉が書かれていた。
実は瑞香自身も同じ経験をしていた。
自らの超能力が災いして周囲から白い目で見られてしまい、自分を追い込んでしまった過去。
だから6人のなかで唯一超能力を生かすことに対して懐疑的な立場を取っていたのだ。
瑞香の必死の説得に遥はようやく踏みとどまる。
これまで自分のために使っていた能力を誰かのために活かした6人はそれぞれの道を進むことになる。
ニートだった高見は職場の面接へ。
絵梨はもとの生活に。
萌は井戸口と恋人同士に。
残ったのは東山と瑞香だけ。
もじもじしている東山は去りゆく瑞香にテレパシーで1文字ずつ思いを伝える。
「す」「き」、と。
しかし彼女はハッキリ言葉で伝えてほしいと言う。
それでももじもじしている東山に業を煮やした瑞香は去ろうとする。
「好きだ!!!!!」
やっとの思いで告白した東山の想いを瑞香は瞬時に断る。
「私には見たいものがなかった。あなたには伝えたいことがなかった。私たちの能力はそれらを反映していたのかもね」
(「瑞香=見ずか」というのは深読みか?)
東山は脚本家志望とは名乗っているが、実際は物語を1つも書き終えたことがなかったのだ。
書き始めてたった数文字で手が止まってしまう現状は、テレパシーで1文字しか伝えられないのとまるで同じ。
そんな彼を後目に瑞香は新たな道をひとり進み出した。
東山は彼女の後ろ姿をただ見送るしかできなかった。
場面が変わり、東山は自室のパソコンで脚本を書いている。
東山「去りゆく瑞香を見送る東山」
これまでに自分が経験した出来事を物語にしたのだ。
いやもしかしたら彼は超能力者ではなく、その頭の中でイメージしたストーリーの映像を我々が観ていたのかもしれない。
そして……初めてつけるエンドマーク。
ようやく伝えたいことが見つかったのだ。
やがて彼は手で十字を切って観客たちへテレパシーで何かを伝えるのだった。
もし違う世界線だったなら
脚本はブラジリィー・アン・山田さん。
「相棒(神戸尊時代)」や「世にも奇妙な物語」を担当されており、時折テレビでお名前を拝見していた方がまさか旗揚げ公演の脚本を担当されるとはビックリ!
実はひとつ気になったことがある。
本編の上演時間が60分なのだ。
コロナショックが起こる前の舞台は120分休憩なしがほとんどだったので、もしかしたらこの緊急事態宣言下で短縮せざるを得なかったのではないかと推測した。
ということはもしコロナが無い世界線で舞台が行われていたら、メンバーたちの交流(とくに東山が瑞香に恋する過程)がもっと掘り下げられたり、命を救われた遥がラストで本物の超能力に目覚めてしまい6人を驚かせたり、そういったストーリー展開が用意されていたのかもというのはさすがに考え過ぎだろうか?
伝えたいことがある幸せ
「私には見たいものがなかった。あなたには伝えたいことがなかった」
瑞香のセリフがこの心を貫いた。
どうして自分は物書きを今も続けているのか?と考えてみたら、伝えたいことがあるからなんだと気づいた。
もし現状の生活に満足していれば何かしようという気は起きにくい。
世の中のあらゆるものが便利になったのも、もともと生じていた不自由を解消するためだ。
この世に不満や疑問があるからこそ、作家は問題提起し続けるのだろう。
制作陣は超能力者?
おわりに。
公演を観ていて驚いたことがある。
実は平井さん、今度ご出演いただくボイスドラマⅣで脚本家の役なのだ。
だから東山の「脚本家をしてまして」というセリフを聞いた時に驚いてしまった。
(正確に言うと本作では脚本家志望であってまだ仕事はしておらず、ボイスドラマのほうではがっつり仕事しているという違いがある)
もちろん、舞台の詳細については演者の名前以外全く前情報を入れなかった。
誰が出るかは事前にチェックするも、先入観を排するため出演者や制作陣のTwitterに載る稽古写真や裏話は公演を見終えるまで目にしないよう己に課しているからだ。
もしや制作陣は超能力者だったのか?
と、突拍子もないことを言ってみる。
さてブログを書き終えたことだし、私も手で十字を切ってみるとするか。
「ん、んーーーーーーー!」
果たして、念じたこの心の声はあなたに伝わっただろうか?
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