そんな刑事(デカ)に憧れて case2 帰って来る
〇オープニングナレーション
飛崎N「単発ものかと思いきや、まさかの続編。ドラマは数字がものを言う」
見留N「そしてブログは閲覧数がものを言う」
飛崎N「好評で放送期間を半年延長した刑事ドラマがあれば」
見留N「2時間サスペンスから連ドラへ出世した刑事ドラマもある」
飛崎N「俺たちのデカ物語も」
見留N「本音を言うと2クール以上続いてほしい」
飛崎N「お互い、相勤以外に言えない秘密。それは―」
見留N「僕たちが刑事ドラマに憧れて刑事になったということ」
<登場人物>
飛崎進介 ひざきしんすけ 36歳
警視庁東永福署捜査一係。巡査部長。
ドラマで観たあの横浜の危なっかしい刑事コンビに憧れて刑事になった。
……ものの、署内では意外と真面目。
無遅刻無欠勤、始末書ゼロ。数回の表彰状授与経験あり。
しかし、見留とコンビを組む時だけはあの横浜の刑事コンビっぽく振る舞いたがる困り者。
見留悟 みとめさとる 35歳
警視庁捜査一課。巡査部長。
ドラマで観たあの警視庁の特命な刑事コンビに憧れて刑事になった。
入庁前はいろんな職場でバイトを経験。
そのため知識が豊富で地理に明るい。
あの警部のように正義と信念を貫いているが、周囲と衝突する以前に相手にされてない。
通称「トメ」
〇病院・外観
〇同・内視鏡室
私服の飛崎進介(36)が出入口付近の長椅子に座っている。
目の前の廊下を車椅子やストレッチャーが通っていく。
飛崎「…………」
飛崎、なぜか紙コップを手に持っている。
同じ長椅子には中高年が並んで腰かけている。
スーツ姿の見留悟(35)が通りかかる。
見留「あれ?飛崎さん!」
飛崎「……おう」
見留「元気ないですね」
飛崎「まさか」
見留「もしかして潜入捜査とか?」
飛崎「んなことあるか、定期健診だよ」
見留「本当に堅実なんですね」
飛崎「もうすぐ40だろ?刑事ってのはカラダが資本なんだ。長丁場や徹夜でどっかボロが出ちゃ困るから」
見留「さすがあんぜんデカ」
飛崎「お医者センセからの取り調べはきついよ」
見留「うまいですね」
飛崎「笑えないけどな」
見留「それにしても5月にしては暑いですね」
見留、飛崎の持っている紙コップに目がいく。
見留「一杯良いですか?」
飛崎「あ、それは!!」
見留がグイッと飲んでしまう。
飛崎は唖然としている。
見留「こんなぬるいスポーツドリンクではホシあげられませんよ」
飛崎「……トメ、それが何か知らないのか?」
見留「え?何ですか?」
と、相勤の刑事に呼ばれる見留。
見留「すいません、行ってきます。追ってる事件の関係者がこの病院に入院してるという情報がありまして。もしかしたらホシが来るかもしれないので」
飛崎「おい、トメ!」
見留は急いで行ってしまう。
飛崎「……悪いことしちゃったかな。ま、何も起こらないことを祈ろうっと」
飛崎、紙コップを長椅子に置く。
傍らのボトルには『経口腸内洗浄剤』。
つまり下剤である。
〇タイトル
『そんな刑事(デカ)に憧れて』
〇内視鏡室・中
検査台の上。
検査着姿の飛崎が大腸の内視鏡検査を受けている。
モニターに映る腸内。
飛崎N「こうして庁内……ではなく、腸内の取り調べが終わった。その結果は……」
〇同・前
出て来る私服の飛崎、お腹をさする。
飛崎「…………」
見留の声「飛崎さん!!」
飛崎の前をものすごい勢いで走っていくガタイの良い男。
見留「ホシです!追ってください!」
飛崎「おう!」
とっさに走ろうとするが、なぜか足を止めてしまう。
すぐに見留が走ってきて、
見留「ちょっと!!どうして止まるんですか?!」
飛崎「実はポリープを取ったからしばらく激しい運動ができないんだ」
見留「え?!」
飛崎「もし出血でもしたら入院しなきゃならない。俺は今、あぶない体内なんだ」
見留「そんな!!」
飛崎「相勤はどうした?」
見留「それが……来るまで時間がかかります」
飛崎「なんで近場にいなかった?」
見留「かの警部殿のようにちょっと自分なりに推理しながら院内をひとり探してたら、偶然ホシが現れたんで」
飛崎「マジか。なんかいい方法は……」
少し離れたところ、看護師が誰も乗っていないストレッチャーを転がしているのが目に入る。
飛崎「トメ!あれ!」
見留がストレッチャーを見て気づく。
見留「承知」
〇同・廊下
逃げる犯人。
後ろから車輪の音が響く。
見留がストレッチャーを転がしている。
上には飛崎が乗っている。
飛崎「トメ!もっとランニング!ランニング・ストレッチャーだ!」
見留「これでも本気です!無茶言わないでください!!それに何ですか、そのランニング何たらというのは」
飛崎「ランニングといったらショットに決まってんだろ?!あのドラマのこういう追跡シーンでかかるの!」
見留「タイトルは知ってますけど、歌詞まではさすがに」
飛崎「任せろ」
だが飛崎は歌わず、ハミングを奏でる。
見留「何で歌わないんですか?」
飛崎「むやみに歌詞言ったら、本家の著作権に触れちゃうでしょ!」
見留「いや、今は遊んでる場合じゃないでしょう!」
飛崎「俺は非番だからいいの」
見留「今はあなたも仕事中です!」
エレベーターが開く。
そこへ向かって行く犯人。
乗客が驚いて外に出る。
飛崎「よしトメ!このまま一気にツッコむぞ」
見留「了解!!……ん?」
見留が腹をおさえる。
飛崎「どうした?」
見留「お腹の調子が……なんかヘンです」
〇フラッシュ
冒頭のシーン。
紙コップの中身(下剤)を一気に飲む見留。
〇もとの廊下
飛崎「あ、すまん」
見留「それ早く行ってくださいよ!!」
飛崎「アンタが勝手に飲むからだろ」
見留「てっきり水分補給してるのかと」
飛崎「その逆だよ!」
見留の足がゆっくりになる。
見留「……これはやばいですね」
飛崎「おい!もうちょっとだ」
見留「結末次第では庁内の笑い者コースへまっしぐらです」
飛崎「ケツだけにな」
見留「再び内視鏡を挿れて開発でもしましょうか?」
飛崎「冗談だよ。替えの下着、買ってやるから」
見留「約束ですからね」
見留が精一杯の力で押していく。
エレベーターのドアが閉まりかける。
飛崎「行けええええ」
ギリギリ戸袋にストレッチャーが引っかかってドアが開く。
飛崎「よっしゃあ!!」
見留「一丁やりますか」
ストレッチャーがエレベーターの中へ。
飛崎、見留、犯人の3人だけの密室。
そのまま閉まるドア。
患者たちが唖然としている。
〇動くエレベーターの中
なかなか手ごわい犯人と必死に格闘するふたり。
が、飛崎も見留もお腹が気になってしまい本気が出せない。
飛崎「ちくしょう!」
見留「何故このタイミングで……」
と、途中のフロアに止まるエレベーター。
犯人に突き飛ばされて壁に頭をぶつける見留、クラクラしてしまう。
飛崎「トメ!!」
そして開くドア。
乗り場で待つ患者や見舞客を払いのける犯人、フロアのほうへ。
お腹を一瞬見る飛崎。
飛崎「逃がすかよ!!」
ストレッチャーから勢いよく降りる飛崎、走っていく。
見留「飛崎さん!!」
飛崎が走って背後から飛びつく。
抵抗する犯人。
それでも精一杯しがみつく飛崎。
飛崎「トメ!早く!!」
遅れてやってきた見留が手錠を犯人にかける。
見留「確保!」
刑事たちが駆けつける。
連行されていく犯人。
見留が飛崎に駆け寄る。
見留「大丈夫ですか?!」
飛崎「当たり前だろ」
見留「でも走ったら出血が……」
飛崎「アホ、あんなのは走ったの”ハ”の字にもなりゃしない」
見留「…………」
飛崎が悠々と立ち上がって、
飛崎「おいトメ、もし取り調べでアイツが吐かないときはさっきの下剤をがぶがぶ飲ましてや……れ……」
飛崎が額に手をかざす。
大量の汗だ。
目の前がぼやけていく。
見留「飛崎さん?」
飛崎の足もとにポツポツと見える何か。
真っ赤な血だ。
そのまま倒れてしまう飛崎。
見留「飛崎さーーーーん」
サイレンの音が近づく。
〇同・緊急外来・前
入口前の廊下で待っている見留。
が、我慢できずにトイレへ直行。
〇同・緊急外来・中
治療を受けている飛崎、意識がうつろ。
〇同・中庭
T「1週間後」
見留が座っていると、パジャマ姿の飛崎がやってくる。
飛崎「帰って来たぜ、トメ」
見留「もう大丈夫なんですか?」
飛崎「なんとかな。もう来週から復帰さ」
見留「それは良かった。ところで飛崎さん、前も言いましたけど、千葉に住む母方のおばあちゃんを呼び捨てにされてるみたいでやめてもらえます?」
飛崎「愛称だよ。愛称」
見留「そういう掛け合いをするのはあなたの管轄でしょ?」
飛崎「あの警部殿っぽく”飛崎くん”って呼べばいいじゃない。愛称の相性ってホント大事だから」
見留「(ギャグが)寒いです」
飛崎「じゃあ暖房でもつけるか。きょうも暑いけど」
見留「そういうことじゃなくて」
飛崎「ところでトメ、アンタも定期的に診てもらったほうがいいぞ」
見留「僕なら問題ありませんよ」
飛崎「酒もたばこもしてるだろ?」
見留「ですが異常なしです」
飛崎「そんなことってあるのか」
見留「飛崎さんこそこれを機に日頃の生活習慣、見直したほうが良いですよ」
飛崎「バカ言うな。生まれてこのかた酒もたばこもまったくしないし、適度な運動とバランスのいい食事こそが俺の生きがいなんだよ」
見留「やっぱりあんぜんデカですね」
〇エンディングナレーション
飛崎N「いかがでしたか?そんな刑事に憧れて・リターンズ」
見留N「いっそフォーエバーでいかがでしょう?」
飛崎N「やめてくれ!今回で終わっちゃうみたいで縁起でもない」
見留N「現に飛崎さん、殉職しかけましたし」
飛崎N「フラグがビンビンだったのは確かだけどさ」
見留N「ということで次回からは僕と新しい相勤の刑事ドラマがスタートします。お楽しみに」
飛崎N「やめて!俺を初代扱いしないでぇ」
<つづく……はず>
このシナリオはフィクションです。
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