彼女の名は『しの』。
仕事はサクラ、コンパのサクラ。
INTRODUCTION
サクラ。それは公演主催者や販売店に雇われて客や行列の中に紛れ込み、特定の場面や公演全体を盛り上げたり、商品の売れ行きが良い雰囲気を作り出したりする者を指す隠語。(wikipediaより)
さくらは春に咲く、まるで季節の始まりを象徴するきれいな花。
サクラは誰かを騙す、まるで諸悪の根源を象徴するきたない者。
同じ読みのはずなのに表記が違うだけでこんなにも意味合いは大きく異なる。
しかし、サクラをしている者はすべて悪い心を持った人物なのだろうか?
ここにひとりの女性がいる。
彼女の名は『しの』。
わけあってそう名乗っている。
日夜東京都内で行われる街コン会場へ参加者に扮して、陰ながら現場の雰囲気を盛り上げたり相性の良い男女がカップリングするお手伝いをしたりしている。
そう、彼女はコンパのサクラなのだ。
普段から良いイメージのない《サクラ》だが、彼女は純粋に街コンへ参加する男女たちの幸せを願いながらこのサクラという仕事に誇りを持っていた。
2020年は1月10日の金曜日。
東京は夜の渋谷。
街コンにて『しの』はいつものように参加者の男性と向かい合って話をしていた。
そこへ順番で巡ってきたひとりの男が彼女の目の前に座る。
彼の名は『リュウ』。
爽やかな好青年に見えるが、実は彼がこの街コンへ参加したのにはある理由があった……
『しの』と『リュウ』。
ふたりが向かい合ったとき、物語が始まりを告げる。
MOVIE
SCENARIO
CAST
篠田美沙子(ことのはbox)
和やかな雰囲気を持ちながら、鋭い視線と研ぎ澄まされた感覚で舞台に立つ実力派。悲運な明治の女学生、悲壮感漂う昭和の未亡人、明るく活発な令和の女性といった、時代も立場も違う役柄をこなす引き出しの多さを持つ。また耳の良さも魅力で、方言も物にしている。表情のわずかな違いから滲み出る心の中の情景は観ている者の心を揺り動かす。
-舞台-
ことのはbox
第15回公演『楽屋』
第13回公演『ジプシー』
第12回公演『彗星はいつも一人』
第11回公演『歌姫』
第10回公演『ONとOFFのセレナーデ』
第09回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』
第07回公演『レイニーレディー』
第06回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』
2018年
劇団ズッキュン娘『神社エール』(演出/藤吉みわ)
山口ちはるプロデュース『外呑み親善大使』(演出/小林光)
猫ノ手シアター『二律背反』(演出/フクシマユウキ)
2017年
文学座附属演劇研究所 卒業
文学座附属演劇研究所『二十世紀少年少女唱歌集』(演出/鵜澤秀行)
2016年
文学座附属演劇研究所『女の一生』(演出/坂口芳貞、稲葉賀恵)
文学座附属演劇研究所『わが町』(演出/松本祐子)
文学座附属演劇研究所 入所
2015年
アクティティング・ラボ無現『ヴェニスの商人』(演出/新藤栄作)
アトリエ無現『便利屋~リターンズ~』(演出/新藤栄作)
『ヌーベルバーグ』(演出・奥村直義)
-テレビ-
2015年
TBS『中居正広の金曜日のスマたちへ』1月〜6月
-ラジオ-
FM世田谷83.4MHz
『坂井賢太郎の昭和バンザイ!』
毎週木曜日22:00〜
梅田洋輔(劇団アマヤドリ)
誠実で繊細な好青年。コミカルな動きをしたかと思いきや突如シリアスな面も覗かせる、まさに予測不可能なお芝居をする魅力的な演者。丸坊主の野球部員から女性ふたりをシェアする金髪のモテ男と、舞台ごとにまるでカメレオンのように役に成るその振り幅の広さは誰にも真似できない。
-舞台-
2020年
くによし組『人人』(作・演出 國吉咲貴)@花まる学習会王子小劇場
2019年
アマヤドリ『うそつき』(作・演出:広田淳一)@スタジオ空洞
ドレスダウンの女『ミツバチ』(作・演出:ノムラハルカ)@東中野バニラスタジオ
かわいいコンビニ店員飯田さん『マインドファクトリー~丸める者たち』(作・演出:池内風)@すみだスタジオパーク倉
2018年
かわいいコンビニ店員飯田さん『僕をみつけて』(作・演出:池内風) @OFF・OFFシアター
Mo’xtra produce『ハイハイツ,タワーリングレジデンス』(脚本:須貝英、レベッカ/構成・演出:須貝英) @APOCシアター
アマヤドリ『野がも』 @花まる学習会王子小劇場
PityChan『世光ちゃん。ぎらぎら♡』(作・演出:山下由) @北千住BUoY
2017年
やみ・あがりシアター『すずめのなみだだん!』(作・演出:笠浦静花) @小劇場てあとるらぽう
アマヤドリ『崩れる』 @花まる学習会王子小劇場
STAFF
エンジニア
清水貴司
(プラチナムガレージ)
アシスタントエンジニア
山口 拳
(プラチナムガレージ)
LOCATION
SPECIAL THANKS
ことのはbox主宰
原田直樹
劇団アマヤドリ主宰
広田淳一
プロット協力
吉田真理
キャスティング協力
難波なう
スケジュール協力
西澤千寿穂
(プラチナムガレージ)
PRODUCTION
脚本・演出・制作著作
須田剛史
このボイスドラマはフィクションです。
SECRET FILE
企画書のプロットです。
以下、ネタバレを含みます。
緒忍 さくら(29) おしのび さくら
本編の主人公。
都内の街コンへ人数合わせ兼雰囲気づくりのために業者から呼ばれる、サクラである。
パーティー中は「しの」(苗字の”おしのび”から)とカードに名前を書いて参加している。
身バレを防ぐため一度参加したエリアのコンパにはしばらく出没しないという徹底ぶりで、男女の出会いを応援するコンパのサクラという裏方の仕事に誇りを持っている。
彼女は仕事上、己の立場に3つのルールを課している。
・現場の空気を壊さないこと
・身バレするような言動はしないこと
・目の前の男性に心を許さないこと
一般的にいかがわしい勧誘をする悪者のイメージが強いサクラではあるが、彼女は参加者の男女が出会うきっかけを支援したいという純粋な目的でサクラに徹している。
ゆえにあくまで人数合わせ、その場を和ませるためのポジションとして尽力する。
・履歴書・
わたしがこの才能に気づいたのは大学生のころ。
「君がこの場にいると、あの子と会話が盛り上がるからとても助かる」
同じサークルで片想いしていた同学年の彼はそう言って、わたしの親友と付き合った。
どうやらわたしは仲介役にうってつけのポジションらしい。
さくらといういかにも主役級な名前なのに、やっていることはいつも脇役。
主役よりも脇役に感情移入する所があり、こないだ中目黒で観た舞台では男性に口づけされたことで無理やり退学させられてしまう明治の女学生を見て共感してしまった。
相手を見れば、心で何を思っているか誰を想っているかが何となくわかる。
しかしどんなときも自分のほうへ目を向けさせようとすればするほど、相手の心は気になっている人の方へと向いてしまう。
それが自分の持っている能力によるものだとは誰も気づかない。
いや、気づいてもらわなくていい。
やがて会社員になってもそれは変わらなかった。
3年ほど経ったころ、ふと思い立って街コンに出てみたのがきっかけ。
そこで気づいた、「この能力を有効活用すべきだ」、と。
業者からお金をもらって場を盛り上げるサクラという仕事にどこか後ろめたさを感じながらも、カップル成立や結婚報告が主催する会社に届けられるとうれしかったりする。
しかし、サクラは世間一般に良いイメージがない。
スマホをいじりながら安い参加費で美味しいごはんを食べに来るだけだったり、はたまたいかがわしい勧誘をする目的でやってきたりする輩が後を絶たないのも事実。
正直そんな人たちと同じカテゴリーにされては困るのだ。
いつものように街コン会場へ向かう電車の中、スマホにお知らせのアナウンスが。
どうやらSNSに誰かが写真を投稿したようだ。
しかし、そこに映っていたのは……
さてと、きょうも”コンパのサクラ”にならなければ。
誰かと誰かを幸せにするために。
成川 隆一(29) なりかわ りゅういち
もうひとりの主人公。
街コンへ行けなくなったという友人の代理で参加することになった男性。
パーティー中はカードに『リュウ』という名前を書いている。
実は彼、サクラという仕事を憎んでいた。
・履歴書・
子どものころから俺はずっと誰かの代役だった。
この名前が意味するように誰かに成り替わるのが一流、まさに名は体を表す状態だ。
人生がどういうものかは幼い頃から知ったつもりでいる。
こういうポジションはだいたい次男が担うのだが、なぜか俺は長男だった。
共働きの両親が昼間は家を空けるので、帰って来るまで親戚の家にお世話になっていた。
そこで幼稚園児の俺を弟のように可愛がってくれる歳の近い小学生の兄ちゃんがいた。
「勉強してテストで良い点を取らなきゃ良い学校へ行けない。それでもウチの長男か!」
昼寝のフリをした俺がいる和室のふすま越しから、わずかに洋室が見える。
そこから見えたのは、兄ちゃんはいつも親から怒られていた情景。
人生とは何たるかをそこでおおよそ悟った。
もしかしたら兄ちゃんが俺の代役として怒られているのかとさえ思えた。
そういえば、俺のあだ名は”代理”。
小学校では班長代理。中学校では生徒会長代理。高校では野球部部長代理。
厳しい体罰で有名な野球部だったが、なぜか自分だけは体罰を受けなかった。
やがて社会人として初めて勤めた飲食チェーンでは店長代理だった。
(※ちなみに今の職場では係長代理)。
あくまで代理なのだが、本物以上にこなしてきたことは今でも誇りに思っている。
1年前のあの街コンを除いては……
急に仕事で行けなくなった会社の友人の代役で出たとある街コン。
正直、これまで恋愛にはあまり縁がなかった。
代理というあだ名が表すように、俺はよく好きな女子から恋の仲介役を頼まれていた。
「ねえねえ代理、彼がアタシをどう思ってるか聞いてきて」
君が俺の気持ちを聞いてくれるならすぐにでも好きと伝えられるのに……
「とてもステキな人だと思ってます」
1年前の街コンで、ある女性が俺の目をじっと見つめてそう言った。
スマホをいじってたりやる気がなかったりというやっつけ感を微塵も見せなかった。
何より会話が弾んだ、だから「この子を信じてもいい」そう思った。
しかし、現実は違った。まさか俺がいかがわしい勧誘のカモに選ばれたなんて。
信じていた分、彼女の正体を知った時のショックは計り知れなかった。
実は、あれからずっとある女を探していた。
その女を探しに数々の街コンに参加したが、なかなか姿を現さなかった。
その女とは目の前にいる『しの』。
やっと見つけた。ずっと探していた。
あの日、街コン会場の裏で勧誘女と一緒にいて、何か話しているのを目撃した。
まるで指示を出すような『しの』の身振り手振りを今でも忘れられない。
きっと彼女がサクラの親玉に違いない。彼女が俺にあの女を仕向けたに違いない。
次の席替えまで制限時間は10分。
俺はどこまで彼女の正体を探ることができるだろうか?