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〇井坂家・外観

愛乃の実家。
夏の終わりの昼下がり。
家の前を通る道には陽炎が浮かび、セミの鳴き声がうるさい。
周囲の住宅とは違い、ひと際目立つ大きな家である。
制服姿の本宮俊介(17)が汗を拭いながら家へと入っていく。
彼はまだ汚れを知らない。

〇同・玄関

俊介が靴を脱ごうとすると、学生用の靴が男女それぞれ1足ずつ転がっていることに気づく。

俊介「(あれ?)」

俊介が静かに階段を上っていく。

〇同・2階・愛乃の部屋

女の子らしいオシャレな室内。
ブランドのロゴが入ったバッグや洋服が認められる。
少し開いたドアから漏れる卑猥な声。
おそるおそる俊介がのぞくと、ベッドで裸の男女が性交渉している。
井坂愛乃(17)は恍惚な表情を浮かべながら天を仰いでいる。
床には各々の制服や下着が無造作に落ちている。
俊介が一度は目を逸らすものの、またじっと見入ってしまう。

俊介「…………」

相手の男(高校生)の顔は愛乃に覆い被さり見えない。
俊介の表情が凍りついていく―

〇俊介と愛乃が通う高校・外観(夕)

放課後。
部活動中の生徒や下校している生徒。

〇同・廊下(夕)

ひとり歩いている俊介、拳を強く握っている。

〇同・教室(夕)

若さが溢れている。
満面の笑みを浮かべる愛乃がクラスメイトたちとはしゃいでいる。
陰りある顔の俊介がやってくる。
愛乃が俊介に気づいて駆け寄る。

愛乃「どしたん?」

〇川沿いの道(夕)

帰り道、俊介と愛乃が並んで座る。
俊介には元気がなく、うつむいている。
愛乃はまったく悪びれる様子もなく遠くを見ている。

愛乃「そっか、バレちゃったか」
俊介「…………」
愛乃「ま、このへんがグッドタイミングか」
俊介「は?」
愛乃「バイバイしよっ」
俊介「何でだよ!」
愛乃「だってウチとぜ~んぜんっエッチしてくれないんだもん」
俊介「恋愛ってそういうことするのが全てじゃないだろ? オレらまだそんな歳じゃないし、もっとお互いを知ってからでも―」
愛乃「ホントはビビってるだけでしょ。ココロんなかじゃヤリたいクセに」
俊介「それはその―」
愛乃「こないだのカレはウチをぜんぶアイシてくれてるもん。シュンとぜんぜんちがう」
俊介「こないだって、他にも男がいるのか」
愛乃「まあね」
俊介「…………」
愛乃「好きだっていうから、せっかくカノジョになってあげたのに。ヤラせてあげるチャンスいっぱいあげたのに」
俊介「…………」
愛乃「アタシからすればシュンの言ってることはありえない。だからこれでバイバイね」
と、愛乃が立ち上がって歩いていく。
俊介「(立ち上がって) 愛乃!」

愛乃、俊介を無視する。
今にも泣き出しそうな俊介、拳を強く握って―

〇渋谷・繁華街(夜)

T「10年後」
相変わらず若者たちで賑わっている。

〇ラブホテルの一室・内(夜)

例えば円山町。
生ぬるい空気が室内に漂う。
ベッドの上で裸の若い女が眠っている。
汚れを知った裸の俊介(27)、冷めた様子でシャワールームから出て来てそそくさと服を着始める。
どこか虚しさが漂う表情の俊介、部屋を出て行き―

〇もとの繁華街(夜)

俊介がひとり歩いていると、イチャつく高校生カップルがやってくる。
俊介にはすれ違う女子高生の顔がなぜか愛乃に見えてしまう。
ハッとしてとっさに拳を握る俊介だが、よく見ると別人である。

俊介「…………」

と、里美の声が聞こえてくる。

里美の声「お願いします」

清楚な雰囲気の藤村里美(21)がひとり、通行人たちに何かを配っている。
近くの通行人たちは里美を見て、何やら驚いている様子。
里美に気づく俊介、彼女の方へ近づいていく。
里美も俊介に気づいて、

里美「お願いします」

と、何かを差し出す。
俊介が里美の手元をよく見ると、避妊具である。
俊介、里美から避妊具を受け取る。

俊介「マジかよ」

里美は俊介の様子を気にも留めず、通行人たちに避妊具を配る。

里美「お願いします」

俊介、里美の持つカゴに目をやる。
カゴには『愛について考えましょう』というシールが貼られている。
俊介がシールを睨んで、

俊介「思い切ったことするんだ」
里美「ご自由にどうぞ」
俊介「一個だけ?」
里美「良ければ何個でも」

俊介、里美が持つカゴに受け取った避妊具を戻す。
里美は戻された避妊具を見つめる。

俊介「ありがとう」

里美、俊介に背を向けて、

里美「どういたしまして」

俊介が不思議がって、

俊介「なあ」

俊介が里美の正面に回る。
だが里美は俊介に背を向ける。
俊介が仕方なく、里美の背中に話しかける。

俊介「もしもし」
里美「必要ない人とは話しません」
俊介「じゃあ、もらう」
里美「さっき戻しましたよね?」
俊介「それが?」
里美「もう差し上げません」
俊介「おいおい」
里美「お引き取りください」
俊介「じゃあ、名前は?」
里美「…………」
俊介「それくらい教えてくれても―」
里美「警察呼びますよ」
俊介「むしろこういうこと無断でやってるほうが何か言われるんじゃ―」
里美「それでも呼びますよ」
俊介「そんな大げさな―」

俊介が我に返ると、周囲に人だかりが出来ている。
観念した俊介が再び歩き出す。
里美が何もなかった顔で、

里美「お願いします」

と、通行人に避妊具を渡し始める。
俊介、少し離れたところから里美の様子を見ている。
どうやら気になって仕方がない。

<第2話につづく>

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