シナリオ「ひとりぼっちのチェリー」第4話
〇ラブホテルの一室(夜)
仄暗い室内で俊介が先ほどの女と事に及んでいる。
恍惚な表情を浮かべる女に対し、俊介は遠くを見て冷めている。
ふと俊介が見下ろすと、女の顔が愛乃に変わっている。
俊介「!」
女の子「痛っ」
一瞬たじろぐ俊介だが、すぐに元の女の顔に戻る。
俊介「……ごめん」
拳を握る俊介、再び事に及ぶ。
俊介の顔は悔しさに溢れていて―
〇もとの繁華街(夜)
大雨が降っている。
ホテルから出てくる俊介。
傘を差して歩く通行人たち。
雨とわかり、俊介は近くの軒下まで向かって雨宿りする。
スーツなどに付着した雨を振り払う俊介、少し離れた軒下で雨宿りしている里美を見つける。
俊介「……いた」
里美は俊介に気づかず、じっと空を見ている。
俊介が里美の横へ。
俊介「ここにいたのか」
里美「…………」
俊介「でも、この雨じゃ配れないな」
里美「…………」
俊介「またそれか」
里美「さっきの女性は彼女さんですか? とてもそうは見えなかったけど」
俊介「!」
俊介、里美を覗き込む。
里美は俊介を見ようとしない。
俊介「見てたのか」
里美「見かけたんです。あれ、一緒じゃないんですか? (と、嫌味ったらしく)」
俊介「……置いてきた」
里美「(表情が少し険しくなって)」
俊介「なんてな」
里美「では誰なんですか?」
俊介「今夜だけの遊び相手」
里美「遊び?」
俊介「当たり前だ」
里美がそっぽを向いたままで、カゴから避妊具をひとつ取り出すと俊介に見せる。
里美「ちゃんと使いましたか?」
俊介「さあ」
里美「最低ですね」
俊介「何だと?」
里美「そこに愛はあるんですか?」
俊介「愛?」
突然、笑いだす俊介。
信じられない里美。
俊介「笑わせんな、愛なんてキレイゴトだろ」
里美「かわいそうに―」
俊介「何だと?」
里美「あなた、ひとりぼっちですね。だからそんなことばかりしてる」
俊介「そんなことって何だ」
里美「まるで風俗です」
俊介「店に失礼だろ」
里美「何ら童貞と変わりません」
俊介「は?」
里美「だから童貞です。チェリーです」
俊介「バカにしてるのか!」
里美「そうです」
俊介「オレはなチェリーなんてとっくに―」
里美「愛のない性交渉は童貞と同じです」
俊介「…………」
里美「私はあなたが嫌いです。何かあったら責任取れるんですか?」
俊介「こっちは同意の上でヤってるんだ」
里美「…………」
俊介「女なんてみんな同じだろ、大人しい顔して心のどこかじゃ抱かれたがってるんだ。君だってそうじゃないのか?」
里美「…………」
俊介「これでも役に立ってるんだ、見渡せば彼氏に不満なコはたくさんいる。オレはそんな彼女たちを慰めてやってるんだ」
里美「…………」
俊介「最近流行りの草ばっか食ってるヤツらよりだいぶ―」
俊介の言葉を最後まで聞かない里美、傘を差して行ってしまう。
俊介「おい!」
俊介が里美を追おうとするも、大雨の前でたじろいでしまう。
里美がどんどん離れていく。
俊介「待てってば!」
俊介が急いで追い掛ける。
里美、傘を差して歩いている。
俊介が並走するように連なる店の軒下を伝って追う。
俊介、雨宿りする人たちをかわしながら、
俊介「こっちだって聞きたいことあるんだ!」
里美「…………」
俊介「何でいつもあんなことしてるんだ?」
里美「…………」
俊介「こっちは言うこと言ったんだ! そっちのことだって少しは教えてくれたっていいだろ!」
交差点の手前で里美が立ち止まる。
横断歩道の信号は赤である。
俊介も慌てて止まる。
里美、俊介に背中を向けたままで、
里美「わかりました、答えます」
俊介「(身構えて)」
里美「何となくです」
俊介「おい! それって答えになって―」
横断歩道の信号が青に変わる。
里美が交差点を渡っていく。
俊介「ちょっと待っ―」
追い掛けようとする俊介だが、先に雨宿りできる場所がなくて止まる。
里美が人ごみに紛れていき、見えなくなってしまう。
俊介「(人ごみを見ていて)」
雨が容赦なく降り続いて―
<第5話につづく>
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