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〇七草家 (夜)

キッチンでは千景の父・哲彦(53)が食器洗いをしている。
千景が哲彦を手伝い始める。

哲彦「珍しいな、ダディのお手伝いとは」
千景「明日は雪が降るかもね」
哲彦「また朝早いんだろ? 部屋でゆっくりしてればいいのに」
千景「たまにはさせて親孝行」
哲彦「したいときに親は無し、ってか」
千景「そういうこと言わないで」
哲彦「どういう風の吹き回しだ?」
千景「もうすぐ30だし、家事もカンペキに出来るようにならないとね」
哲彦「まさかお前―」
千景「違うって。父さんがイメージしてるようなことじゃないって」
哲彦「父さんじゃない。ダディ、だ」
千景「とにかくそういうことじゃないって」
哲彦「彼とはうまくいってるのか?」
千景「……うん、まあね」
哲彦「いつ連れて来るのか、ダディ実はけっこうドキドキしてるんだが」
千景「…………」
哲彦「マミーにも見せてやりたいしさ」

仏壇にある若い女性の遺影を千景と哲彦が見つめる。

哲彦「……もうかれこれ20年ちょいか」
千景「…………」

気を取り直し千景が食器を片付けようとして、

千景「これ確か上だったっけ」

上の棚に入れようとするも届かない。
ほっそりで長身な哲彦、フォローして食器を上の棚にしまう。

千景「ありがと、ダディ」

〇同・リビング (深夜)

哲彦、パソコンで動画を観始める。
昔のプロレスの試合中継だ。
部屋着の千景がやってきて、

千景「寝るね」
哲彦「おう」
千景「いつもそれだね」
哲彦「まあな」

哲彦は画面に夢中している。
こっそりと部屋を後にする千景。

哲彦「ここだよ! 見てほら―」

振り返るが誰もいない。
ディスプレイは選手入場のシーンがなぜか一時停止されている。

〇同・千景の部屋 (深夜)

殺風景で、誰もがイメージする女性の明るくて華やかなものではない。

千景「―こんな部屋見せられないよ」

千景が机に向かってパソコンを開く。
ディスプレイや雑誌を見る千景、ノートにいろいろメモしていく。
男性ウケするメイクのしかた、ファッションなどなど。

〇スイーツカフェ

昼。友介が上司に叱られている。
外から窓越しに見かける千景で―

〇同・スタッフ通用口

落胆して必死に涙を堪える友介、物陰から千景が現れる。
手にはブラックコーヒーの缶。

千景「おつかれさまです」
友介「(ビックリして) わ!」
千景「こないだはどうも」
友介「(明るく振る舞って) こちらこそ」
千景「はい (と差し出す)」
友介「え?」
千景「どうぞ」
友介「―どうも」

友介は缶を持ったまま、間が続く。

友介「家に帰ってから頂きます」
千景「まだ昼になったばかりだけど」

再び何とも言えない間。

千景「―もしかして苦手とか?」
友介「個人的にはミルクと砂糖も入ってるほうが助かります」

友介の目元に涙を見つける千景。

千景「ついでに塩味も入れたほうが良かったりして」
友介「はい?」
千景「大の男も泣くんだなぁと思って」
友介「な、泣いてなんかいませんよ。そ、それよりお昼休憩ですか?」
千景「やっぱり泣いたんだ」
友介「…………」
千景「ミスしたとか?」
友介「まあ、そういったところです」
千景「飲食店って大変でしょ? 私も学生のときドーナツ屋でバイトしたけど何事も臨機応変だからイヤになっちゃった」
友介「我慢と努力と探求心も必要です」
千景「ん? それってまるで私がそれらから逃げたって言いたいみたいだけど」
友介「そういう意味じゃありません」
千景「ま、逃げたのはたしか。今じゃパソコンとずっとにらめっこしてるし、そっちの方がぶっちゃけ楽だから」
友介「SEですか?」
千景「ううん、ただのデスクワーク。パソコンの資格ならたくさん持ってるから」
友介「すごいですね」
千景「別に。誰でも取れるヤツだし」
友介「そんなことないです」
千景「おだてても何もあげられないって」
友介「良いです。缶コーヒー頂きましたから」
千景「おかしな人。ところで私溜まってるんだけど、今から一緒に一発どうかな?」
友介「何を言い出すんですか、突然」
千景「溜まってるってイライラやムカムカのことだけど。何のことだと思ったの?」
友介「……いえ、何でも」

<第5話へつづく>

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