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〇アパート・沙知絵の部屋(夕)

沙知絵が荷物を整理している。
傍らに尚美がいる。

尚美「おかしいでしょ!」
沙知絵「別におかしくはないけど」
尚美「どう考えたっておかしいでしょ? 子どもに内緒で別居の計画なんかしてたの?」
沙知絵「べつに内緒には……ああ、してたわ」
尚美「こっちは真剣に聞いてるの! それに、見慣れてる家具がここにあるのも変な気分だし―」
沙知絵「ごめんね。でもこうして無事に娘が2人とも家を出てるわけだから、それに離婚したわけじゃないもの」
尚美「……母さんまで。そういう問題じゃないでしょ。実家のおじいちゃんとかにはこのこと言ったの?」
沙知絵「まさか。話すといろいろ面倒だし」
尚美「あのね……」
沙知絵「これは父さんと決めたことなの」
尚美「だからって―」
沙知絵「大人同士の話に子どもが首を突っ込まないの」
尚美「もう子どもじゃありません。もうすぐ30ですから」
沙知絵「じゃあ、親の話に娘が首を突っ込まないの」
尚美「言い方変えれば良いってもんじゃないでしょ……もういい。これじゃ、らちが明かない (と出て行こうとする)」
沙知絵「え、帰っちゃうの? じゃあ、その前にちょっとお願いがあるんだけど」
尚美「はぁ?」

〇栗山家・孝介の部屋(夜)

孝介、パソコンを操作している。
傍らの写真立てには、笑顔を浮かべる若き日の孝介と沙知絵。

孝介「…………」

と、窓の外に人影が。

〇同・庭(夜)

裏口から出る孝介、ホウキで恐る恐る人影目がけて思い切り振る。
ヒットして倒れる人影。

駿の声「痛ってぇー!」
孝介「え?」

明かりをつけるとそこには駿。

孝介「……シュン君?!」
駿「ど、どうも」
孝介「どうしたの?」
駿「いえ、あの、たまたまこの辺を通りかかったんで」
孝介「その言葉、前にどっかで……あ、それよりケガはないかい?」
駿「大丈夫です」
孝介「何だ、尚美と一緒かと思ってた」
駿「え?」
孝介「ん?」
駿「あ、いえ。あの……今日のこと、尚美さんには内緒にしてもらえませんか?」
孝介「どうして?」
駿「お願いします」

駿が深く一礼して、足早に去って行ってしまう。
孝介は首を傾げる。

〇アパート・沙知絵の部屋 (夜)

キッチンに並んだ料理本たち。
沙知絵が野菜を切っているが、いかんせん手際が悪い。
尚美が近くで見ていて、

尚美「危なっかしいんだけど」
沙知絵「そこで見てて言うだけにして」
尚美「手伝う」
沙知絵「ひとりでやるの」
尚美「(ムッとして) そうですか」
沙知絵「そうですよ」

沙知絵の一生懸命に料理へ取り組む姿勢を見る尚美。

尚美「……珍しい」
沙知絵「何が?」
尚美「母さんが料理するなんて」
沙知絵「ここには母さんひとりだけだから」
尚美「私もいるっての」

と、沙知絵が火傷する。

沙知絵「熱っ」
尚美「ほら、言ってるそばから。手、貸して」

尚美が沙知絵の指に水道水を浴びせる。

尚美「こうすればそのうち治るから」
沙知絵「そういうとこ、父さんにそっくりね」
尚美「私があの人に? まさか」

沙知絵、野菜炒めを作り始める。

尚美「ああ! 母さん、野菜入れる順番が違うって。こういうのは火が通りにくいものから入れるの」
沙知絵「思い出した! 小学6年の調理実習で野菜炒めうまく作れなかったんだ」
尚美「うわ、めっちゃイメージできる」
沙知絵「火の通りが良い順に入れちゃって全部真っ黒焦げ」
尚美「あらら」
沙知絵「だから同級生たちにカンパしてもらったの」
尚美「ホントに情けないんだから」
沙知絵「その時に母さん、もう料理はダメなんだって悟ったのよ」
尚美「父さんと結婚したからどうにかなってたのに……ねえ、何で別居なんかしたの?」
沙知絵「う~ん、そうねぇ……」
尚美「(観念して) もういいよ」
沙知絵「しょうがないじゃない。それに別居したからこうして料理を始めたんだし」
尚美「……」
沙知絵「ところでシュン君とは上手くいってるの?」
尚美「何でいきなりそうなるかな」
沙知絵「ナオが不機嫌になるのはだいたい仕事か恋のどっちかがダメなときだから」
尚美「あのね―」
沙知絵「当たってるでしょ」
尚美「ハズレ。大ハズレ」
沙知絵「どうだか」
尚美「とにかく、この話は終わり」
沙知絵「何があっても仲良くするのよ」
尚美「それだけは言われたくない」
沙知絵「よし、これでちょっとはわかった」
尚美「そう言うときは全然わかってない」
沙知絵「(満面の笑みで) アドバイスありがとう。もう帰って大丈夫だから」
尚美「あのねぇ……」

〇アパート近くの道(夜)

歩みを止める尚美、振り返って沙知絵の部屋を見つめる。

〇アパート・沙知絵の部屋 (早朝)

スーツ姿の沙知絵が支度をしている。
資料をカバンにまとめて出発しようとすると、孝介との2ショットや家族写真に目を留める。

沙知絵「…………」

<第5話へつづく>

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