女優の富田麻帆さんが出演された舞台を観ました
はじめに
2020年1月24日
東京は中野の劇場MOMOにて
朗読劇「Anniversary Tree」鑑賞
この舞台を拝見したのにはある理由があった。
終演後、どうしてもお会いしたい役者さんがいたからだ。
富田麻帆さんである。
最近始めたオリジナルボイスドラマは舞台でご活躍されている素敵な役者さんたちとお仕事させていただく大きなプロジェクトだ。
すでに次回作である第3弾の企画を立ち上げ、たくさんの舞台にお邪魔してこれからもお声がけしていきたい役者さんたちが山ほどいる。
実はその中に富田さんもいるのだ。
そう、僕のオリジナルボイスドラマにぜひ出演していただきたい!!という夢があるのだ。
すべてのはじまりは15年前のこと。
僕が田舎の高校生だった18歳の春。
平日の夕方にある番組が放送していた。
テレビ東京のバラエティ「シブスタ」である。
当時、水曜日のMCを担当されていたのが富田さんだった。
トークのうまさで臨機応変に現場を仕切る姿にスゴさを覚えたのだ。
きっと数多くの現場を渡り歩いてきたのであろう、と感じた。
そのさりげない立ち振る舞いの中に見えるプロ意識の高さに心打たれたのだ。
「相棒」を見て脚本家を志すことになってから半年後の出来事。
このとき、ある目標ができた。
脚本家になって、自分の書いた作品に出演してもらおう!と。
ある意味それがボイスドラマの原点なのだ。
なお、2年前の「紅葉橋」という映画に女優役で出演されている。
この映画で共演された難波なうさんがのちに僕のボイスドラマに出演していただくことになる。
ちなみに難波さんは記者役で、富田さんを取材する役どころ。
ロケ地は、すみだスタジオパーク倉のロビー。
お会いしたい方と知り合いとが向き合って話すシーンを観て感動したのは言うまでもない。
このとおり、なぜか共演した人たちや関わられた仕事の関係者とお会いするケースが多い。
とはいえ、実は一度だけお会いしたことがある。
田舎の高校を卒業後、上京して都県境の大学生になった僕は「ダブルブッキング」という舞台が夏の新宿で行われることを知る。
紀伊國屋ホールとシアタートップスを出演者が走って行ったり来たりする前代未聞の作品。
当時は出演者がどちらの舞台にどれくらい出演するかというリストがあった記憶がある。
富田さんがシアタートップス側にヒロイン役で出演されると知り、すぐさまチケットを買った。
それまでにもいろんな舞台を観に行ったことはあったが家族や知り合いに誘われてばかりだったので、自ら進んでチケットを買ったのはこれが初めてだった。
開演後、舞台背後の階段あたりから初登場した富田さんを観た瞬間に覚えた感動は今も忘れることが出来ない。
終演後に僭越ながら紀伊國屋ホールでご挨拶させていただいた。
当時の僕はまだシナリオを学ぶ前でなおかつ口下手な性格(今も)なので、ご迷惑をおかけしてしまったに違いない。
事情を話すと快くお話してくださった。
その素敵なご対応に心から感謝した。
ほんのわずかな時間だったがとても幸せだった。
またいつかお会いしたい、そう心に決めた。
その時までに文章の腕を磨き、人生経験を積み、今度はちゃんとした脚本家としてお会いしようと。
そして11年後の今回、その時が来たと思った。
だがタイミングが合わず、次回へ持ち越しとなった。
なので、そのときまでに僕はもっと人の器と文章の腕を磨いておく。
本公演について
「雪だるま」
脚本:井吹カケル (劇団ウルトラマンション)
<キャスト>
富田麻帆 (国府田サキ 役)
西園みすず (ユッキー 役)
荒井瑠里 (ルマ 役)
水原ゆき (西園寺静 役)
八幡夏美 (国府田よし子 役)
石川翔 (玄田蘭道 役)
「バレンタイン・キューピッド」
脚本:伊藤高史 (劇団ウルトラマンション)
<キャスト>
楠世蓮 (鏡明日香 役)
辰巳シーナ (キューピッド 役)
尾崎真一 (ゼウス 役)
結木ことは (櫻井今日子 役)
平賀咲乃 (国生未来 役)
中島貴月 (沢渡華子 役)
演出:安藤亮司 (劇団ウルトラマンション)
ほんわかしたファンタジーではあるがところどころに人生の教訓が凝縮されている「雪だるま」と、ラブコメと見せかけておいて実は命にまつわる重厚なテーマを描く「バレンタイン・キューピッド」。
「雪だるま」はペンションでバイトすることになった女子高生の国府田サキが働くことで社会の中で生きる厳しさを知り、はたまた雪だるまの親子・ルマとユッキーに出会うことで母親の気持ちを理解していく成長物語。
さすがは主役の富田さん。
場面ごとに見せる表情、発声、一挙手一投足、すべてに深みを感じる。
途中で荒井瑠里さん演じるやんちゃな子雪だるま・ルマと見せるコントのような掛け合い(だるまさんがころんだでのアドリブ等)は「シブスタ」の頃を彷彿させて、観ていて笑みがこぼれた。
ペンションで客たちの対応に悪戦苦闘するサキを見て、昔の自分を思い出した。
接客業は臨機応変が求められるとても奥の深い仕事だ。
初日を経てクタクタになる姿に、かつて飲食店でアルバイトをしていた自分を重ねていた。
ところで西園寺静のセリフの癖が良い意味ですごかった。
“お”を言葉の頭に着けたり、独特な笑い声をしたりと、現場でかなりアレンジされたそう。
ケバケバの帽子のくだりもアドリブで、笑ってしまった。
演じる水原ゆきさんがアフタートークでおっしゃっていたように、台本は普通の口調で書かれていた。
イケメンオーナー・玄田蘭道役の石川翔さんのセリフ回しもすごい。
開演前のアナウンスを担当されていたが、イケボで来たかと思いきや最後に突然玄田蘭道のドスの効いたべらんめえ口調に切り替えて自己紹介をされたときは驚いた。
声のギャップといえば、親雪だるまのユッキーを演じた西園みすずさん(さんみゅ~)もすごい。
ルマと友達になろうとする人間のサキに、親として冷たいトーンで忠告する。
しかし、実はサキと深い関わりがあったことがラストでわかると突然高めのトーンになって意表を突かれた。
続いて「バレンタイン・キューピッド」。
タブレットを使いこなす全知全能の神・ゼウスの下で働くキューピッドはエンジェルから最近昇格したばかり。彼女は鏡明日香という女性と今川大介という男性をくっつける大役を任されるのだが、なぜかこのふたりの名前をどこかで聞いたことがあった。その一部始終をゼウスとともに見ていくのだが……という物語。
出だしから笑ってしまった。
ゼウスがタブレットを使いこなしているという画がツボに入った。
フライヤーの時点で存在感がいちばん大きいのはわかっていたはずなのに、いったいなんなんだこのオープニングは(笑)
タブレットで台本を読んでいるとわかっているのに、美少女のお尻を見ている設定にするとは実に予想の遥か斜め上を行っている。
大学の講義のシーンで繰り広げられる楠世蓮さん演じる明日香と結木ことはさん演じる今日子のLINEでのセリフの応酬も見事で、ホンを書いているのは男性(※後述)だがいかにもリアルにいそうな女子がそこにいてすごかった。
ラブコメものかと思っていたら実はとんでもないラストへの伏線になっているとはこの時思いもしなかった。
本作は演者が上演台本を読んでいく朗読劇のスタイルを逆手にとって、ケーキ屋のシーンは台本ではなくメニュー表や雑誌。
そして結婚式のシーンでは手紙へと形態を変えて明日香や今日子に読ませる工夫にニヤリとした。
ここからはネタバレになるが、中島貴月さん演じる産婦人科医の華子が妊婦の明日香に酷な事実を伝えるシーンがある。
明日香は生まれ来るであろう新しい命に関する明るい報告を、華子はその新しい命に起きた悲しい報告を交互に言わせる演出に思わず唸った。
華子(カコ=過去)という名前が表すように、このときの中島さんの醸し出す大人の雰囲気が何とも言えない。
それはまるで目には見えないたくさんの過去を背負ってきたような感じ。
この重さがいい。
消えてしまった新しい命に明日香がポロポロと涙を流し、辰巳シーナさん演じるキューピッドに姿を変えていた娘と最後に奇跡の再会を果たすラストは観客たちの気持ちも最高潮に達していた。
それまで本編は大したトラブルもなくスムーズに進んでいたので、きっと最後にどでかい波乱がやって来るだろうと予測はしていたが、そういう展開で魅せてくるとは思いもしなかった。
なお、登場人物の名前にとある仕掛けがされている。
台本にもある表記がされていたりする。
明日香=明日
今日子=今日
未来=未来
華子=過去
明日香の旦那は今川=今
このように暗号が隠されているのだ。
ゼウスが華子を”カコ”と紹介したときからもしやとは思っていたが、すべて計算されてネーミングされていたと知ったときは身震いした。
本公演の双方に共通するのは「親子の愛」だろう。
サキとよし子、明日香とキューピッド。
そしてルマとユッキー。
何気なくどこにでもいる親子と、母と娘になることができなかったふたり、冬という限られた季節を生きる親子。
この三組の親子の愛を本公演はテーマとして伝えたかったのだろうと思ったとき、すべての合点がいった。
印象に残った役者さん
八幡夏美さん (劇団ウルトラマンション)
サキの母・よし子役。
千鳥のモノマネに始まり、実に様々な表情と声を出す芸達者ぶりな凄みがある。
「まめまめまめまめま~♪」
物語のつなぎやエンディングでも大活躍されていた。
登場すると会場からは笑い声がドッカンドッカン湧き上がる。
ホントにすごい人だ。
尾崎真一さん (劇団ウルトラマンション)
ゼウス役。
初っ端から存在感が大きすぎる。
関西弁はズルい。だっておもろいやん?
アフタートークのMCとしてキャストの皆さんを仕切っていた。
とにかくおもしろい。うらやましい。マジで。
僕は言葉遣いが硬いので、こういう柔らかい言葉を喋れていたらどれだけ人生が楽しいかといつも思う。
冒頭では眠れない息子役もやってたはず。
平賀咲乃さん
パティシエ・未来役。
役どころではあるが、あざとさが実にうまい。
「大介くん……だっけ?」と素の声のトーンに一瞬変わるところも見事。
さらに結婚式のシーンでの選挙のウグイス嬢的なセリフ回しや立ち振る舞いから滲み出る凛とした芯の強さがすごかった。
おわりに
本公演の「バレンタイン・キューピット」を書かれていたのは伊藤高史さん。
そう、あの電波少年の朋友の伊藤さんである!
「相棒season6」の最終回に記者役でゲスト出演されていたというのもなんだかおもしろい。
小学生のときテレビで観ていた人からまさかTwitterでコメントをいただけるとは思いもしなかった。
とても素敵な舞台をありがとうございます。
改めて心より御礼申し上げます。
そして、台本が販売されると知ったときは正直うれしかった。
すぐに買って公演後、細部まで読んだ。
担当した脚本家の書きグセやト書きを読めるうれしさ、急遽現場で変わった箇所を探していく楽しみ、そして役者さんたちがどのような引き出しで文章に目を通して読もうとしたのかをイメージする悦びをビンビン感じられるからだ。
ここまでくると変態の領域だな、うん。
でも楽しいから仕方ないのだ。
まるで猪突猛進のように芝居の神髄を探求したくなってしまうのだからどうか許してほしい。
とても素敵な1日になった。
おかげでこれからも刺激を受け、前へと進める。
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