シナリオ「100点満点の人生」

《登場人物》
飯成道行 … 松澤弘晶
生方桜花 … 斉藤渚
SE スーパーカーをふかす
SE ロケットスタート
飯成「(驚いて)うおおおおおお!」
桜花「もっと飛ばすよ! 私に捕まって」
飯成「桜花さん! これ以上は道交法に触れちゃいます!」
桜花「関係ないわ。ガンガン行くわよー」
飯成「(なおも驚いて)おわああああああ!」
SE 車で急カーブを走り抜ける
SE 港(適宜ウミネコの鳴き声)
桜花「はあ、スッキリした」
飯成「まさかこんな一面があったなんて」
桜花「プロフの着物女は世を忍ぶ仮の姿。とはいえ、これも数ある顔のひとつだけど」
飯成「僕より少し年下なのに、いったいどんな生活してるんですか」
桜花「だってぇ、毎日同じパターンじゃつまんないんだもーん」
SE 電車の通過音(環境音も)
飯成「…あんなふうに見えるのか」
桜花「え?」
飯成「帰りはいつもあの電車なんです」
桜花「うわぁ、満員御礼だね」
飯成「なるほど。本来仕事だった日に休むのって…こういう感覚なんだ」
桜花「え、きょう会社だったの?」
飯成「飯成道行59歳、これまで無遅刻・無欠勤・無早退の自分が社会人37年目にして初めて有給なるものを使いました」
桜花「なんか悪いことさせちゃったね」
飯成「問題ありません。事前にその分の仕事はすべて終わらせてきたので」
桜花「そう言うと思った」
飯成「正直僕みたいなのがマッチングできるとは思わず、何ていうか…その―」
桜花「うれしくなっちゃったんだ」
飯成「お恥ずかしながら、デート初めてで」
桜花「あのプロフ、ホントだったの? 小中高は名門男子校。告白して成就したのは数々の難関校と名だたる一流企業たち」
飯成「そんな誇張して書いてませんよ」
桜花「高身長・高学歴・高収入。まさに100点満点の人生そのものなのにねぇ」
飯成「今ではそこへ高血圧・高血糖・高脂血症が加わって、見事なまでの6高男です」
桜花「早めに行きなよ、人間ドック」
飯成「来月お世話になりまする」
桜花「酒とタバコとラーメン、控えてね」
飯成「いえ、それらは全く摂ってません」
桜花「ええ? 新橋にいそうなサラリーマンみたいな顔してるのに」
飯成「見た目で判断しないでください」
桜花「ごめん。で、この後どうする?」
飯成「桜花さんが行きたいところで―」
桜花「0点」
飯成「はい?」
桜花「もう飽きた、それ。浅草で食べ歩き、銀座でお買い物、横浜でレンタカー。ぜーんぶ私がしたいこと、行きたいとこ」
飯成「僕は桜花さんが喜ぶのを傍で見―」
桜花「(遮って)アンタはどうしたいの?」
飯成「え?」
桜花「心の中の欲望、ガツンとぶつけてよ。だから恋愛できない男が増えるんだわ」
飯成「…桜花さん?」
桜花「女の顔色にビビッてないで、男らしく振る舞えよ。オレはああしたい、こうしたいってわがまま言ってさ。つまんない日常のレールから脱線してみろってんだよ」
飯成「……す、すいません」
桜花「(我に返り)…こちらこそ、言い過ぎた」
SE 遊園地
飯成「遊園地、行きたい。学生の頃から彼女出来たら、ずっとそうしたかったから」
桜花「じゃあ、連れてって」
飯成「…いいんですか?」
桜花「(呆れて)0点」
飯成「(ムッとして)わかりました。よし! 行きましょう。手、繋いじゃいますから」
桜花「やればできるじゃ―あ…痛っ」
飯成「どうしました?」
桜花「(我慢して)…何でもない。大丈夫よ」
SE ふたりの歩行音(少しズラす)
SE 駅
飯成「きょうはありがとうございました。わざわざ見送りまでしてくれるなんて」
桜花「こちらこそ」
飯成「考えたこと無かった、今の一度も」
桜花「え?」
飯成「親や周りの言うことを聞いて、それを叶えることが全てだと信じてきたから」
SE 電車がホームに入ってくる
飯成「生方桜花さん」
桜花「なに、いきなり」
飯成「どうして会ってくれたんですか? こんな定年間近のおじさんに」
桜花「…100点満点の人生だったから」
飯成「え?」
桜花「私の親もね、飯成さんのとこと同じ。『良い学校、良い会社へ行け』が口癖で、世間からの100点満点を望まれてたの。でもそんなのイヤだから、高校卒業してケンカして家出して会社興したってワケ」
飯成「そうだったんですか」
桜花「結局、親とは和解できずに死に別れ。少しは言うこと聞いておくべきだったかなって思ってたところへアンタが現れた」
飯成「会ってみてどうでしたか?」
桜花「心から愛されてたんだね、アンタも私も。でも、私はやっぱこの人生でよかった」
飯成「だって100点満点ですから」
桜花「え?」
飯成「何もかもが新鮮で刺激的で、毎日を謳歌してるから。僕には真似できない」
桜花「でも、そんな生活もきょうで終わり」
飯成「え?」
SE 電車のドアが開く
桜花「明日から入院するの。ここんとこ体調が変だから何だろうって思ってたら…もう退院できないところまで来ちゃってた」
飯成「ということは、さっきの痛みは―」
桜花「だから、もうアンタとは会えない」
飯成「…そんなの嫌です」
桜花「え?」
飯成「たとえあなたに何が起きても、僕は助けに行きます。女の人と会うことがこんなに楽しいだなんて思いもしなかった」
桜花「アンタならもっといい女が見つかる」
飯成「僕はあなたがいい!」
桜花「アンタにはまだ未来がある。だから、きょうのことを次に活かして。そして、自分の力でその人生を100点満点にして」
SE 電車のベル
桜花「ほら乗って。私、もう行かないと」
飯成「……わかりました」
桜花「(ぼそっと)最後くらいは私の言いなりにならないでほしかったな」
飯成「え? 今、何て―」
SE 電車のドアが閉まる
桜花「ありがとう、飯成さん」
SE 電車の走行音
キャスト・スタッフコール
走行音がフェードアウト
おわり
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