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<登場人物>
飛崎進介(36) ひざきしんすけ
あの横浜の刑事コンビに憧れて刑事になった男。
巡査部長。警視庁東永福署捜査一係。

見留悟(35) みとめさとる
あの特命な刑事コンビに憧れて刑事になった男。
巡査部長。警視庁捜査一課。

〇東京・俯瞰

〇都内・環状七号線
方南町あたり。
多くの車が行き交っている。
歩道に止められた一台の車。
飛崎進介と見留悟が乗っている。

〇車の中
運転席に飛崎、助手席に見留。

見留「あなた、どっち派なんですか?」
飛崎「は?」
見留「ダンディーとセクシー」
飛崎「決めらんないよ。どっちかなんて」
見留「ずるいですね、そういう答え方」
飛崎「そういうアンタは何代目が好きなんだよ?」
見留「え?」
飛崎「あの天才警部のパートナー」
見留「それは……」

会話に重なる様にふたりのナレーションが流れる。

飛崎N「昔からドラマみたいなことはほぼ起こらない」
見留N「だが事実は小説よりも奇なりともいう」
飛崎N「数多幾千ある刑事ドラマはフィクション。銃撃戦やカーアクション、テレビに向かってツッコむ非番」
見留N「だけどワクワクしてしまうのは何故だろう」
飛崎N「もしもホントに起こったら」
見留N「年がら年中ニュースの嵐」
飛崎N「実際のデカは不眠不休で頑張り続ける公務員」
見留N「だからこそ市民の平和と安全を守ってる」
飛崎N「出来れば事件は起きないで、ずっと平和であってほしい。だけどひとつ言わせてほしい」
見留N「僕たちは刑事ドラマに憧れて刑事になったということを」

〇タイトル
『そんな刑事(デカ)に憧れて』

〇もとの車内
会話のつづき。

飛崎「こっちだと港が付くのは港区しかないから、そのあたりの署を希望したら―」
見留「なぜか東永福署に異動と」
飛崎「ま、杉並は住みやすいから気に入ってるけど」
見留「実際関西に港署があるんですよ?しかも2か所」
飛崎「え?ホントに?」
見留「そちらを受けていればもっとリアリティがあったのに
飛崎「いやいや、そこは生まれも育ちも東京だから」
見留「ネームバリューですか」
飛崎「(ボソッと)いや、親孝行」
見留「意外と堅実なんですね」
飛崎「お袋が施設に入院してるから。何かあったときに近くにいたほうがいいかなと思って」
見留「なるほど」
飛崎「そういうアンタこそ本庁の捜査一課ならもっと大きな案件を担当してるはずじゃあ」
見留「……実は庁内でいろいろありまして」
飛崎「え、どんなこと?」
見留「それは……ここではコンプライアンス的にちょっと」
飛崎「ああもう!」

見留、飛崎にひそひそ話。

飛崎「ええっ?」
見留「勇気を出してかの警部のように正義を貫いたら」
飛崎「こっちの担当に回されたと」
見留「僕には大きな後ろ盾いませんから」
飛崎「ドンマイ」

と、無線連絡が入る。

無線の声「連続強盗犯の乗ったバイクは環七を代田橋方面へ逃走中」

飛崎、窓の外に目をやる。
中央分離帯を隔てた反対車線を猛スピードで大型バイクが走っていく。

飛崎「よっしゃあ!」

と、ギアをRレンジへ。

飛崎「いっちょやりますか!」

と、見留が素早くDレンジに戻す。
気づかず思いっきりアクセルを踏む飛崎、車体が前進したことに驚いて急ブレーキ。

飛崎「あっぶねえだろ!!」
見留「あぶないのはそっちの管轄でしょ」
飛崎「いやいや相勤、なぜギアを戻した?!」
見留「公道の逆走はいけませんから」
飛崎「この緊急事態にそんなことしてるヒマはないんだよ!」

飛崎がギアを掴もうとする。
が、見留は制止する。

見留「通行人のスマホ、後続車のドライブレコーダー、この車両の逆走がバッチリ録画されたのち動画サイトなどにアップされて、明日の全国ニュースのトップを飾りますよ?」
飛崎「ぐううううう!」

スーツの懐からサングラスを出して着用する飛崎。

飛崎「こうなりゃ別ルートだ!!」

〇急発進する車
サイレンを鳴らす。

〇車内
サイレンを鳴らしながら運転している飛崎、サングラスをしている。
見留、飛崎をジロジロ見ている。

見留「それが素なんですか?」
飛崎「は?」
見留「署内じゃとても大人しかったから」
飛崎「まさか。俺はダンディとセクシーを合わせ持った破天荒なデカとして署内じゃ―」
見留「無遅刻無欠勤、始末書もゼロ。おまけに表彰状の授与も数回あり」
飛崎「イメージとかけ離れるからやめて!」
見留「そんなあなたがどうしてこんなマネを?」
飛崎「仕事とドラマはぜんぜん違う、そんなことはガキの頃からわかってる。だけど、外にいるときしか憧れの存在に成りきれないんだ!だからこういうときだけはせめてあのふたりに成りきらせてほしい!」
見留「飛崎さん」
飛崎「トメ」
見留「それ、母方のおばあちゃんの名前を呼び捨てされてるみたいなんでやめてもらえます?」
飛崎「(早口で)……見留トメ」
見留「飛崎さん!」
飛崎「こりゃ失礼」
見留「ところで、それ市販のサングラスですか?」
飛崎「まあね」
見留「ずいぶん安っぽいですけど」
飛崎「雑貨屋で買ったの!悪い?!雰囲気だよ、雰囲気。カタチが似てりゃなんだっていいんだよ」
見留「ファンならブランドまで調べないと」
飛崎「そこまでこだわらない主義なの!」
見留「実は僕のメガネ、ドラマで使われてるフレームと同じモデルなんですよ」
飛崎「マジか?!」
見留「やっぱり俳優さんが着用しているものは値が張ります」
飛崎「俺にはモノの価値がわかんないや」

見留がカバンからサングラスを出す。

飛崎「なんだよ」
見留「かけてみてください」
飛崎「運転中!それにこれじゃないとモードに入れない」

見留が強引にサングラスをかけ替える。

飛崎「なにすんだ……って、あれ?見やすい」
見留「一般のサングラスは透明レンズに色を染めてるものなんです。なので、こういう雲ひとつなく晴れたときは偏光レンズの入ったサングラスのほうが目に優しくていいですよ?なにしろアスファルトから反射してくる太陽光のギラつきを」
飛崎「ここはショップかい!」
見留「学生時代、メガネ屋で販売員やってたもので」
飛崎「うそぉ?」
見留「話が途中でしたね、なので偏光サングラスは―」

飛崎の運転する横で知識を披露する見留。

〇激走するバイク
車線変更を繰り返しながら、車の間をくぐり抜けていく。

〇追いかける車
が、工事現場に遭遇してしまう。

飛崎「ちきしょう!!」
見留「…………」
飛崎「ああもう、どうすれば」
見留「代わってください」
飛崎「え?」

見留が飛崎をグイっと掴む。

飛崎「え、トメさん意外と力強っ!」

見留がハンドルを握る。

飛崎「さぞかし安全運転で―」

急ハンドルで一定しない見留の運転。
むしろ飛崎よりも危険だ。

見留「あんぜんデカはマネしないように」
飛崎「アンタがいちばんコンプライアンス気にしてたんじゃないの?」

〇廃工場
バイクが止まる。
降りて一息つく、犯人。

遠くのほうからエンジン音。

犯人「!!」

ふたりの乗った車が到着する。

運転席から見留が颯爽と出て来る。
一方の飛崎は今にも吐きそう。

飛崎「アンタ、それでよく免許取れたな」
見留「ペーパーは得意でしたから」
飛崎「学力より技術だろ、運転は」

犯人は驚きを隠せない。

見留「昔、このあたりでピザの宅配をしていたもので。地理には詳しいんです」
飛崎「何回転職してんだよ、アンタ」
見留「いずれも学生時代のバイトです」

犯人「…………」

犯人が逃げようとする。
が、行き止まり。

飛崎、スーツの内部ポケットの何かを見せる。
拳銃のグリップ部分がチラリ。

飛崎「これが見えるか?」
見留「まさかそれは!」
飛崎「トメさんは黙ってろ」
見留「その言い方だけはやめてください」

今まさに拳銃のグリップを持とうとする飛崎。
見留が説得する。

見留「大問題ですよ?そういうのはちゃんと上の許可がないと」
飛崎「かまわない」
見留「一発撃つごとに始末書が増えますよ?」
飛崎「…………」
見留「本当にいいんですか?」
飛崎「刑事になったときから決めてた」
見留「え?」
飛崎「一発は撃つと」
見留「飛崎さん!」
飛崎「俺は本気だ」

飛崎の顔は険しい。
物怖じした犯人が崩れ落ちる。
見留が駆け寄って取り押さえる。

見留「確保」

応援の警察車両が現場にやってくる。
サッとスーツのボタンを戻す飛崎、ビシッとした真面目な態度で出迎える。
連行されていく犯人。
現場には飛崎と見留だけ。

見留「飛崎さん、撃たなかったとはいえさっきのあれはさすがに―」

飛崎がスーツのポケットのものを見留に渡す。

見留「え?これは……」

モデルガンだ。
しかもグリップ部分だけの作りかけ。

飛崎「非番の日の趣味でね。きのう、お袋の看病しながら作ってたのを思い出して」
見留「スーツのポケットに入れておいたんですか?」
飛崎「係長から呼出ですっかり忘れてそのまんま」
見留「…………」
飛崎「このことは上には内緒ってことで」
見留「でも犯人に見られてますよ」
飛崎「じゃあ初の始末書かな?」

飛崎、運転席に戻る。
見留も助手席へ。

見留「ひとつ教えてください」
飛崎「ん?」
見留「もし本当にあなたが拳銃を所持してたら撃ったんですか?」
飛崎「もちろん。最初の一発だけ」
見留「つまり空砲、ですか」

飛崎がニヤリ。
見留、ホッとする。

エンジンをかけた飛崎がふと我に返って、

飛崎「あ、やばい。吐きそう」
見留「ああ!!ちょっと!!」

〇ファミレス(夜)
飛崎と見留がやってくる。
メニューを見ながら、

見留「僕はコーヒーで」
飛崎「あら、紅茶じゃないのか」
見留「実は苦手なもので」
飛崎「憧れてもぜんぶがぜんぶ合わせられるワケじゃない、か」
見留「飛崎さんは何食べますか?」
飛崎「もちろん、ベーコンにハムとスクランブルエッグで」

<つづく>

このシナリオはフィクションです。

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