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〇雨降る東京(夜)
傘も差さずに立つ見留。
彼の前から去っていく女性。
見留はうつむいたままで―

BGM 鈴木雅之「さよならいとしのBaby Blues」

〇オープニングナレーション
見留N「心変わりは誰の身にも訪れる」
飛崎N「仕事に恋に生き方に、どんなに芯があってもふとした瞬間揺らぐもの」
見留N「”だからヒトだ”と誰かが言う」
飛崎N「肝心な相勤が変わる刑事ドラマがあれば」
見留N「メインキャストが誰一人変わらない刑事ドラマもある」
飛崎N「前回は危うく降板しかけた俺」
見留N「あれは作者の心変わりだったのか」
飛崎N「それならば降板よりも交番のほうが望ましい」
見留N「いずれにせよたとえドラマのように十数年も同じ職場にいられなくても、作者の気が変わろうとも、この気持ちだけは決して揺らがない」
飛崎N「俺たちが刑事ドラマに憧れて刑事になったということを」

〇東永福署・取調室
被疑者の男がうつむき腰掛けている。
机の反対側には飛崎進介(36)。
傍らには相勤の刑事(見留ではない)。

T「被疑者は39歳。大手企業勤務。別れた彼女が住む家への不法侵入した疑いで通りがかりの捜査員が任意同行。だが容疑を否認し、いまだ完全黙秘」

室内は重苦しい雰囲気。

飛崎が被疑者の経歴が載った書類に目を通す。

見留の声「口、割らないんですか」
飛崎の声「いったいどこのメーカーのファスナー使ってんだろうな?」

〇居酒屋(夜)
騒がしい店内。

見留悟(35)が電子たばこを吸っている。
飛崎は煙の行方を気にしている。

見留「これ、あまり煙出ませんけど?」
飛崎「次の健康診断までちゃんと生活習慣を整えとかないと」
見留「いつもの危なっかしいあなたはどこへ行ったんですか?」
飛崎「今はプライベートだし」
見留「まったく調子が良いんだから」
飛崎「C調野郎にご用心ってか」
見留「もう死語ですよ、それ」
飛崎「とにかく状況証拠だけじゃ捕まえられないんだ。何か決め手になるようなものがないと。吐かないならこないだの病院から下剤(※case2参照)でも持ってくるか」
見留「飛崎さん……あの後、僕が何回トイレの世話になったか知ってます?」
飛崎「悪い悪い。ま、庁内の刑事が腸内の汚れをキレイにしたんだから検挙率も上がるって」
見留「それにしてもいけませんね、担当外の僕に事件内容を明かすなんて。あんぜんデカもいよいよ初の始末書ですか」
飛崎「カタいこと言うなよ、同じ秘密を分け合った仲だろ?」
見留「刑事に憧れて刑事になる人は僕たち以外にも大勢います」
飛崎「でもそれ、みんなの前で胸張って言えるか?刑事って仕事の現実を知って、言えんのか?え?」
見留「…………」

飛崎、ニヤリ。

飛崎「だからこうしてトメ先生にお願いしてるんじゃないの」
見留「トメ先生って、千葉の母方のおばあちゃんも昔教師だったからなんか複雑だなぁ」
飛崎「(ボソッと)見留トメ」
見留「飛崎さん!」
飛崎「ごめん、先生。見留トメって早口言葉みたいでマイブームなの」
見留「で、どうして僕が適任なんですか?」
飛崎「それはだな……」

飛崎が遠くを指差す。
少し離れた席にいる若い女性客たち。

〇フラッシュ(数分前の出来事)
トイレから戻る途中の見留。
と、立ち上がった酔っている若い女性客の足下がふらつく。
まるで予期していたかのように見留がさりげなく彼女をフォローし支える。
大人しい見留が一瞬見せるキレの良さ。
飛崎の目がキリっとなる。

見留の声「そんなことありませんよ」

〇もとの居酒屋(夜)
飛崎「いや、あれはありとあらゆる経験をしてきた男の振る舞いだ」
見留「買い被り過ぎです」
飛崎「俺が何年刑事やってると思ってんだ?」
見留「…………」
飛崎「素直に吐けよ」
見留「ここは取調室ではありません」
飛崎「何人の女を泣かせた?言わなきゃもっと飲ませて酔わせるぞ」
見留「そういうのをアルハラと言うんです」
飛崎「アルハラ?」
見留「アルコールハラスメントの略です」
飛崎「ったく。じゃあ、あの姉ちゃんたちのグループに混ざろうかな」
見留「それはセクハラです」
飛崎「なんでもかんでもハラにされちゃ、こっちもハラハラするだろ!さじ加減でどうにかならねえのかよ」
見留「なりません」

〇タイトル
『そんな刑事(デカ)に憧れて』

<キャスト>※dekapedia参照
飛崎進介 ひざきしんすけ 36歳
警視庁東永福署捜査一係。巡査部長。
横浜の危なっかしいハードボイルドな刑事コンビに憧れて刑事になった。
が、内面はまるで真面目そのもの。
仕事は無遅刻無欠勤、始末書ゼロ。
おまけに表彰状の授与も数回。
非番は施設にいる母親へ孝行する。
健康主義で、酒もたばこもしない。
モデルガンづくりが趣味。
同じ志望動機を持つ見留とコンビを組む時だけ、憧れの刑事っぽく振る舞いたがる。
前回は大腸検査直後に犯人を追跡したため、治療場所から出血して危うく殉職しかけた。
飛崎本人は「作者の陰謀か?」と疑っている。

見留悟 みとめさとる 35歳
警視庁捜査一課。巡査部長。
警視庁のあの特命な刑事コンビに憧れて刑事になった。
あの警部殿のように正義を貫いているが、そもそも周りの同僚に相手にされていない。
通称「トメ」。
ただしこの呼び方をされると、千葉に住む母方の祖母を呼び捨てされているようで不快になる。
腹黒い一面があり、実は相勤を交代して新シリーズの主役を狙っている(?)

〇取調室
やって来る飛崎と見留。
被疑者に向かって何か言うのかと思いきや、

飛崎「なあトメ、非番の日はどうしてる」
見留「街コンや料理教室へ出かけます」
飛崎「うそ?!意外だな」
見留「ドラマのように仕事をしていて女性に出会うことなんてまず無いですから。非番の時くらい自分から行動しないと」
飛崎「でも仕事の呼び出しとかあるだろ」
見留「そのあたりは承知してます」
飛崎「いざって時に呼ばれたら勃ってたモンも萎えちゃうしな」
見留「おふざけはその辺にしましょうか。そういう飛崎さんはどうなんですか?」
飛崎「ま、気が向いたらそのうち」
見留「いけませんね。そういうのは一番」
飛崎「今はただタイミングがないだけ」
見留「やる前から出来ない理由ばかり並べる人はいつまで経っても変わりませんからね」
飛崎「わかってるよ」
見留「そして気づいたら時すでに遅しなんてよくあるケースですよ」
飛崎「そりゃあ彼女は欲しいよ?けど……夫婦をうまくやってく自信がないんだ。この仕事、時間は不規則だし同僚にも家庭のため刑事やめて内勤へ異動した人がいたからさ」
見留「仕事を選ぶか家族を選ぶか、ですか」
飛崎「それでも俺はこの仕事に誇りを持ってる。どんなに忙しくても階級が低くても手当が人並みでも、好きでこの仕事をやってるんだ」

被疑者の顔色が変わる。

飛崎「言い方は悪くなるが、こういう生き方に対応できる相手とじゃねえとやってけない気がする」
見留「それは大いにあります」
飛崎「でもここんとこ時代が変わって来たからなあ」
見留「仕事ばっかで私を見てくれない」
飛崎「え?」
見留「かつてそう言われました」

〇冒頭のシーン
雨降る東京。
ずぶ濡れの見留がうつむく。
傘を差した女性が去っていく。

〇もとの取調室
見留「僕なりに公私混同せず上手く時間をやりくりしていたつもりでした」
飛崎「…………」
見留「でも、彼女はそれに耐えられなかった。一方の僕も刑事を辞める気は全くなかった。どんなに大変でもこの仕事を誇りに思ってますから」
飛崎「……トメ」
見留「彼女だけじゃなく、僕から離れていった人はたくさんいました。でも追いかけても決して解決にはならない」
飛崎「俺なら追いかけちゃうけどな」

被疑者がハッとする。

見留「それは火に油を注ぐようなものです」
飛崎「でも伝えたいこといっぱいあるし―」
見留「そっとしておくことが大事なときだってあるんです」
飛崎「だけど!」
見留「受け入れることも大事なんです」
飛崎「時間が解決するとでも言うのかよ」

被疑者がうつむく。

見留「人の心は意図しないところで変わるんです。自分も相手も、気づかぬうちにゆっくりと、だけど確実に」
飛崎「……………」
見留「そして変わった心はもう戻らない」
飛崎「ぜったいじゃないだろ?」
見留「僕の経験では……」
飛崎「ウソだと言えよ」
見留「伺いますけど飛崎さん、そちらの方面は?」
飛崎「ここ15年はなんにも。女の子とは大学時代に学食でしゃべったくらい。あとは仕事と親のことで手いっぱいさ」

被疑者が握り拳を作る。

見留「別れてみて、離れてみてわかることもたくさんあるんです。人は良いことも悪いことも経験して何かに気づき、受け入れて前を向くように出来てるんだと信じています」
飛崎「…………」

机をドンと叩く被疑者。
驚くふたり。
よく見ると被疑者は観念したのか、涙を流してうつむいている。
見合わせる飛崎と見留、サムズアップ。

〇居酒屋
見留がビールを飲んでいる。
飛崎はソフトドリンクの氷を転がしながら、

飛崎「被疑者も忙しすぎる仕事に誇りを持っていた。でもそれが理由で彼女に家を出て行かれた。苦渋の決断で、今より時間を作れる部署に異動して何とかよりを戻そうとした」
見留「だけどその彼女は別の男と既に新しい家庭を築いていた」
飛崎「諦めかけて帰ろうとしたら、たまたまそこに別件で通りがかった捜査員の目に捕まった」
見留「黙秘したのはせめてのもの抵抗。理由がわかれば大したことなかったですね」
飛崎「皮肉だよな、これからって時だったのに……」

見留がビールの泡を見つめる。

飛崎「それにしても名案だったな」
見留「いえいえ、それほどでも」
飛崎「トメって取り調べに向いてるんじゃないか?」
見留「新シリーズの構想が浮かんできました」
飛崎「やめろよ、俺ぜったい降板コースだろ」
見留「冗談です」
飛崎「ところであのとき言ってたことってホントなのか?」
見留「まさか。作り話ですよ」
飛崎「でもかなりリアルだったぞ」
見留「じゃあ、俳優の才能もあるかもしれません」
飛崎「女を落とすのも、被疑者を落とすのもお手の物ってか」
見留「ま、今回は被疑者と向き合ってませんけど」

しばしの静寂。

飛崎「……必ず次がある」
見留「え?」
飛崎「女性なんてこのビールの泡の数ほどいるさ」
見留「……飛崎さん」
飛崎「ま、浮いた話ひとつない俺のアドバイス聞いても役に立たないか」
見留「そんなこと、思ってませんよ」
飛崎「ちょっとトイレ」

飛崎、席を外す。
見留がビールを飲もうとして、

飛崎「トメ」
見留「はい?」
飛崎「飲み過ぎるなよ」
見留「わかりました」

トイレから戻って来る飛崎。
見留の顔が真っ赤になっている。
テーブルの上にはジョッキがたくさん。
飛崎、心配そうな顔。

見留「おかえりシンスケ~そろそろ帰るよ~」
飛崎「おいトメ、キャラ変わってる!それ本庁の警部殿じゃなくて代官署の刑事だから!」
見留「っとかい!っとかい!」
飛崎「貴族っぽい刑事になっちゃってるから!」
見留「もう涙はいらないよ~」

見留が走っていってしまう。

飛崎「走り方までマネしちゃって。憧れのキャラまで心変わりしちまったか、アイツ」

レジにお金を置き、追いかけていく飛崎で―

<つづく>

このシナリオはフィクションです。
人の心についての解釈はあくまで作者の個人的な見解ですので、あらかじめご了承ください。

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