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為太郎「えっと、これは――」

目の前であたふたする中年男。
新しい同僚であり、先輩である。

彼の名は”今市為太郎”。

“いまいちダメだろう”ではない。
そんな彼は勤続10年目の社員だ。
が、普通の社員とはワケが違う。

実は今でも研修中の身なのだ。

そんな彼と俺は仕事をすることになった。
今日が初めてのシフトだ。
その初っ端から彼はやらかした。

俺「あ、俺やりますよ」

すかさずフォローに回る。
何とか場は収まった。

為太郎「……ごめんね」

その後もいまいちダメだろうは場を凍らせていく。

接客するも自信がなく、声が小さい。
緊張からか商品を取り違える。
挙句の果てにお客さんから他の店員と変わってほしいと言われる始末。

これが10年目の研修社員の実績か。
名は体を表すとは言ったものだ。

接客を終えた為太郎さんの様子はかなり疲れ切っている。

俺はすぐさま駆け寄って、

俺「大丈夫ですか?」
為太郎「問題ないよ」
俺「ムリしないでください」
為太郎「無理してでもやらなきゃ」
俺「でも顔色が――」
為太郎「問題ないよ」
俺「俺がフォローしますって」
為太郎「問題ない!」
俺「…………」
為太郎「ごめん。ひとりで出来る」

正直、言葉と行動が合ってない。
どうしてウソを言うのか?
俺は不安になった。

為太郎さんに周囲は何も言わない。
というよりもう相手にされてない。
良い人たちがそうするくらいなのだからよっぽどのことだ。

上司に言われるうちが花。

それがこの社会での掟だ。

が、為太郎さんは何も言われない。
どんなにミスをしようとも。
それはつまり……その、、、

まあ、為太郎さんより先輩社員がいないというのもあるのだろうが……

為太郎「それでもやらないとね」

為太郎さんは店の隅で黙々と作業を続けている。

必死にメモを書いたり、
商品の名前を覚えたり、
やってることは新人そのもの。

孤立する彼を見て空しくなった。

年下の先輩社員に気を遣ったり、変な遠慮をする為太郎さんはこれまでの自分そのもの。

決して機嫌を取ろうとしてるわけじゃない。
出世のためにゴマを擦ってるわけでもない。
ただ自分のせいで周りに迷惑をかけたくないだけなのだ。

俺「まるで俺と同じじゃないか」

彼の出来ない仕事ぶりを見て安心したのか、俺は仕事がはかどるようになった。

皮肉にも、これまで失っていた自信を徐々に取り戻していく。

周囲の目がお荷物な為太郎さんのほうに向いている間、自分は救われるのだ。

俺は罪悪感にさいなまれながらも、為太郎さんが他店に異動されないようにそして会社を辞めないように願った。

<3日目につづく>

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