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おかげさまでコラムも19回目!
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〇スポーツジム・ウェイトエリア

ランニングマシンを走る老若男女。
その中に物書き・スダもいる。

スダN「今回、僕は知り合いの記者・益代さんの誘いでとあるジムへ向かうことになった」

(※N=ナレーション)

マシンのスピードがだんだん上がっていく。
汗を流し走りながら室内を見回すスダ。

スダ「益代さん、いったいどこに……ん?」

と、ある部分で目を留める。

〇同・スタジオ
レッスンの真っ只中。
フロア一面に激しいロックのビートが轟く。
生徒たちが皆、ストイックにバーベルを持ち上げている。
と、そのなかにひと際目立つ女性。
記者・宇加賀井益代(うかがいますよ)である。
険しい顔つきと引き締まった筋肉は見事。

〇もとのウェイトエリア
ランニングマシンの上、あっけにとられるスダ。

スダ「え?益代さん?ウソおぉ?!」

次の瞬間、スダの足が絡まって無様にベルトコンベアを転がっていく。

スダ「あ、ああぁぁぁぁぁ!!」

大きな物音とともに周囲の目がスダに向けられる。

〇同・スタジオ前
レッスン終わり。
益代がインストラクターや生徒たちと仲良く挨拶している。
スダがやってくる。

益代「遅いじゃない。てか、どうしたのそれ?!」

スダの足には無数の絆創膏が貼られている。

スダ「こないだ、家でちょっとぶつけて」
益代「にしてはついさっき感ハンパないけど?」
スダ「もうほっといてください。それにしてもスゴイ体型ですね」
益代「ちゃんと計画立てて鍛えてるから」
スダ「普段スーツ着られてるんでわからなかったです」
益代「能ある鷹は爪を隠すものよ」
スダ「そして隠したその爪を磨いてるんですね」
益代「いいねえ、その返し」
スダ「地元の先輩の口癖を借りました」
益代「アンタの持ちネタじゃないのかい」
スダ「すんません」
益代「さて、青年。いつものシナリオコラムだけど、今回はアタシが教える番ね」
スダ「物書き・スダが伺いますよ」
益代「それ、アタシの決めゼリフ!」

すべては自分を磨くため

スダ「そもそもなぜ僕をここに?」
益代「だってアンタもう31でしょ?そろそろガタが来る年齢だから心配で心配で」
スダ「まだまだガリガリだし、問題なくやれてます」
益代「ところが数年すればメタボなオジサンにウェイクアップしてメイクアップ」
スダ「(信じず)そんなまさか」
益代「何もしなければね。アンタはまだその状況になってないからそう言えるのよ。もっと危機感を持ちなさい」
スダ「危機感って言われても……」
益代「わからない?」
スダ「はい」
益代「じゃあ、締切があと1時間なのにシナリオのネタが浮かんでこないとしたら」
スダ「何とかしなきゃって思います」
益代「それ!」
スダ「あ!」
益代「なにごとも早いうちから地道にしっかりやっておくのがいいのよ」
スダ「なるほど」
益代「じゃあカンタンなテストしてあげる」
スダ「お願いします」

<クエスチョン>
やらなきゃいけないと思ってる物事がある。
でも忙しかったりでなかなか難しい。
そんなとき、あなたはどうするか?

スダ「そうですね……う~ん」
益代「この問いのポイントは答え方にある」
スダ「答え方?」
益代「やらなきゃいけないと思ってるのに、できない理由が無意識に浮かんで来たら危機感は少ないわ」
スダ「なるほど」
益代「たとえば筋トレならわざわざジムへ来なくても、本やネットで調べながら自分の部屋でも出来るよね」
スダ「確かに」
益代「つまり、人は何かをやろうと思ったらほとんどはいつどこでだってできるワケ。まずは行動あるのみよ」
スダ「勉強になります」
益代「すべては自分磨きのため」
スダ「自分磨き……ですか。(ボソッと)それにしても今日の益代さん、ヘンにイキイキしてるなぁ」

〇同・ウェイトエリア
スダと益代、腹筋マシンでトレーニングしながら、

益代「数年前、会社の意向で人間ドックを受けることになったの。検査前の約1週間は食生活とか気を遣ってたのね。で、検査前日お風呂に入ろうと思って鏡を見たらビックリ」
スダ「どうしたんですか?!」
益代「お腹周りがたるんでて、おまけに肌もあの頃のようなハリがなくなってたの」
スダ「……怖いですね」
益代「いつも仕事ばかりで自分のことを意識するヒマなんてぜんぜんなかったから。皮肉なものね、自分がいざそういう立場にならないとやろうって思わないのよ」
スダ「確かに」
益代「それからは時間を見つけてトレーニングするようにしたってワケ」
スダ「そうだったんですか」
益代「そこで気づいたの。自分を磨くことはとてもたいせつなんだと。心と体を磨けば、それらに周囲も気づいて自然に変わっていくんだと」
スダ「(驚いて)周りが変わるんですか?」
益代「自分の身勝手なわがままでは決して周りを変えることはできない。だけど自分をしっかり磨いていけば周りは理解してくれるのよ」
スダ「へえ!!」
益代「アンタの場合、男らしさをしっかり磨いていけば女性たちから一目置かれるようになるかもよ?」
スダ「え?!例えばどんな?」
益代「そうね、まずはストイックに腹筋を引き締めることね。そうすれば心身ともに自信と余裕が出てきて……」

続きは益代がスダの耳元でヒソヒソ。

スダ「え?!ホントですか!」
益代「あとはね……」

再びヒソヒソ話。

スダ「えええええ!!」

と、スダの目がキリっとなる。

スダ「頑張ります!!」
益代「考えてみなさい。アンタがもし女性だとして、猫背でメタボなオッサンに近づきたいって思う?」
スダ「いや、全然」
益代「そういうことよ」
スダ「つまり客観視しろ、と」
益代「さすが物書き。飲み込みが早い」
スダ「自分の姿を見たとき相手はどう思うのか、そのためには自分はどんな姿であればいいかを考える。そういうことですね」
益代「イエス。となれば、まずなにをすればいいか自然と自分で考えて動くようになるでしょ?」
スダ「ありがとうございます!!」
益代「もちろん個人差はあるけど、自分を磨くことはたいせつよ」

ヒトは自分の意志で動くときが一番強い

益代「たいせつなのは自分の意志で動くってこと。そういうとき人は一番の強さを発揮する。抱えている問題を追求しようとしたり、解決しようとしたりするために調べたり現場に行ったりするはず。アンタもシナリオ書いたり、宣材写真撮ったりしたでしょ」
スダ「はい」
益代「じゃあなんでそうしたの?」
スダ「何でって……作家としてしっかり仕事をするためです」
益代「だれかにそうしろって言われた?」
スダ「いいえ」
益代「そこよ。どうすればいいか自分で考えて行動できていれば何の問題もないわ」
スダ「ありがとうございます」
益代「でもひとつ気をつけてほしいのは、自分に合ったやり方でやるってこと」
スダ「自分に合った?」
益代「人にはそれぞれ体質や性格があるの。周りと同じようにやろうとしても難しいし、ペースが違って当たり前。だからこそ、自分に合ったやり方を探してやっていけば挫折することは少なくなるでしょ?」
スダ「確かに」

益代が重いダンベルを片手で余裕そうに持ち上げながら、

益代「たとえばこの筋トレ、大変そうなイメージがあるでしょ」
スダ「…………」
益代「図星ね。でもそれはアンタが浮かべた勝手な空想。まずはわずかな一歩でも始めてみればいいの。なんならいちばん軽いダンベルを正しいフォームで3回持ち上げるだけだって筋トレになる。アンタがシナリオを書き始めた時もそうだったでしょ?」
スダ「スクールの課題で原稿を毎週10枚書いてました」
益代「それとまったく同じことよ」
スダ「(ハッとして)言われてみれば。少しずつ長編も書けるようになりました」
益代「いきなり本格的なトレーニングをしようと思うから尻込みしちゃうの。まずは出来るところから地道に始めて、慣れてきたら徐々に本格的なほうにチャレンジすればいいじゃん」
スダ「恐れ入ります」
益代「頭の中に浮かぶ勝手なイメージにとらわれることなく、物事の本質を見抜くこと。作家のアンタならわかるでしょ?」
スダ「はい!」
益代「じゃあ、筋トレもシナリオもある程度カタチにできました。そしたらそれで終わりでいい?」
スダ「いえ、そんなことはありません」
益代「ってことはつまり?」
スダ「しっかり続けていくってことですね」
益代「ピンポン」

コツコツ継続していくことが大切

益代「人は何かを始めたらすぐに結果を求めたがる生き物なの。だから結果が出たらそれでゴールだと思いがちだし、逆に何の成果も出なければ燃え尽きてあきらめてしまう。でも結果は出すものじゃなく、コツコツ続けていって自分の身に引き寄せるものだと思うのね」
スダ「確かに!!」
益代「筋トレもそうよ、やればすぐに膨らむと思ってるけどそれは間違い。筋肉ってのは鍛えたらゆっくり休ませて、さらに栄養をしっかり摂って少しずつ大きくさせていくものなの。いかにそれらのことを地道に続けていけるかが大事よ」

スダ「シナリオも筋トレも同じなんですね。作家も下積み時代に経験したことはムダなことなど何ひとつないってことですもんね。もしパッとやったものが成功しても、どうしてうまくいったのか理解できていなければダメになってしまいますから」
益代「だからこそ、地道に続けていくこと。ただ注意してほしいのは自分から楽しんで続けることね。自分の意志で続けている場合はどこを改善すればうまくいくか必ず考えるものよ。でも人から言われて仕方なく続けている場合はそんなことまったく考えないから」
スダ「よくわかります。奥が深いなぁ」
益代「ちなみにアンタは普段どうしてるの?」
スダ「映画を観たり、本を読んだり、外へ出かけたり、いろんな人と話したりして印象に残ったことをノートに書き留めてます。新しいものを書こうとするとき、五感で経験したことがうまい具合に活きて合わさって混ざって物語が出来ていくんです」

・筋トレの場合・
筋肉はいじめて休ませて栄養を与えて大きくするもの。
狙った部位に筋肉がつかないのはフォームが乱れていることが考えられる。
こういうときは回数よりも正確さが大事になる。

・シナリオの場合・
なかなか書けないときはネタのストックが枯渇しているか、内容がまとまっていないことが考えられる。
こういうときは本や映画を観たり、出かけたりして外部から刺激を受けるかノートなどにあらかじめ内容をまとめておくほうが上手くいきやすい。

スダ「『作家は3か月書かなくなったら腕が相当鈍る』と恩師がおっしゃってました。これは今も肝に銘じている言葉です。当時20歳過ぎの青臭かった研修科作家時代の僕にはその意味がわかりませんでした。が、今ならわかります」
益代「ぜひとも教えてちょうだい」
スダ「作家が書き続けるのは文章を終わりなく磨き続けるため、そして読んでくれる人たちの感情を突き動かすためです」
益代「ほうほう」
スダ「それとこれは地元の先輩が教えてくれたことですが、仕事は年数ではなく取り組んだ密度で決まります」
益代「どんなに長く勤めててもどんなに長く活動してても、本気でやってる人には歯が立たないってことね
スダ「はい」

挫折しても、やり直せばいい

益代「話を戻すけど、たとえ一度挫折してもまた始めれば問題ないのよ」
スダ「どういうことですか?」
益代「筋肉にはマッスルメモリーってのがあってね、トレーニングを再開することで前に鍛えたところまで戻すのが可能なの」
スダ「努力して磨き積み上げてきたものは決して無くならないってことですか」
益代「そういうこと」
スダ「文章も同じですね。再び書き始めて続けていると、何となく感覚が戻ってきます」
益代「ほんとに素晴らしいよ、人間って」

スダがフロアを後にしようとして、

益代「待ちなさい」
スダ「はい?」
益代「まさかマシンだけやって帰るつもり?」
スダ「今日は体験見学ですから」
益代「甘い!!」
スダ「えええええええ?!」
益代「さっきの自分磨き頑張りますオーラはどうしたの?まったくこれだから平成生まれの子は」
スダ「一応、昭和生まれなんですけど」
益代「いいから来なさい」

益代がスダを引っ張っていく。

スダ「ちょっと、益代さん?」

〇同・スタジオ内
激しいビートに乗せてバーベルを持つ会員の生徒たち。
インストラクターの目の前、最前列で重りを乗せたバーベルでスクワットする益代。
隣ですでにヘトヘト状態のスダ。

益代「ハードなレッスン行くわよ!」
スダ「僕はまだ会員じゃないですって!」

スダの声が大音量のミュージックにかき消される。

益代「フォーム、しっかりね!!」
スダ「せめてヨガにしてくださーーーーーーーーーい!」

<つづく>

このシナリオはフィクションです。
が、自分磨きへの情熱はノンフィクションです。

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