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〇アパートの一室(夜)
暗い室内に人物が入ってきて、電気をつける。
パソコンを起動する。

記者・宇加賀井益代である。

声「こんばんは」

やがてディスプレイに映る男。
物書き・スダである。
以降、適宜ZOOM画面でやり取り。

益代「久しぶりね。元気にしてた?」
スダ「おかげさまで。こっちはこっちでいろいろありました」
益代「なかなかコラムできる様子じゃなかったもんね」
スダ「一歩一歩少しずつですが何とか前進してます。とても有意義な日々です」
益代「それはコラムがなくても問題ないってこと?」
スダ「そうですね」
益代「おい!」
スダ「冗談です。ずっとコラム連載したかったです」
益代「数えたら通算23回目みたいね、連ドラなら2クール」
スダ「『科捜研の女』のように4クール目指しましょう」
益代「ところで、ボイスドラマ第3弾の制作決定おめでとう」
スダ「大々的に告知して今すぐにでも収録したいのですが、今年は例の一件で周りの状況を見て進めないといけないので正直神経を使います。まさかこんな事態になるとは思わなかったので。こちらは運営者としての責任があるゆえ正しく恐れながら遂行していきます」
益代「たとえゆっくりでも地道に作り続けることが大事だからね」
スダ「まだ第3弾のリリース前ですが、すでに第4弾の物語の構想も出来ておりキャスティングも頭の中で決まってます。あとはこれからご本人に交渉するところですね」
益代「すごい。元気そうでホントよかった。さて! 念願のコラム、再び始めるわよ!」
スダ「今回は”物書きの生き方”についてです。」
益代「では、1年4か月ぶりに宇加賀井益代が伺いますよ」
スダ「もうそんなに空きましたか。前回はミガキさんのインタビューでしたね」
益代「時の流れは速いのよ。アタシも昨日まで学生だったのに気づいたらあっという間に―」
スダ「おばあちゃん」
益代「そこはフォローしろよ」

物書きの自分を雇うための仕事

スダ「まずはじめにこれは数年後まで温めておこうと思っていた内容です。それほどこれは核となるテーマであり、誰もが通る道でもあります」
益代「生き方……例えば経済面とか?」
スダ「さすが益代さん。脚本家や作家、響きこそ素敵ですがその実情はなかなか食えません」
益代「物書きは役者よりも食えないって昔先輩が言ってたなぁ」
スダ「売れっ子になるライターはほんの一握りです。コンクールで受賞しても、その後も第一線でいられるとは限りませんし、逆にそれらと全く無縁でもプロの方はいます」
益代「いろんな道があるのね」
スダ「ではプロの記者である益代さんに伺います。プロの定義って何でしょう?」
益代「それはズバリ、お金をもらって生活できている人のことよ」
スダ「はい。つまり会社に勤めているサラリーマンもプロということになります。ところが物書きは食えない仕事の代表格に挙げられてしまいます。それは正直時の運と人の縁に左右されやすいからだと思ったほうが良いでしょう」
益代「ずっと同じところで決まった仕事するわけじゃないもんね。工事現場とよく似てるわ」
スダ「そのためほとんどの人が下積み時代を経験することになります。では、プロになるまで物書きはどうすればいいのか? 私の敬愛する『物語の法則』という書籍にそのヒントが載っております」

益代「つまり物書きになるまでは別の仕事で生活をしろと」
スダ「そういうことになります。おすすめは夜間の警備員です。施設の中で巡回の時以外はデスクに向かってネタを考えて、文章を書けるからです」
益代「ただ一般的な世間の目からすると―」
スダ「ええ。社会的地位のことに関してはどうしても否めません。しかし大切なのは書く時間です。発信する時間をつくらなければ表に出ることも難しいのです」
益代「二足の草鞋を履くという価値観は今も昔も変わらないのね」
スダ「現代はだんだんと副業が認められる社会に変わりつつあります。それでも急にガラッと変わるわけでなくじわじわとなるものなので、もう少し時間がかかるでしょう」
益代「ここだけの話、この仕事してるとほかのことまで頭回らないわ」
スダ「そのためおすすめはなるべく頭を使わない仕事にしたほうが良いです。軽作業系もおすすめですね。人間は誰しも体力にも精神力にも限りがあります。24時間で考えられる容量も決まってます。もちろん、人それぞれなので断定することはできませんが」
益代「夢を追うのって大変よね。子どもの頃はあんなに輝いて見えたのに―」
スダ「なお夢追い人に長時間労働はおすすめしません。もし表の仕事が自分にとって好きなもの・興味のあるものであれば何ら問題ありませんが、書くために仕方なく長時間仕事をしているならば考え直した方が得策です。経験談として飲食店や広告会社系は向きません」
益代「そういえばいろんな仕事してるのよ、アンタ」
スダ「まだまだ人として未熟者ですが、しがらみは割とくぐり抜けてます」
益代「それでもこうして物書きを続けているんだもの」
スダ「この世で魅力的に見えるものはそれだけ払う代償も大きいのです」

人脈とチャンスは都内にあった

スダ「ところで益代さん、生まれは?」
益代「東北のほうよ」
スダ「では仕事で都内へ?」
益代「大学から。就職もこっちでするって決めてたから。地元もいいところなんだけど、こっちの魅力を知っちゃうとね」
スダ「物書きの方が住む場所は都内かすぐそこに行ける地がおすすめです。チャンスは都内のほうが大いにあります。なぜならテレビや映画そして舞台、それらが東京に集中しているからです」

益代「取材で地方に行くけど、映るテレビ局とか気になるもんね」
スダ「これまでボイスドラマに出演して頂いている役者さんたちも全員東京でお会いしているように、同じ方向を向くいろんな人たちで溢れてかえっております。しかし今回の感染症騒動が舞台で活躍する方たちをとても苦しめ、それに関連して観る者にもまるで罪悪感を覚えさせるような出来事が起きてしまい誠に悔しくて残念でなりません」
益代「一日も早く事態が落ち着くのを心から願うわ」
スダ「これは『ソース』という書籍からの引用ですが、もし夢を叶えたいのなら目指しているものの周辺をうろつくという法則があります。つまり夢を叶えやすい場所の近くに自分の身を置かなければいつまでもチャンスは巡ってこないということになるのです」

益代「たしかに人脈などは東京にいれば何とかなってる」
スダ「あと気にしてほしいのは自分が置かれている環境です」
益代「環境?」
スダ「周りの人を見渡してください。自分と近い価値観を持っていますか? そうでなければ早めに環境を変えることをおすすめします」
益代「どういうこと?」
スダ「”朱に交われば赤くなる”ということわざがあるように、人は周りの環境に左右されやすい生き物です。自分が目指す方向と違う人が近くに多いほど、そっちに心が引っ張られます。例えば自分は安定を捨てて夢を叶えたい! と思っているのに、周りが安定して家族を築いて平和に暮らしたい人ばかりだったら?」
益代「自分の考えは間違ってるんじゃないかと思ってしまうわね」
スダ「”多勢に無勢”とも言いますが、人は本当にいい加減な生き物です」
益代「『自由からの逃走』という本で著者のフロムが”ヒトは外部からの影響を強く受ける”って言ってたわ」
スダ「これまで一極集中と言われてきた日本ですが、その定義が今回のコロナで覆る可能性も十分にあり得ます」
益代「こうやってネット環境さえしっかりしてればどこでも会話できるもんね。今やSNSで人脈もカンタンに作れちゃうし」
スダ「人と人が直接会うことで成立していたものが、間接的でも可能になった。それをどう捉えるか」
益代「たしかに」
スダ「ZOOMといったリモートワークが中心になりつつあること、YouTubeの台頭でテレビ離れが進んでいることを考えるとこれから住む場所や置かれている環境は関係なくなってくることが予測できます。当たり前が変わってしまうということは、同時に新しい何かが生まれるというわけですから」
益代「でもすぐガラッとは変わらないと思うけど」
スダ「現時点では都内のほうが刺激は多く、時給も高く、仕事の種類も豊富です。しかしAIの出現で人がやっていた仕事が少なくなるとまた事態が変わるかもしれません」
益代「アタシ、仕事続けられるかしら?」
スダ「安心してください。焦らず臨機応変に状況を見て動けばいいだけのことです」

シナリオライターと健康

スダ「言わずもがな物書きは頭と目と足を使う仕事です」
益代「そういえばアンタ、いろいろ全国飛び回ってたわね」
スダ「去年は大阪・福井・石川にシナリオハンティングしました」
益代「こんなことになる前に行っといてよかったね」
スダ「はい。昔から運は良いほうなので」
益代「でもあちこち行って疲れなかった?」
スダ「帰りの新幹線の中で爆睡してました」
益代「やっぱり」
スダ「人は生きているうちに失われていくものがあります。それは若さです。10代20代のころは平気で乗り切れていたことも、30を過ぎるとだんだん難しさを覚えてきます」
益代「男性は8の倍数、女性は7の倍数で体質が変わるっていうよね」
スダ「なので、健康には人一倍気を遣ってください」
益代「7の倍数かぁ、アタシもそろそろ大台だしなぁ」
スダ「ぜひとも曲がり角にはご注意を」
益代「余計なお世話だよ! いっそコンプライアンス違反で打ち切りにしてやろうか?!」
スダ「僕は昨年から今年の明けにかけて、目と髪と歯にガタが来ました。パソコン画面の見すぎでドライアイになり、連日の不摂生で髪は薄くなり、おまけに虫歯にもなりました。年齢を重ねるとともにかつての若さは失われていくという恐怖に襲われて大変でした」
益代「マジで? え、今は?」
スダ「何とか専門のところでそれぞれ治療して、少しずつ調子を戻している途中です」
益代「そういうときに初めて健康のありがたみがわかるってもんよ」
スダ「変化は毎日鏡で自分の姿を見ていてもわからないんです。例えば昨日100キロあったのが今日50キロになれば気がつきますが、本来変化とはじわじわやってくるものなので」
益代「だから久しぶりに会った人は変化に気づきやすいのね」
スダ「そういうことです」
益代「肝心の対策法は?」
スダ「とても基本的なことです。適度に体を動かして、バランスよく食べて、早寝早起きすればいいんです。なるべくストレスがかからない生き方を手探りで見つけるのも大切です」
益代「でも大人になるとなぜか不規則になっちゃうのよね」
スダ「僕は子供のころから夜更かししていて、早く寝るとなんだか生きている時間を損しているようで嫌だったんです。おまけにテレビが昼より深夜のほうがおもしろかったこともあって。ところが今回の悲劇を受けて、これまでの生活習慣を改めることにしました」
益代「そういえば今までは遅くまで連絡来てたのに、最近全然来ないと思ったわ」
スダ「早寝早起きすると、疲れが残りにくくなるので執筆もはかどります。さらにだらだらやるよりも時間を決めてスパッとやったほうがスムーズにいきます。目は目薬や温熱シート、髪は正しいヘアケアといったように気を遣うようになりました」
益代「会ったころよりアンタ顔色良さげだし、ふっくらしたかも」
スダ「昔からの立派な教えやアドバイスって本来人間がラクしたがるサボりがちな生き物だからこそあるんじゃないかと思うんです」
益代「そっか、もし人間みんなしっかりしていたらそんなの必要ないもんね」
スダ「大切なのは自分の人生に責任を持つ。自分の生き方を自分でコントロールしていくということです」
益代「自分の人生、、、か」
スダ「それが次のテーマ”やりたいことと出来ることは違う”に関係していくことになります」
益代「それってどういう意味?」
スダ「つまりですね―」

と、益代のスマホが鳴る。

益代「ごめん。課長からだわ」
スダ「では、この続きは益代さんの電話が終わってからということで」

中編(note)につづく>

参考文献
『物語の法則』
著:クリストファー・ボグラー&デイビッド・マッケナ

『ソース』
著:マイク・マクマナス

『自由からの逃走』
著:エーリッヒ・フロム

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