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さくら「とか言ってるけど私もね、いろいろあったのよ」
成 川「え?」
さくら「まるでサクラみたいな人生を送ってきたから」
成 川「それっていったい、どういう―」
さくら「こないだまで好きな人がいたの。でも彼、転職しちゃってもう逢えなくなっちゃった」
成 川「連絡先は?」
さくら「ううん」
成 川「好きだったらそれくらい聞かないと」
さくら「好きだからできないこともあるの。それに―」
成 川「それに?」
さくら「私の親友と結婚しちゃった。その子、ご丁寧にSNSへ写真なんか載せて。私には非公開にしてたんだけど、事情を知らない共通の友達がシェアしちゃって丸見え。ビックリしちゃった。それにしても彼女、幸せそうな顔してたなあ。ここへ来るちょっと前のことよ」
成 川「そんな……」
さくら「何度か親友連れて彼に会ったけど、まさか知らない間にふたりが付き合ってたなんて。子どもの頃からずっとそうだった。私が好きになった人は私のいちばん仲のいい子と一緒になる。私は春に咲く満開の桜で、それを眺めるふたりの幸せをただ見ているだけ。どうやら誰かと誰かをくっつける星回りみたい」
成 川「…………」
さくら「皮肉よね、その才能が開花しちゃってサクラをしてるんだから」
成 川「つらくないのか?」
さくら「…………」
成 川「そんなことがあったら、俺はとても平気じゃいられない」
さくら「いつものことよ。いちいち落ち込んでるヒマなんて、ない」

さくらM「つらかった。その言葉が喉元まで出かかっていた。けど、『リュウ』には言わなかった。コンパのサクラとしてこれ以上、暗い話で会場の空気を壊すわけにはいかなかったから。実はSNSに投稿された写真はもう1枚あった。画面をスライドすると薬指に指輪をした奈美の左手が現れた。その手は、お腹の上にあった。新しい命を宿した、少しだけ膨らんだ彼女のお腹の上に―」

さくら「だからお願い、女がみんな底意地悪いどうしようもない生き物だなんて思わないで。世の中には私みたいな、みじめな女だっているんだから」
成 川「……すまなかった。さっきはあんな失礼なこと言って。俺、結局自分のことしか考えてなかった。その、なんて謝ったらいいのか」
さくら「いえ、いいんです」
成 川「あなたみたいな女性は、初めてだ」
さくら「え?」
成 川「本音を包み隠さず、俺を叱ってくれた。なあ、『しの』さん。今度は素直にあなたと話がしたい。変な探り合いとか無しにして」
さくら「リュウさん」
成 川「あなたがどんな人なのか深く知りたい。だから……だから……」

司会者「(マイクの音声で)お時間になりました。男性のみなさま、席のご移動をお願いします」

成 川「そんな……」
さくら「大丈夫。まだフリータイムが残ってますから」
成 川「じゃあ、その時またここに座ります」
さくら「……はい」

さくらM「思えばここまで本音をぶつけられる男性は初めてだった。もちろん、私に対して本気で感情をぶつけてきた男性も。今度は彼といったいどんな話ができるだろう。そして向かいの男性と連絡先を交換しないという、3つのルールの最後のひとつの行方は果たして。そんなことを考えながら私は『リュウ』が戻ってくるのを待つことにした」

成 川「あ、ところであなたの名前は?」
さくら「え?」
成 川「俺は成川。成川隆一」
さくら「私は……さくら」
成 川「いや、そういう意味で聞いたんじゃなくて―」
さくら「緒忍さくら……です」

<おわり>

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