ことのはbox第12回公演「彗星はいつも一人」観劇
2019年12月13日(金曜)
東京は三鷹、武蔵野芸能劇場にて。
ことのはbox第12公演
「彗星はいつも一人」観劇
脚本:成井豊(演劇集団キャラメルボックス)
演出:山崎亨太(劇団TIRNANOG)
<キャスト>
原 弘
廣瀬響乃
大河日氣
木村望子
篠田美沙子(ことのはbox)
加藤大騎(株式会社GFA)
佐藤ケンタ(ことのはbox)
田中菜々
星藍徳仁
西村尚恭(wordleafproject)
新井利津子
光希
岡崎良彦(ことのはbox)
脚本はあのキャラメルボックスの成井さん。
以前『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』で大泣きした記憶がある。
演出は第9回公演「見よ、飛行機の高く飛べるを」で威圧感に満ちた校長先生を演じた山崎さん。
あの存在感あふれる風貌とは裏腹に、内容はとても軽快で疾走感あふれる演出に驚いた。
ところどころ小ネタや時事ネタも入れてきて、不覚にもクスッと笑ってしまった。
物語は幕末の武士・北条雷太、遠山陣八・大岡騎一郎の3名が海の上で竜巻に巻き込まれて不老不死になったところから始まる。
普通では死んでしまうほどの大ケガもなぜかすぐに治ってしまい、それを現地の人に見られた以上は長居できないため日本各地を転々とする羽目になり現代まで生きている。
ジョジョ第2部で究極生命体として不死身になったことに大満足していたカーズとはえらい違いである。
やがて下関で暮らすおばあさん・ナオのもとに、孫娘のヒカリから手紙が届く。
ヒカリの幼なじみ・しずえがその手紙を読んで物語は進行していく。
ヒカリの身に起きた不思議な出来事が語られ、やがてナオが若い頃に経験した過去の思い出へとつながっていく。
終演後、酒井しずえ役の篠田美沙子さんと再会。
(撮影協力:佐藤ケンタさん)
お会いするのは前回公演の「歌姫」以来、3ヶ月ぶり。
明治末期の女学生から高知の上品なお嬢様と続き、今回は下関在住の陽気な娘さん。
関西弁から土佐弁ときて、今度は下関弁か!と期待したのはきっと僕だけじゃないはず(笑)
だが今回は標準語のため、篠田さんの方言シリーズはお休みでっせ( ゚Д゚)
これまで篠田さんに持っていたイメージは演じられた役のこともあり、しなやかで落ち着いていてどこか陰を感じさせる不思議な雰囲気だった。
しかし今回は一転語り部としてほぼ全編に登場し、場を盛り上げてくれる水先案内人という重要なキャラ。
古畑任三郎のマネをするわ白玉団子と呼ばれてムキになるわ、かなりはっちゃけていて顔芸まで披露するという新たな一面を見ることができて心からうれしかった。
それだけに第10回公演「ONとOFFのセレナーデ」をうっかり見逃してしまったことを心から深く反省している。
本作はしずえがヒカリからの手紙を読んだ内容がメインキャストによって再現されていくスタイル。
その際しずえは舞台の両サイドに置かれた椅子にシーンごとに座って、中央で行われている芝居の一部始終を観察している。
これがとにかくすごい。
ナオ役の木村望子さんとのコンビネーション、細かい合いの手や間の取り方が実にすばらしいのだ。
そのため、一瞬も見逃せず目が中央とサイドを行ったりきたりと些細なリアクションに目が離せない。
表情も豊かで、早くしゃべったり遅くしゃべったり、これでもかというくらい引き出しが多い。
実に安定感と安心感を覚えるのだ。
もちろん、クライマックスではしんみりと語ってくれる。
この陰と陽のバランスがとってもステキだ。
ちゃっかり最後にキャストみんなと合流するおいしい役どころも彼女らしい。
これからもこの方のたくさんの引き出しを拝見したいと心から思った。
さて、ここからはほかの出演者さんたちのお話も少し。
本公演のキャストは総勢13名。
誰もが決して埋もれることなく、それぞれの色を放っていた。
どのキャラにもステレオタイプが一切なく、演じられる方のスパイスが生かされていてとても良かった。
まずは主人公・北条雷太役の原弘さんによる太刀裁き。
どこからともなく現れて竹刀で窮地を救うシーンはぐっときた。
後述だが病に侵されて死期の近い佐々木記者が終盤、人生を振り返り「何もかもが手遅れだった」と後悔する場面がある。
それを「そんなことはない」と必死に説得する姿に心から涙した。
自分の人生、あとどれくらい元気でいられるんだろう?と考える貴重な機会をくれた。
次にヒロインの廣瀬響乃さん。
「見よ、飛行機の高く飛べるを」で光島延ぶとして女子師範学校を無事卒業し、新庄先生の妻として明治・大正・昭和を一生懸命生きてその生涯を終え、きっと天真爛漫な朝倉ヒカリとして生まれ変わって教師になったんだろうなぁとしみじみ思いながら観ていた。
教師の傍ら女優としても活動しているという設定で、ターミネーターのテーマを口ずさみながら舞台を縦横無尽に動く姿に新たなる廣瀬さんの魅力を感じた。
教頭先生を演じられた光希さん。
「教師と女優、どっちが大事なの?!」とヒカリを叱っておきながら、いやいやあなたが一番女優してるよと突っ込みたくなるほど抜群のキレの良さを発揮されていた。
木村望子さん演じる朝倉ナオもただのおばあさんではなく、最近の芸能ネタにやけにくわしかったりクライマックスあたりの回想シーンで背筋がピンとなったりとそのギャップにやられた。
大河日氣さん演じる丹羽先生はカッコイイのにへなちょこでヘンテコなところが憎めなくて素敵だ。
剣道部の顧問なのに素振りの稽古をさせられてしまうシーンの挙動は見事。
その後、ヒカリとの恋はうまくいったのか気になって仕方ない。
村越大地役の佐藤ケンタさんと佐々木記者役の加藤大騎さんの親子による剣道の決闘。
それまでコミカルな場面が多かっただけに、急に引き締まる場面に驚いた。
最初はヒカリの記事を書くという怪しさ満点の記者・佐々木。
(※ジャポニカ学習帳を手帳に見立てているのはここだけの話)
しかし、本当の目的は息子の大地に会うことだった。
大地は母と自分を捨て、仕事を優先した父が許せない。
今更父親の顔をして近づいてくる佐々木を拒否し続ける。
しかし、その父が肺がんで余命いくばくもないと知ったとき事態は一変する。
実は最も父を理解していたのは最もその父を嫌っていた大地だったことが明らかになる。
佐藤さんの振り絞るような心の叫びが胸を離れない。
加藤さんの人生を振り返る際に見せた哀しみも実に味わい深かった。
親子の決闘は佐々木の体調不良で中止となり、来年に持ち越される。
しかし、佐々木はその時まで生きていられるのか?
もしかしたら家族の愛で延命できるかもしれない。
「続きは来年の決闘でね」という何気ないセリフにいったいどれだけの深さが込められているのか、客席からずーっと考えていた。
田中菜々さん演じる菫は時代小説をこよなく愛する女子高生で、おとなしそうな見た目のわりに思ったことはハッキリと意見する。声も抑えた感じで、決めるところはバシッと決める。
新井利津子さん演じる村越恭子とのまるで本当の親子のようなコンビネーションは見事。
その恭子は前半で明るくおちゃらけたキャラで笑わせてくれたかと思いきや、終盤では重要な役どころになってシリアスな面を見せる。
菫と途中良い感じになりながらも最後は別れを選ぶ騎一郎(西村尚恭さん)の哀愁漂う姿には泣けた。
得意分野を通じてかわいい女の子と仲良くなる姿に”わかるわかる!”と妙に感情移入している自分がいた。
星藍徳仁さん演じる陣八はムードメーカーで、武士の誇りを胸に突っ走る北条の大事なストッパー役として活躍。実に人間らしく、生きるとは何かを教えてくれる。
ファッションセンスの良さもすごい。和服・死に装束・ダウンジャケットなど、服装がマッチしすぎるとともにきっとどの時代でも生きていけるであろう度量の深さを見せてくれた。
なかでもとくに印象に強く残ったのは岡崎良彦さん。
ヒゲを生やした剣道部員・柳生宗太郎。
もうインパクトがすんごいのなんの。
これまで劇場のロビーで数回お見かけはしていたが、まるで別人のように変身されていて、舞台に柳生として登場したときはまさか本人だとは思わなかった(誉め言葉)。
さらに岡崎さんはクライマックスでキーパーソンとなる漁師を演じているのだが、いかにも実在しているって感じで存在感がとてもすごかった。
最後に、ロビーでチケットの対応をしてくださった栗田真衣さん。
そして主宰の原田直樹さん、酒井菜月さんに心から感謝いたします。
来年4月にある、次回公演「ジプシー」も楽しみだ。
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