シナリオ「エイリアンなふたり」第7話
〇××大学・大教室前
T「数日後」
出入口の扉に『企業説明会』の貼り紙。
席はどこもかしこもスーツ姿の学生たちで埋め尽くされている。
扉近くの廊下から室内の様子を見ている私服の英理。
英理「…………」
数歩踏み出し室内へ入ろうとするも、最後の一歩が踏み出せない。
英理「…………」
引き返してしまう英理、廊下を歩き始めると曲がり角から現れた男性とぶつかりそうになる。
英理「……すいません」
大橋の声「危ないじゃないか」
英理が視線を上げると、目の前には大橋。
英理「あ!」
大橋「君は確かこないだの―」
英理「……こんにちは」
大橋「そうか、ここの学生だったか。今から講演だけど観に来るかい?」
英理「…………」
大橋「ま、その格好じゃ答えは出てるみたいだけどね」
英理、自分のラフな服装を見る。
大橋「失礼するよ」
英理「……あの!」
大橋「何だい?」
英理「わたし、わからないんです。ちょっと前まで遊んでいたヒトたちが、いきなりスーツばかりになったから」
大橋「それが就活ってモンだろう」
英理「どうしてみんな同じルックスになれるんですか?」
大橋「会社は学校じゃない。個性よりもルールなんだ。だから、君みたいにパーソナリティを見ろと言われても困る」
英理「…………」
大橋「学生たちが待ってる。失礼」
大橋が歩いて行って、大教室の扉が閉められる。
英理、うつむいて何も言えず―
〇グッドランゲージ××校・教室(夕)
レッスン中の英理とジェニファー。
英理「ブレイクしよう」
ジェニファー「は~い」
英理、カルテにメモをし始める。
ジェニファーはスマホのチェック。
ジェニファー「ねぇ、大学ってどんな感じ?」
英理「……フリーダムかな」
ジェニファー「それって、ダムの一種?」
英理「自由ってこと。でも、リクルートはたいへんだね」
ジェニファー「リクルート?」
英理「みんなスーツばかりだから」
ジェニファー「何だぁ、就職って言ってよ」
英理「リクルートのほうが言いやすいの」
ジェニファー「私もうすぐ卒業だから、そういうの気になるんだよね」
英理「これからはどうするの?」
ジェニファー「う~ん」
英理「グローバルな時代だから英語をしゃべれるようにするんじゃなかった?」
ジェニファー「とりあえず、入会の時にそう言ってみた」
英理「は?」
ジェニファー「そんなの嘘に決まってんじゃん。強いて言えば復讐かな」
英理「フクシュウ?」
ジェニファー「あ、やり返すってことね」
英理「え? リベンジ?」
ジェニファー「(顔が険しくなって) 私さ、母さんをやっつけてやりたいんだよね」
英理「ちょっとジェニファー、そんなことしちゃ―」
ジェニファーが急に英理の耳元で、
ジェニファー「だから先生、手伝って」
英理「そんな―」
真剣な顔つきだったジェニファーが急に笑い出す。
状況が飲み込めない英理。
ジェニファー「な~んてね。本当だと思った?」
英理「は?」
ジェニファーが写真を取り出す。
外国人夫婦と幼い子ども、そして年配の日本女性が写っている。
ジェニファー「私の一番楽しかった頃」
英理「これがあなたの―」
ジェニファー「もうかなり昔のことだけどね。私が子供の頃に両親が別れちゃって」
英理「…………」
ジェニファー「父さんとばあちゃんが私を育ててくれたんだ」
英理「…………」
ジェニファー「でも父さんが亡くなって、ばあちゃんと暮らすようになった」
英理「ママはどうしてるの?」
ジェニファー「海の向こうに帰っちゃった」
英理「…………」
ジェニファー「もうこの歳だし、母さんに思いっきり言ってやりたいの。英語でね」
英理「まさかジェニファー、こないだの飛行機のことって―」
ジェニファー「うん。そのまさか」
英理「いつ?」
ジェニファー「まだ決めてない」
英理「……そう」
ジェニファー「ちゃんと英語を話せるようになるまではこっちにいるから」
英理「…………」
ジェニファー「だから手伝って、お願い。じゃないと私、どうしても―」
英理がゆっくりと手を差し出す。
握手を求めている。
ジェニファー「えっ?」
英理「(ゆっくり頷く)」
ジェニファー「―不思議だよね。これは世界共通だもん」
英理「……そうね」
ジェニファーも差し伸べる。
がっしりと握手を交わす二人。
<第8話へつづく>
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