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俺「そんなはずない!」

驚くしかなかった。
10年目の研修社員・今市為太郎(もしくはいまいちダメだろう)は失礼な冗談を言うやつだと思った。

まさか為太郎さんが俺だなんて。

でも目の前の男は俺にしか見えない。
それに周りは俺だけしか見えていない。

ということは…………本当に彼は――

為太郎「そうだと言っているだろう」
俺「心を読まないでください」
為太郎「僕はキミなんだよ」
俺「…………」
為太郎「正確に言うと、キミの積もり積もったネガティブな感情が僕を生み出したんだ」
俺「ネ、ネガティブって」
為太郎「朝起きるのがつらい。先のことが見えない。人間関係が上手くいかない。手取りが少ない。その他もろもろ」
俺「そ、それは誰だって思うことでしょ」
為太郎「でもキミの場合はとくにひどい」
俺「…………」
為太郎「ちなみに仕事で僕はミスを連発したけど、あれは僕じゃない。ぜーんぶ、キミがやったことだ」
俺「そんな……」
為太郎「キミは自分の行いを客観視していたのさ」

俺はハッとした。
為太郎さんのした行動はすべて自分だった。

じゃあ、あの安心していた日々は?
気持ちの良かった朝は?
束の間の楽しかった休日は?

もう戻らないのか。

為太郎「自分のダメさ加減がよくわかっただろう?」
俺「……ってことは!」
為太郎「僕が辞めるということは消えるということだ。つまり明後日からはキミが僕の立場になるんだ」
俺「待ってください。じゃあ――」
為太郎「その先は言うまでもないだろ」
俺「イヤだ! そんなの」
為太郎「でもそれが現実だから」
俺「やめてくれ!」
為太郎「そしてまた同じ事を繰り返す。この先もきっと」
俺「…………」
為太郎「いいか? キミはこの34年間、ずっと迷惑をかけてきたんだぞ」
俺「それは言われなくてもわかってます! だから周りを傷つけないように必死で頑張ってきたんです。周りさえ迷惑かけなければ俺はどうにでもなってよかった」
為太郎「違う! 周りは関係ない」
俺「は? じゃあ誰に迷惑をかけたって言うんです?!」
為太郎「自分自身にさ。この罪は重い」
俺「え?」
為太郎「幼い頃から周りの期待に応えようと必死で顔色見て育ってきたんだろう? いつの間にかそれが染みついて当たり前になったんだろう? 本当の自分が何なのかわからないから悩んでるんだろう?」
俺「どうしてそれを――」
為太郎「キミは僕だ。これ以上言わせるなよ」
俺「…………」
為太郎「これはキミの人生だろう? キミがキミを生きないでどうするんだ?」
俺「…………」
為太郎「もう周りのために生きるのはやめてくれ」
俺「でもそんなこと言われても、もうこの歳じゃ」
為太郎「言い訳するな! 人間何歳だってやり直せるんだ。それにもうこんなダサいカッコでキミの前に現れたくはない」
俺「……為太郎さん」
為太郎「答えはシンプルさ。キミはずっと自分を犠牲にしてきた、ただそれだけ」
俺「じゃあ自分を大切にしろって言うんですか?」
為太郎「そのとおり」
俺「でもどうすれば――」
為太郎「それは自分で考えることだ」
俺「……はい」

為太郎さんは席を立って、

為太郎「最後にいいかい?」
俺「はい?」
為太郎「何度も似たような店で働くのは何故さ? 向いてないのにどうして繰り返すんだ」
俺「自分を……変えたかったから」
為太郎「え?」
俺「出来なくて諦めた自分を変えたかったから」
為太郎「…………」

為太郎さんに先ほどの邪気はなかった。

為太郎「そろそろ時間だ」
俺「為太郎さん!」
為太郎「次にキミに会うときはもっと自信に満ちた若々しいイケメンな姿がいいなぁ」

それが為太郎さんの最後の言葉だった。

そして彼は姿を消した。

<最終日へつづく>

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