劇団燦グリア第8回公演 カメレオン賛歌 生配信視聴
はじめに
久しぶりの舞台レポートになります。
舞台を観るのは2月に行われた吉祥寺GORILLA様の公演「グロサリー」以来、実に9か月ぶり。
今回、観覧にあたり初めて経験したこと。
それは”生配信視聴“です。
なので、観られるのはその公演時間中だけ。
本作には舞台観覧、生配信視聴、アーカイブ視聴の3つがありました。
生配信視聴を選んだのは以下の理由からです。
まず舞台観覧は収容可能人数がわずかであり、しかもすでに満員だったため断念。
次にアーカイブ視聴は、期限内にいつでも観られる安心感や簡単に巻き戻し・早送りできる点からこちらの気が緩んでしまうことを恐れて外しました。
観る側としては作る側・演じる側のみなぎるパワーを真正面から受け止めたいのです。
目の前の一瞬一瞬を大事にしたい!!
そのため、見落としがないように食い入るように画面越しで生配信を見ておりました(笑)
キャスト・スタッフ
大野誠
演出家・両角宏貴
上村南美
バーのマスター・相田咲乃
松田恵利華
ジュリア役・宮沢琴美
森崎真帆
真紀役・岩佐香織
藤井雅文
バンドマンのYASU役・北岡裕也
浦田有
マネージャー役・鴨志田千佳
野島大貴
見習いバーテンダー…内田一志
・・・・・・・・・・
照明
植島くるみ
鈴木伽蓮
音楽
高城香那
脚本・演出
湯川史樹
出典:劇団燦グリア様
あらすじ
物語の舞台は、とあるバー。
大物女優・ジュリアが女性マネージャーとカウンターに座っている。
そこへバンドマンのYASUが現れてジュリアに一目惚れ。
ハートを撃ち抜かれた音とともに彼は歌い出し、ミュージカルが始まりを告げる。
ところが後からやって来た渋めの男性が急に怒鳴りだす。
「ダメだダメだ! やり直し!」
「おい、この役はどんな設定だ? お前はどういう気持ちでそのセリフを言ってる!?」
そう、これは劇中劇。
役者がそれぞれの役を演じているのだ。
先ほど怒鳴ったのはこの劇の演出家・両角宏貴。
彼は演劇にストイックな性格ゆえに少しの違和感も見逃すことができない。
とくに若い役者の挙動が彼の頭を悩ませる。
ジュリア役の宮沢琴美は小心者でメモ魔。
両角の演劇論を書き写すことに必死なあまり、実践のほうが疎かになりがち。
YASU役の北岡裕也は役に気持ちが乗らない。
売り出し中の若手イケメン俳優で、演劇の仕事は他にもあると思っている。
おまけに世代の違いかスパルタ的指導についていけない。
さらには照明の植島や音響の湯川にまでタイミングのズレを指摘して厳しくあたる始末だ。
かつて両角は若い頃に国内で大成功を収めたのち、海外へ進出するも失敗に終わっていた。
失意の帰国をした彼は紆余曲折を経て、久しぶりに公演することになったのだ。
舞台に選んだのはマスターの相田咲乃が経営するバー。
咲乃は両角の別れた女房だった。
バーで交錯する訳ありな人間関係とトラブル続きのリハーサル。
もともと男性役のバーテンダーを元女優の咲乃が代理で務め、演出助手の岩佐香織が何とか場を和ませようと奮起している大変な現状。
そんな折、両角からの厳しい指導に北岡がとうとう我慢できず「降りる」と言って出て行ってしまう。
すでに3人のキャストが両角とぶつかって降板していた矢先の出来事。
果たして彼の公演は成功するのだろうか?
印象に残ったところ
ネタバレを含みます
中盤過ぎ、両角が北岡と語り合うシーンにて。
両角が本作のタイトルであるカメレオンと俳優にちなんだ話をします。
両角「カメレオン俳優っているだろ? 役に憑依する役者のことだ。俳優には2種類あって、自分に役を寄せる者と役に自分を寄せる者がいる。前者がキムタクなら、後者は山田孝之といったところだな」
役に憑依する役者をカメレオンに見立て、俳優とは何か?演劇とは何か?を語るところに感動しました。
何より以前からずっと思っていたことがまさか舞台のセリフに出てくるとは思わず、同じことを考えている方がいて嬉しさを噛み締めておりました。
私は後者の”役に自分を寄せていく俳優”のほうが好きで、私の琴線に触れる役者さんたちは役に成っている方がほとんど。
そのため、素に戻ったときとのギャップに驚いてばかりです。
両角「役者の個性は人生そのもの。いろんな経験をしてきた分、与えられた役にそれらを活かせる仕事は他に見当たらない」
ひとりとして同じ役者はいない。
それは誰ひとり他と同じ者がいないから。
生きていれば、辛い経験はいつか活きる。
カメレオンは繊細な生物。
温度や湿度が高すぎても低すぎてもダメ。
鳴きもしないし、攻撃する術もない。
おまけにストレスも貯めやすい。
役者にも同じことが言えるのではないか?
役者さんの不幸を目にすることが多い今年、演劇界へのタイムリーなメッセージだと受け取りました。
化けるという意味だけでなく、生態までカメレオンが役者に通ずることを教えてくださる主宰・湯川史樹さんの素晴らしいセンスに脱帽いたしました。
テーマとは関係ありませんが、描き方がすごいと思ったのが別の店から借り物に来る見習いバーテンダーの内田一志。
コメディリリーフとして存在感を発揮されており、初めて出てきた時から劇中のバーテンダー役になるだろうと思ってはいましたが、ルックスと声がよく演劇の経験がなくても器用にこなせてしまう辺り、現にそういう人いる!と思わずにはいられませんでした。
演劇界が直面する問題
本作にはもうふたつ隠されたテーマがあります。
ひとつは、演劇人が目にする現実。
後に女性マネージャー役として公演に出る客・鴨志田千佳はかつて早稲田の演劇で活動していたという設定で、「周りのメンバーは現実を見て役者を辞めていき、安定した仕事に就いて家庭を築いている」とボヤきます。
彼女もまた、普通の生活を送っています。
今回の公演で一度だけ役者に戻ったものの、再び続けることはないと言います。
きらめいて見える演劇の世界。
しかし、その道で食っていけるのは一握り。
スポットライトを浴びる快感を知った者にとっては残酷なものです。
さらにそこへ今年のコロナ騒動と来て、演劇はさらに窮地へ追い込まれているに違いありません。
11月現在も舞台の規制は厳しく、現場関係者は頭を悩ませていると聞きます。
これまで現場でいろんな個性や味を持つ役者さんたちを拝見することを楽しみにしていた自分も、生の舞台を観られず現場の空気を肌で感じられず、何より直接お会いできないことが悔しいです。
今年が演劇界にとってひとつのターニングポイントになることは間違いありません。
数多くの劇団が混迷する中、こうしてリアルタイムの舞台を画面越しでも観られることにジーンと来るものがありました。
もうひとつは、世代間の価値観の違いと確執。
後半で、両角は若手役者たちに従来の厳しい指導をした後に慌ててフォローする一面を見せるようになります。
これは元妻・咲乃からのアドバイスによるものですが、若き日の両角と今の若い世代の役者では現場の環境が違うのです。
昔の役者さんたちは厳しい環境の下、何とか芝居に磨きをかけて上手くなっていったのだと思います。
それは今のように機材や情報機器が充実しておらず、自分たちの頭を使って手探りで開拓していったためでしょう。
題材の詳細や歴史を調べ、舞台の土地を歩き、たくさんの書物を読み、いろんな感情を表現すべく試行錯誤したはずです。
テレビや映画や舞台に出るのも狭き門で大変だったでしょう。
ところが技術の進歩とともに何でも個人で情報を発信することが可能な時代になり、今は誰でも自分の姿や声を撮って全世界に公開できます。
自分たちがチャンネルを持ってしまったのです。
もちろん発信する側にとっては有利なことですが、その分主観的な視野に陥りやすくなりました。
物事の本質を深く追求するよりも、自分を周りにどうよく見せるかが重要になったことで客観的な目や意見が減少していき、個人の承認欲求をより強くしているように思えるのです。
例えば、両角のスパルタ指導のシーンについて。
おそらく彼は若手役者に芝居の本質に気づいてほしくて、演じる役の人となりを理解してほしくて、作品を良いものにしたくて叱っている。
ところが若い世代にすると相手から承認されず、自分という存在が否定されて怒られたと思ってしまう。
そのズレがこれからの課題だと私は感じます。
しかし、一概に昔が良くて今が悪いと言い切れないのも事実です。
これまでとは違った新しい芸術のかたちを表現する人たちが現れる可能性が増えたことや、昔ながらの厳しいやり方で押しつけられたことで心が参ってしまうことが現に数多く起きているからです。
100か0または白か黒ですべてが決められないように、人も物事もグレーの中に正解があるのかもしれません。
生配信視聴を経験して
舞台を観られたこと、役者さんたちのお姿を拝見できたことが何よりうれしいです。
気になった点はふたつあり、
・カメラのアングルが決められていること
・あらかじめ観る箇所が決まっていること
2つのカメラを切り替えながら、俯瞰と左右に動かして全景を補うイメージです。
ここだけの話、私は舞台を拝見するときに誰も見てないところをじっくり観たいという悪い癖を持っております。
小道具やセリフを言ってない人たちの表情や動き、どんな引き出しで役に成っているかなどを味わうのが生観覧の醍醐味なので、カメラに映っていないところを想像することに徹しましたが、やはり奥が深すぎて難しかったです。
さらに舞台が実際のバーだったため、店内のスペースを考慮して観覧された方々がフェイスシールドにマスクをされておりました。
一日も早く平穏な日々が戻ることを心から祈るばかりです。
観覧までの経緯
本来であれば3月に公演する予定だった本作。
主宰の湯川さんがカーテンコールの後に感慨深く公演までの長い道のりを語られておりました。
実は「グロサリー」の後、この「カメレオン賛歌」を観る予定でした。
ところが例の騒動で舞台が中止になり、自粛ムードも重なって舞台への足取りも気持ちも遠のいておりました。
そんな先月末のこと、私宛てに公演を知らせるメールが。
演出助手・岩佐香織役の森崎真帆さんからでした。
実は来年制作するボイスドラマにご出演頂きたくオファーを出した役者さん十数名のうちのひとりが森崎さんで、その際に記した「グロサリー」の次に観に行く予定だった旨の文面を覚えていてくださったのです。
おかげで舞台観覧へ心を引き戻してくださり、誠に感謝しかありません。
森崎さんが「湯川さんは普段から役者に対して本当にリスペクトをもって接していてくれていて、本作は役者へリスペクトとエールが詰まった作品だと思います」と語っておりました。
スーパーマーケットのリアルにいそうな女子大生店員からムードメーカーで頑張り屋の演出助手へ姿を変えた今作。
カウンターと客席を何度も行き来しながら2つの役のセリフを言ったり、キレのあるダンスと素敵な歌声を披露したりする森崎さんの新たな一面を拝見できたことが心からうれしかったです。
新しい観覧様式にはなるものの、これからも舞台の役者さんたちと交流ができる日々を楽しみにしながら筆を執り続けていきます。
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