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〇東京・新宿(夜)
出版社から出て来る記者の宇加賀井益代(うかがいますよ)。
人混みに紛れ歩いている。

益代「あれ?」

とある建物へ入って行くひとりの男を目で追う。
見上げる益代、『ひとりカラオケ』のネオンライト。

〇ひとりカラオケ・廊下(夜)
益代がひと部屋ずつ室内の様子をチェックしていく。
ひとりで熱唱している人々。

と、ある部屋の前で立ち止まる。
先ほどの男がいる。

益代「ここで何やってるの」
スダ「あれ、益代さん!」

その男は物書き・スダである。
彼はマイクも持たず、ボーっとディスプレイを眺めている。
流れているカラオケ映像。

益代「ここ、カラオケでしょ?歌わないでなにやってんの?」
スダ「シナリオの勉強です」
益代「は?」
スダ「とりあえず中へどうぞ」

益代が室内へ。

〇同・室内(夜)
机の上にはノートがあり、シーンを分析したような走り書きが見える。

益代「てか、ここめっちゃせまっ」
スダ「ひとりカラオケですから」
益代「椅子もひとつしかないし」
スダ「ひとりカラオケですから。あ、あとで室料もらいますからね」
益代「すぐ帰るし!」
スダ「それよりなぜ歌わないか気になります?」
益代「オンチなんでしょ」
スダ「まさか!」
益代「じゃあなにか歌いなよ」
スダ「喉を傷めるので、キーを下げてなるべく低い声で歌いますね」
益代「ボーカリスト気取ってんじゃないよ」
スダ「ってのは冗談で、これは今回のテーマに関わる大事なことなんです」
益代「約1か月ぶりの宇加賀井益代が伺いますよ」
スダ「カラオケ映像とはセリフのない短編ドラマなんです」

セリフがないから意味がある

益代「短編ドラマ?」
スダ「カラオケは歌うことに集中できるようドラマ風の映像を流しているわけなんですが、注目してほしいのは”声がない”というところ。登場人物のジェスチャーや表情でどんなシーンなのかを教えてくれるんです」
益代「ふつうは歌詞のテロップばっか目が行くわ」
スダ「むしろそれが自然ですよ」
益代「ってことはアンタが異常なのね」
スダ「そこは否定しません」
益代「ま、物書きは変人が多いから」
スダ「こないだ地元の親友とカラオケで歌ってたら、ふと今回のネタを思いついたんです」
益代「そんなことだろうと思った」
スダ「話を戻しましょう。シナリオにはセリフがあります。しかしなかには嫌われてしまうセリフがあります」
益代「なになに?」
スダ「それは説明ゼリフです。目で見ればわかることをいちいち言葉で説明されても観る側は「は?」となってしまいます。なので人物の動きや表情で視聴者に気持ちを悟らせることが求められるんです」

益代が黙り込む。
スダ、首を傾げる。

スダ「どうしました?」
益代「あれ、伝わんない?」
スダ「……は?」
益代「心で念じたんだけど」
スダ「まさかのテレパシーですか!」
益代「でもしゃべれないんじゃいろいろと制限されるわね」
スダ「だからこそ意味があるんですね」
益代「え?」
スダ「制限されてしまうことは一見不自由に思えます。しかし大事なのはそれを逆手に取ることです。言葉が使えなければどうキャラクターに表現をさせればいいかを考えるんです。ライターはここが一番の腕の見せ所になります」
益代「上手い作家さんは目の動きや体の反応で感情を表してるのね」
スダ「そういうことです。なお、人生も物事も置かれた不利な状況をどう有利に生かすかが求められています」
益代「たとえ隣の芝生が青く見えても気にしないってことね」
スダ「自分に備わっているものをどう生かすかが人生の鍵になります。いちいち落ち込んでいるうちに人生終わってしまったら元も子もありませんから」

声がなくても映像は成立する

スダ「たとえば男女カップルがお互い冷めた顔でそっぽを向いているような映像があったら」
益代「倦怠期のシーン」
スダ「たとえば女子高生がラブレターを後ろ手にモジモジしていたら」
益代「初恋のシーン」
スダ「というように説明しなくても誰が何をしようとしているのか、どんな状況にあるのかを映像で見せることが大事です」
益代「ところでアンタ、どれだけ映像見てたの」

益代、カラオケの履歴を見る。

益代「ミスチルと古内東子がほとんどね」
スダ「僕の人生の応援歌ですから。それに好きなアーティストさんに印税が少しでも多く入れば今後も活動して頂けますし」
益代「ポロっと現実的なこと言うわね」
スダ「食ってくためのお金は大切ですから」
益代「それにしても意外とラブソングが好きなのね」
スダ「ラブソングにはその人の視点や感情が如実に出ます」
益代「体験談を作品にする人っているよね」
スダ「この世の歌のほとんどはラブソングだと言われてます。そのラブソングなら学生同士の淡い恋なのか、大人のロマンティックな恋なのか、バレてはならない不倫なのか、愛した亡き人を思い出しているのか、はたまた心変わりで終わりゆく愛なのか。同じラブソングでもこんなにも物語があるんです」
益代「その分、声なき映像もあると」
スダ「ですがここだけの話、内容が似ている曲を選ぶと映像もほとんど同じなことがあります」
益代「それ、わかる」
スダ「ここで気分転換しましょう」

スダ、夏のヒットソングを転送する。

海辺の映像。
水着姿の若い女性が現れる。

スダ「夏にまつわる歌はスタイルの良いビキニ姿のお姉さんが浜辺を歩く映像で―」

と、益代が演奏を停止する。

スダ「あ、ちょっと!!」
益代「今度はアタシの番よ」
スダ「は?」
益代「1曲歌わせなさい」
スダ「イヤな予感……」

〇同・部屋の前(夜)
ドア越しに見える室内。
ノリノリで歌っている益代。
苦しい顔のスダが耳を塞いでいる。
その歌声は廊下までは聞こえない。

<つづく>

このシナリオはフィクションです。

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