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夜の街中で大きなバッグを抱えて力いっぱいに走っている男。

ハジメである。
すれ違う通行人が驚いている。

あの日の夜、オレは走った。
とにかく走った。
走って、走って、走った。

どうしてずっと走り続けていたかまでは覚えていない。

ただ不思議と息は上がらなかった。
そしてなぜか疲れなかった。

現在の梶野家。
ハジメの義父・芯太郎の部屋にて。

ハジメ「義父さんはどうやって実家を出られたんですか?」
芯太郎「…………」
ハジメ「かつてのオレがそうだったように、義父さんも実家を出られたんですよね?」
芯太郎「子供の頃から掃除が好きだった。家族だけじゃなく家だって生き物だ、カビが生えたら汚れるし、ホコリが溜まったら健康に害を及ぼすだろう?そんなことを考えながら、家を綺麗にすることでよく心が温かくなったもんだ」
ハジメ「……信じられない」
芯太郎「学校では家庭科がいちばん得意だった。料理も裁縫もお手の物で、クラスの女子たちより上手く出来た」
ハジメ「へえ……」
芯太郎「社会人になって家事代行の仕事に就いた。でも当時は今と違って男は僕だけでね、いろいろ白い目で見られたよ」
ハジメ「…………」
芯太郎「そんなある日、とある家から家事代行を頼まれてね」
ハジメ「まさか……梶野家?」
芯太郎「そう。後の義父・辰吉郎さんが体調を崩して寝込んだんだ。それで娘さんからお願いされてね」
ハジメ「義母さんとはその時……」
芯太郎「勝代は僕の家事を見よう見まねでマスターしようと頑張っていた。でも会社の経営の合間を縫って朝から晩まで家事をするのは体力的にも大変だ。それで僕はここに婿入りすることに決めたのさ」
ハジメ「…………」
芯太郎「それに会社員の僕の給料より勝代のほうが稼いでいた。だから僕は勝代に仕事へ専念してほしいとお願いしたんだ」
ハジメ「そうだったんですか」
芯太郎「まさしくかかあ天下だな」
ハジメ「あれ?かかあ天下って亭主関白の反対語ですよね?夫を尻に敷く強い妻って意味で」
芯太郎「君は勉強不足だな。本来はうちのかかあは働き者で天下一って意味だよ」
ハジメ「勉強になります。え?となると、よく実家の両親は反対しなかったですね」
芯太郎「いやいや、もちろんされたさ。でも僕は勝代を支える道を選んだ。自ら世話になった実家と縁を切ったんだ、戻るなんて卑怯なことはしない。もう帰らないと決めたんだ。だからもう帰る場所はどこにもない」
ハジメ「……義父さん」

家事のハジメさんがログインしました。

若宮家のハジメの部屋。
スマホには実乃里との2ショット。
棚の上には両親との3ショット。

しばらく頭を抱えていたハジメはやがて決心したのか、立ち上がる。

リビング。
テーブルの上にカレーが並ぶ。
ハジメの父・亮助が待っている。
席に着く母の圭子。

圭子「ハジメは?」
亮助「さあ」
圭子「まだ部屋かしら」

と、物音がする。
何かを感じ取る圭子が音のした方へ急いで向かう。
玄関で靴を履くハジメ、その傍らには大きなバッグ。

圭子「どこ行くの?」
ハジメ「…………」
圭子「待ちなさい!」

慌てて亮助もやってきて、

亮助「ハジメ、お前!」
ハジメ「ごめん。やっぱりオレ、あきらめきれないんだ」
亮助「おい!」

出て行ってしまうハジメ。
圭子と亮助はその場から動けない。
玄関ドアの閉まる音が空しく響く。

街の中を走るハジメ。

オレは走った。
とにかく走った。
走って、走って、走った。

家事のハジメさんがログオフしました。

芯太郎「あれから帰ったのか?」
ハジメ「はい?」
芯太郎「実家だよ」
ハジメ「……いいえ」
芯太郎「そうか」
ハジメ「オレも実乃里を支えると決めたんで」
芯太郎「…………」

芯太郎が時計を見て、

芯太郎「今日の夕食当番は君だね」
ハジメ「はい」
芯太郎「メニューは?」
ハジメ「もう決まってます」
芯太郎「そうか」

キッチンに立つハジメ。
まだおぼつかないが、調理していく。

・肉 200g
・ニンジン 小1本(100g)
・たまねぎ 中1と1/2個(300g)
・ルウ 1/2箱
・エビ 8尾
・イカ 300g
・じゃがいも(少量)

あの日の夜と同じレシピ。
鍋の中、カレーがコトコトと音を立てる。

<episode10へつづく>

どうも、家事のハジメです。
いつも読んで頂き感謝感激です♪
前回までのブログは下のリンクから読めますので、どうぞご覧ください!

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