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『1件のメッセージがあります』

その送り主を見てハジメは驚いた。
何と母・圭子からだった。

『近くまで来てるけど会える?』

若宮ハジメが家事のハジメとして梶野家に婿入りしてから一度も両親は連絡をしなかった。
いや、正確には連絡できなかった。

自分の意思で婿入りをした息子を止めたとしても、彼は戻らないとわかっていたからだ。
まさに断腸の思いでふたりは受け入れた。

またハジメも両親を半ば捨てる形で家を出たのだ。
親子の間に出来た溝はまだ埋まらない。

婿入り主夫になった数か月前の夜、

“決して実家に帰らない”

彼は心にそう誓ったのだ。
しかし突然のことで驚きを隠せない。

厳しい義父・芯太郎はお出かけ中。
つまり今は彼ひとりだけ。

埼玉の実家には帰らない。
でも外で会うならば問題ない。
要は”言葉のあや”だ。

そう彼が自分に理由を作って言い聞かせていると、帰るべき梶野家とは反対方向へ足が動いていた。

待ち合わせのカフェ。
ハジメがおそるおそる入店する。

懐かしい顔がそこにあった。

圭子は梶野家から数駅先にある大型百貨店でショッピングしたらしい。
たまにやるストレス発散方法だ。
おかげで椅子を買い物袋が占拠している。

圭子「会社のほうはどう?」
ハジメ「……相変わらず」

母さんはオレが倒れたことを知らない。
ホッとした。
それもそのはず、連絡しないでほしいとあれほど周りに頼んだのだから。

圭子「ということは、実乃里ちゃんに家事まかせっきりなのね」
ハジメ「う、うん」
圭子「ダメよ、たまには大事な奥さん休ませなきゃ」
ハジメ「わかってる」

『オレがその家事をやってるんだけど』

圭子「今も朝から晩まで働き詰めか」
ハジメ「まあね」
圭子「早く昇進できればいいけど」
ハジメ「……そうだね」

『それはこないだ実乃里が実現させたよ』

圭子「向こうの義父さん、優しそうね」
ハジメ「そ、そうかな?」
圭子「なんか暖かいオーラが出てる」

『母さん、それは違う。全然違う』

助けてくれ。
心の声が今にも声に出そうだ(汗)
……あれ、待てよ?

ハジメ「ん?」
圭子「どうかした?」
ハジメ「ねえ、母さんはどうして義父さんの顔を知ってるの?」
圭子「!!」
ハジメ「オレが勝手に向こうへ婿入りしたんだよ?確か一度も両親同士は顔合わせしてないはず」
圭子「……ちょっとお手洗いに」

立ち上がった圭子がテーブルにぶつかる。
その拍子にコーヒーがこぼれてしまう。
ハジメはその瞬間を見逃さない。

すかさずダスターを取りに行き、テーブルの上をスムーズに拭いていく。
彼の対応はまるでベテラン店員のよう。
その様子に驚く圭子。

圭子「どうしちゃったの?」
ハジメ「え?」
圭子「前のハジメならそんなことはしなかった」
ハジメ「(ハッとして)!!」
圭子「向こうで何かあったのね」
ハジメ「これはその……」
圭子「何年あなたの親をやってると思う?」
ハジメ「……………」
圭子「少しは気がつくようになったのね」
ハジメ「家が都内になったし、前より会社が近くなったから時間の余裕も出来た。だから実乃里の家事の手伝いしながら、いろいろと勉強してるよ」
圭子「……そう」

『ウソに決まってるだろう』

心が苦しい。
嘘も方便だなんていうが、あれは嘘だ。
嘘は身も心も傷つける。

何とかしないと。

と、突然圭子が泣き出す。

ハジメ「……母さん?」
圭子「体調はもう平気なの?」
ハジメ「どうしてそれを……」
圭子「ハジメにはずっと隠しておこうと思ったけどもう限界」
ハジメ「知ってたのか」
圭子「芯太郎さんが連絡をくれたの」
ハジメ「義父さんが?!」
圭子「心配だからあの日、パパと一緒に病院へ行ったの。でも……声はかけられなかった。だって、声をかけたりしたらハジメはきっと迷惑がるに違いないって。だからずっと廊下からあなたを見ることしかできなかった」
ハジメ「そんな……」
圭子「子を想わない親はいないよ」
ハジメ「…………」
圭子「私は一日だってあなたを想わないことはなかった。だって私から生まれきてくれた大事な子なんだもの」
ハジメ「…………」

ハジメがコーヒーを一口飲んで、

ハジメ「変だなって思ってたんだ」
圭子「え?」
ハジメ「今日は平日。普通ならオレは会社で働いてるはずなのにって」
圭子「…………」
ハジメ「父さんにこのことは?」
圭子「もちろん内緒よ」
ハジメ「……そうか」
圭子「バレたら怒られちゃう」
ハジメ「父さん、意外と頑固だからな」
圭子「そうね」

腕時計を見た。
義父の帰宅時間まであと少し。

ハジメ「あ、そろそろ行かないと」
圭子「ねえ、ハジメ」
ハジメ「ん?」
圭子「何か私に隠してることない?」

『主夫として日々頑張っているよ』

それは言わなかった。
いや、言えなかった。

オレが主夫と知ったら、
母さんはどんな反応をするだろう。
それがどうしても恐かった。

ハジメ「……ううん、ないよ」
圭子「そう」

そしてハジメは店を出た。

雨が降り出してきた。
まずい、早く帰らないと!

ハジメは走り出した。

ちょうど同じころ、梶野家の前。
芯太郎が帰って来る。
手にはメガネショップのギフトバッグ。
ハジメの後輩・沼川広樹と新作のサングラスを買ったらしい。

芯太郎「ん?」

家には誰もいない。

芯太郎「ハジメ君?」

<episode21へつづく>

どうも、家事のハジメこと梶野ハジメです。
いつも読んで頂き、感謝感激です♪
前回までのブログは下のリンクから読めますので、どうぞご覧ください!
勝手にサブタイトルも付けました(笑)

登場人物
プロローグ
episode1 すべての始まり
episode2 ハイスピード草むしり
episode3 覚えてない、覚えてる
episode4 コーンフレークは硬めで
episode5 親の言い分 子の言い分
episode6 招かれざるヤツ現る!
episode7 オレの頭の上の避雷針
episode8 迫られる二者択一
episode9 義父の過去と実母のカレー
episode10 新婚写真のおもひで
episode11 妻と義母の食欲は成人男性並み
episode12 ハジメが倒れる3日前
episode13 罪滅ぼしの徹夜
episode14 点滴と家族と夕暮れと
episode15 義父からの看病
episode16 慣れない手つきで大ヤケド
episode17 主夫宣告
episode18 梶野ハジメ改め家事のハジメ
episode19 家事と筋トレの関係性

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